第44条の2「労働者死傷病報告」
エリナ書記官は身長160cmぐらいの女性。
人間であれば45歳ぐらいの見た目で、とにかく非常に美しい顔立ちをしている。
耳の形からエルフかと思うが、身長が低いので何かとのハーフなのだろう。
「はーい。キシリアさんから聞いてますよ。
監督隊のえぐちさんですよね。
エルマーリ工会について色々聞きたいとか。
とりあえず会議室取ってるから、こっち行きましょうか。」
そう言って、事務室の奥の小部屋に案内された。
こちらの国に来て思うのが、砕けた感じで対応してくれる方が多いことだ。
人見知りの私にはありがたい限りである。
アレクシスも最初は怖かったが、結局は何でも話せる仲になったし。
「えっと、そうだね。まずは話を聞こうかしら。」
「ありがとうございます。
エルマーリ工会。正当ではない手段で労働者を雇っている可能性があります。
話は少し変わりますが、私の国には『一事が万事』という言葉があります。
この考えに基づくと、労働者に対して不法行為を働いているところは、ほかにも何か不法行為があることが往々にしてある、となります。
これは私の経験則上、割と当てはまるかな、という気がします。
で、何が言いたいかというと、エルマーリ工会について良くない話って聞いたりしませんですか。」
「なるほどね。まずこの会の説明をしますと、国内の家具売り上げのうち、4割を誇ってます。
その理由というのが、やはり安いことと、そこそこの質が保証されてることよね。
安さの理由は、木の伐採から作成販売を一貫しているからです、というのがこの会のうたい文句です。
良くない話、と言っても製品を買ったお客さんが何か問題があったとかいう話は聞かないかなぁ。
確か、15年ぐらい前に、先代の会長が亡くなられて、その息子さんかな、が新しく会長になりました。
そのころから、より安価な路線になってるんだけど、質が落ちたって話も聞かないかな。
ただ、怪我する方が多いのに辞める方は少ない、というのはよく聞きますね。」
「より安く、質を維持したままで、ですか。」
「えぇ。さすがにどんなことをやったかまでの話は聞いたことないですけど。」
「そうですか。
怪我が多いのは、安全意識の低さを見ると、当然かなという気がします。
労働者が辞めないとのことですが、働く方が亡くなった事故や、新規募集みたいなのって見たことあります?」
こう言っていて大事な法律を作り忘れていることに気が付いた。
労働者死傷病報告の提出である。
労働者が仕事中に死亡・怪我をしたということを把握することは、労働基準行政を適切に運用するうえで、必要不可欠なことであり、日本では労災隠しには厳しく対応することとしている。
労働者を怪我させたり死なせたりするような状態で働かせているところには、違法状態がある可能性があるし、なくとも同じことを繰り返させないためにも報告を国に提出させないといけない。
安全意識が全体的に低いこの国に居る間に、死傷病報告の制度を作り上げなければならないということを固く思った。
「ないですね。
死んだ方は聞いたことはないし、新しい方を集めている様子も見たことない。うん。
でも、新しい方はちょいちょい入っている様子なんですよね。
どうやって集めてるんだろ。」
「どうやって集めているか。まっとうな方法であることを祈るのみですね。
ありがとうございます。
あ、ちなみに、クリストドゥロス会長って、何かしらの機関の要職についてますか?」
「いえ、何も。
私個人的にもしゃべったことはないですね。」
「わかりましたありがとうございます。」
そう言って直会をあとにした。
労働者の募集をせずに働き手が集まっていること、辞める方が少ないことから、強制的に労働者を集めて働かせているのかな、との疑惑を強めることになるが、何ら証拠はもらえなかった。
対外的には問題がないみたいことから、外面がいい、という感想を持ったが、それも感想に過ぎない。
確実な証拠が出なかった以上、前回の打ち合わせの方針のまま、突然エルマーリ工会に行くのは変わらない。
そうなったら、善は急げということで、エリナさんと会った2日後、カリカとカーラの2名を連れてエルマーリ工会に突然行った。
最初に我々が声をかけたのは、幼そうで指が数本無いドワーフの女の子だった。
「こんにちは。監督隊です。会長居ますか?」
その子は、工場の外で荷物を運んでおり、周りに見ている労働者が居ないことを確認し、カーラが優しく話しかけた。
話しかけられた彼女は、委縮してしまって声が出ていない。
「大丈夫ですよ。お名前だけ聞いてもいいですか。」
「――――ガラテア。」
か細い声で名前だけ返事をした。
「ありがとう。
ごめんねびっくりさせちゃって。
大丈夫だよ。
今から会長のところに行ってくるけど、私たちのことは何も気にしないでね。」
カーラは努めて優しく話し、しかし、必要な情報を聞いてくれた。
「後で突合お願いね。」
「承知です。」
ガラテアから聞いた、ということはクリストドゥロス会長たちには言わない方がいいだろう。
それで彼女が何かされる可能性が高い。
建屋内に入ったら、前回居なかった労働者が数名居ることが見て取れる。
ガラテアの名前を出さずとも、それを指摘すれば足りるであろう。
そう考えて、ガラテアの他には誰にも声をかけずに2階に上がった。
誰かに声をかける前にドーラさんとばったりあった。




