第49条の2「令状請求」
私が教会事務所に行くと、エレフテリア教会長が神妙な面持ちで待ってくれていた。
「ガラテアさんは大丈夫そうですか。」
「はい。
フェービ教会補佐が話して落ち着かせてくれました。
彼女の働きには感謝の限りです。」
「それは良かったです。
で、ガラテアさんのお母様のことですが、彼女もある意味被害者かもしれません。」
「というと?」
「ガラテアさんのお母様はモナさんと言います。
子供が5名おり、ガラテアさんは末っ子だそうです。
ご主人は先の戦争で亡くなられたそうですわ。
戦争で亡くなられた方の遺族には慰励金が一時的に支払われますの。
それでも、ドワーフの女性が5名を食べさせていくのは厳しいのはわかります。
特にモナさんは年齢も相まって女性特有の仕事もできませんし。
慰励金は4年で無くなり、どうしようか考えていたところに、エルマーリ工会で子供も働くことができるという噂を聞いたらしいですわ。
そこで、エルマーリ工会に行って説明を聞いたら『衣食住をこちらで負担します。また、引取金で100万ドラクお支払いします。働きによっては別途お金をお支払いすることもあります。』とクリストドゥロス会長から言われたそうですわ。
実際100万ドラクは支払われましたが、それ以上は何もうけとっていないと。
むしろ、今朝方、ドーラ様が屈強なオークを2名連れて、自宅までこられて、ガラテアさんが逃げたから50万ドラク返還するように求められたそうですわ。」
「エルマーリ工会の動きが早い。
あながち逃げたらお母さんがひどい目にあうというのは、嘘ではなかったんですね。
しかしそれでも、ガラテアは死んだと教会に報告していた件は?」
「それもクリストドゥロス会長の入れ知恵だそうで。
そう言えば追及はされないということで。」
「わかりました。
ガラテアさんの処置と母親の対応はお任せします。」
「えぐち様はどうなされますの?」
「警邏隊に行って、話を聞いて、エルマーリ工会に突撃します。」
「わかりました。どうかご無事で。」
遅めの昼を食べて、警邏隊に向かった。
ミハリスを保護したのが昨日だから、まだ情報が集まっていない可能性が高い。
そこで何も出なくても、すでにエルマーリ工会に行くには十分な情報は得ている。
「どうでした?」
「ミハリスさんの奥さん、元々エルピダ商会が誘拐して売ったのは確認取れてたんです。
でもその先が……。」
「見つからんか。」
「はい。」
「大丈夫。予想通り。
さて、エルマーリ工会に行きましょうかね。」
「え?まだ情報がなくないですか?」
「ガラテアさんのことがあれば充分。
情報不足でもことは急を要するから突っ込むしか無いよね。竹槍で行くってやつ。」
「え?たけやり?」
「竹って植物で出来た槍の事だよ。」
「え、そんなの弱くないですか?」
「大本営に言ってあげて。
さて、冗談はさておき、カーラさん。フェービ補佐を。」
「もう他の人にお願いしてます。」
「さっすがぁ。
そしたら先ずはカッサーラ所に戻って資料持って行きますかね。
資料整理が終わったという体で。」
程なくしてフェービ補佐と合流、エルマーリ工会に着いてクリストドゥロス会長を呼び出し対応してもらった。
「今日は書類をお返しに来たのですがそれよりも。
昨日、エルマーリ工会で働く11歳の女の子を保護したと教会からしらせがありました。
聞けば先日たまたま声掛けをしたガラテアさんだと言うでは無いですか。
これは使用する労働者の最低年齢を下回るものですよ?」
「そんな子が働いていたとは初耳ですねぇ。
今、返してもらった書類にもそんな子の名前は載ってませんからねぇ。」
「知らぬ間に知らない子が働いていたと?」
「会長だからと言って全員の名前を把握してるわけじゃあないですからねぇ。」
「だから給料も払ってないと?」
「そうなんですか!?
それが本当ならとてもよろしくないことです。すぐに払わせないとですねぇ。
そうだ!その子に取りに来てもらうかお母様にお渡しするかしましょう。」
あり得ない言い訳に、私の手と顎が震える。
憎しみか。怒りか。
ぐちゃぐちゃの感情が心を支配する。
だから敢えて理性的に考えようと試みた。
確かに社長がそこで働いてる労働者を全て把握しているとは限らないので知らない労働者がいてもおかしくはないし、ほんとにそういう人が居たこともある。
が、今回はガラテアとその母親の話を信じるならば全て嘘だ。
ただ、年齢を知らなかった可能性は確かにある。
だから15歳以上、18歳未満を雇う時は年齢証明が必要になるのか、とかも思いつつ。
クリストドゥロス会長の否認にどう対処するべきか凄まじい速度で考える。
とりあえず会わせるのは無しだ。
そこでどんな言いくるめをさせられるかわかったもんじゃない。
さらに、ここで是正勧告書を出さずにいきなり処罰というのも悩ましい。
なぜなら、罰を与えても労働者に支払われなかった給料が支払われる訳では無いし、極論言ったら強制労働させられている方々が解放されるわけでもない。
重大悪質な法違反は送検手続きを。
日本でのこの方針に基づくなら、11歳の女の子を強制労働させておいて、文書を渡してお金出してはい終わり、も無理だな。
さらに否認しており再犯可能性も高い。
そう思い、私は心を決めた。
クリストドゥロス会長は裁判によって裁かれるべきだ。
日本でもそうだが、監督官に事実を決める権限はない。
知らなかったと言い張る事業主に対して知ってたと決めつけることはできない。
それができるのは裁判所だけだ。
だから、知ってたと言えるだけの証拠を集めて裁いてもらう。
「そうですか。なら帰ってどうするか聞いてみますね。」
罪証隠滅しないように信じるふりをしてみたが、騙せた気はしていない。
「えぇえぇ。こちらも誰がそのようなことをさせたのか調べておきますから。」
わたしの演技にクリストドゥロス会長は乗っかってみせたので、ぜひ、それは大事なことです、とさらに乗っかって作り笑いであとにした。
「カリカ。」
「はい。」
「こないだ、感情と仕事は切り分けるみたいな偉そうな話したけど、無理だわ。
あいつ絶対許さない。」
「私もです。どうしますか?」
「警邏隊の話がまだだけど、裁判隊にかけあって、逮捕の許可もらうわ。」




