表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/100

第45条の1「罰則規定」

「あ、どうも。突然すみません。クリストドゥロス会長居ますか?」

「なんだい!約束もせずに急に来おって、どういうつもりだい!」


 ドーラさんの対応は初手激昂。

 なかなかやるな、と思いつつ、こちらは冷静に非を認めて話をした。


「すみません。どうしても急ぎお伝えしたいことがあって。」

「なんだいまったく。会長なら今は居ないよ。何の用だい。」

「それだったら、ご伝言をお願いしますね。

 預かってた資料の分析に時間がかかっているので、お返しするのにもうちょっとお時間ください、と。」

「なんだいそんなことかいまったく。

 いいよ持っておきなよ。」

「あと、もう一個。

 今いる方々にもう一回お名前聞いていいですか?

 どうも前回居なかった方がちらほら居るようで。」

「ふざけるんじゃないよ!!

 前回聞いてるじゃないか!

 なんの必要があるんだい!仕事の邪魔をしにきたのかいまったく。」

「すみません。こちらも確認すべき事項なので。」

「確認すべきぃ??

 会長が居ないからわたしゃなんも言えないよ。

 さ、帰った帰った。」

「数分で終わりますので、ね。ぜひ。」

「わたしゃ許可できないよ。

 無許可でやるなら勝手にやんな。」

「そう言わずに。よろしいですかね。」

「だから、許可できないんだよ!

 わかってんのかいまったく。」


 しばらくの間同じ問答を繰り返したが、どうしても許可が出なかったので、その場は帰ることに決めた。


「そうですか無理ですか。わかりました。

 また今度クリストドゥロス会長がいらっしゃるときに確認します。

 では失礼します。」


 帰り道でカリカが不思議そうな顔をして私に話を聞いてきた。


「なんで労働者への尋問権限があるのにしなかったんですか?

 拒否したら罰があるんですよね?」

「強制的にできる、ということまでは言えないからね。」

「ん?」

「調査を拒否したら罰する、ということと、相手の意思を抑圧して調査する、ということは同義じゃないんだ。

 我々には相手の意思を抑圧する権限はない。

 身体を拘束して話を聞くのは、裁判隊に報告が居るだろう?

 それは監督隊でも同じなんだよ。」

「でも、今回は労働者に話を聞くわけで、ドーラさんが拒否したからと言って、労働者の意思を抑圧している、ということにはならく無いですか?」

「ドーラさんの意思には反しているよね。

 反するということは広義では抑圧となりかねないからね。」

「でもそれじゃ何の意味も……!」

「私たちの存在意義に意味はない?

 そんなことはない。やれる限りのことはたくさんある。

 それに、おそらく今回は証拠を集めて裁判隊を説得して身体を拘束するしかない、と思っているよ。」


 一瞬のやり取りの中で、カリカの表情が不思議そうな顔から、不安が混じった顔になり、最後は明るくなった。


 この国では、日本のように強制捜査の定義が細かく決まっているわけではなかった。

 ただ1点、身体拘束は裁判隊への報告をすること、とだけあった。

 おそらく拷問防止がその目的なのであろう。

 監督隊も当然それは踏襲することにした。

 そして、私は、エルマーリ工会に関しては逮捕して罰を与える必要があるということを、ずっと考えている。


 是正勧告書で指導するのか、罰を与えるのか、それを見極めながら必要な資料を集め続ける。

 労働基準監督官の仕事の醍醐味がここにある、と私は教わったし実際そう思うことが多々あった。


 そのためにも。


「帰って、ガラテアについてフェービ教会補佐に調べてもらうことと、これまでわかっている労働者について、警邏隊に調べてもらいます。

 基本的には教会には私が、警邏隊にはカリカが行ってもらいます。」

「はい。何をすれば?」

「失踪者の検索です。

 行方不明扱いになっているにも拘わらず、エルマーリ工会で働いているということは、強制的に働かされていて帰してもらっていない可能性が高いです。

 とはいえ、警邏隊での調べでは『労働者は帰りたくないと言っている。』ということですから、慎重に判断しないといけません。」

「え?えぐちさん信じてたんですか?」

「可能性はゼロではないと。

 すべて信じないのもすべて信じるのもこの仕事では御法度ですよ。」

「はい。そうですよね。すみません。」

「いやいや、大丈夫ですよ。」

「じゃあ名簿を作って明日にでも警邏隊に行ってきます。」


 カッサーラ所に帰って、私たちが持っている書類の名前を確認したが、当然、「ガラテア」の名前はなかった。


 警邏隊に行くのをカリカに任せ、私はカーラと2名で教会の事務所に行ってフェービ教会補佐と会った。


「と、言うことで、このガラテアって子が、義務教育の対象者か調べてほしいんですよ。」

「はいっ。それだけ情報があればきっとすぐ見つかると思います。」

「ありがとうございます。

 あと、もう一つ。

 ここに書いてある全員で、過去15年間で義務教育の途中で来なくなった方が居ないか調べられますか?」


 そう言って私はエルマーリ工会で控えた労働者一覧を渡した。

 日本で同じことをやったら情報漏洩に当たるだろうな、と思いながらも、調査の必要上仕方ないことだと自分を納得させた。


 渡した目的は、子供のころに誘拐されてそのままそこで働かされている労働者が居ないかということを確認するためだ。

 過去15年に絞ったのは、クリストドゥロス会長に代替わりして以降に限定すれば足りると考えたからだ。

 ただ、調べるべき書類が多くなりすぎるので無理かと思っていたが、思いのほかいい返事をもらえた。


「それは時間がかかると思いますが必ず調べます。ひとつ、気になるのでいいですか。」

「うん?」

「なんで私が一緒に行けなかったんですかっ。」

「え、ごめんなさい。

 他意はないですよ。急に決めたし難しいかなって。」

「教会長から私このことにつきっきりになるように言われてますっ。

 だから行くときは一緒に行かせてください。」

「それは……。ごめんなさい。

 事前に確認してなくて。次は必ず声かけますから。」

「わかりました。お願いします。

 で、ガラテアちゃんですね。頑張って探してみます。」

「よろしくどうぞ。」


 フェービ教会補佐があまりにまっすぐ怒るので、失礼なことをしてしまったなと後悔でもって、事務所をあとにした。

 私の表情に後悔があまりにもにじみ出ていたらしく、周りから心配された。


「そんなへこまなくていいですよ。怒ってなさそうでしたし。」

「ほんと?カーラがそう言うなら信じようかな。」

「はい。大丈夫です。えぐちさんが間違ってるってことはないんで。」

「ふふふ。ありがとう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ