第43条の1「虚偽報告」
「どういうことですかねぇ。」
「どういうことも何もないです。聞いたままです。」
「見間違いだろ。
確証もないのに何言ってんだいまったく。」
「確証?確証ならありますよ。40名近い数が居たことを私が確認してます。」
「だそうですよ。ヴァイロンさん。」
「おうよ。勘違いだろうよ。ここ半年は頭数変わってねぇよ。」
しらを切るか。しかも堂々としている。
ここは一度引いて証拠を集めて突き付けよう。
次また突然来たところで「新しく入った奴だ」とか言われるであろうだが、隠す労働者ということは何かあるはず。
児童か強制労働かのいずれか。
絶対に逃さない。どこまでも追い詰めてやる。
「本当ですね?」
「おうよ。」
「分かりました。
では次の質問の前に、カリカ。全員の名前はあったかい?」
「ありました。」
「ありがとう。
では、次の質問です。先ほど、休日を週に2日与えているって言ってましたよね?全員出勤する日は、月に何日くらいあります?」
「数えたことないですねぇ。」
「感覚で結構ですよ。特に工場長のヴァイロンさんの。」
「お、うよ。そうだな。そうだな。えっとよ。」
ヴァイロン工場長の視線が泳いで、クリストドゥロス会長とドーラさんを交互に見る。
なんて言えばいいか聞きたそうに。
「ありがとうございます。では質問を変えます。同時に何名くらい休みにしてますか。」
「ん、あ、え、さ、3名よ。」
「3名?週に1回で21名。23名いらっしゃるわけですから、週に1回でも1周しません。
週に2回であれば、7名は同時に休ませないといけないはずですが。」
「間違った、7名よ。」
「あ、計算間違いました。今日全員出勤しているので8名が最低でしたね。でも一日だけなら、さっきヴァイロン工場長が即答できたはずなのでもっと多い、つまり9名か10名か。
半分近く休んで仕事になります?」
「――何が言いたいんですかねぇ。」
「ご賢察いただいたらどうです?」
無言が訪れる。
私の判断では労働者に対して休みなど取らせていない。年中無休で働かせている。
そのようなこちらの意図は読み取っただろう。おそらくばれたと思って別の言い訳を次には準備してくるに違いない。
しかし、それも織り込み済みだ。
おそらくこのクリストドゥロス会長は頭が切れるかもしれないが、ヴァイロン工場長はそうでもない。
今ここで立て続けに行くしかない。
「とりあえず出勤した日数と時間はこの給料関係の資料に載ってますか?」
「載ってないですよ。何を言うんですか。」
「え、なんでです?」
「集計してませんからねぇ。
集計してない以上載せられないじゃないですか。」
「法律が変わって1週間20時間、1日4時間以上働かせたときには、時間外割増賃金ってのを払わないといけないんですけど、集計していないってことはそれも払っていないってことですかね。」
「あ、はいはい。それですね。
それはですね、ここに『時間外手当』って書いてあるでしょ?
これで払ってるのよ。
会長さん、なかなか労働時間の集計まで手が回ってらっしゃらないのは認めておられましてね。
代わりに、皆さんに多いぐらいのお金を払ってあげることで対応してらっしゃっるのよ。
そもそもねぇ、そんなに1日4時間を超えてとか働かせてらっしゃらないもの。」
オデラ法弁士が発言する横で、クリストドゥロス会長が何回もうなずいている。
「説明ありがとうございます。この手当は何時間分ですか?」
「何時間とかはないですよ。
さっきも言ったけれど、時間管理をしていないのは認めてます。
だから、まとめて基本給の1割を当ててます。基本給が20万ドラクだと2万ドラクの計算になりますもの。」
公立学校の先生の話を思い出さされた。
この話し方から、時間管理をしていないという落ち度を一か所認めることで他の部分の違反に気付きにくくして煙に巻くつもり、と感じてしまった。
完全に人のことを舐めているとしか思えない。
「先ほど、労働時間が4時から9時とおっしゃいました。
5時間あります。毎日1時間時間外労働させている計算ですか?」
「そ、そうですわね。だから多めに払っているんです。
もし足りないと指摘されるおつもりなら、ちゃんとお支払いをします。それは会長も認めてくださってますので。ねぇ。」
「やるべきことはやるつもりですからねぇ。」
正直、作業を監視している労働者と作業している労働者が同じ給料とされている時点で、この賃金台帳はすべて嘘だと思っている。
したがって、ここで不足分の支払いを指導したところで、払いもせずに払ったと報告するつもりなのだろう。
こういうときは、銀行振り込みが証拠が残って便利だなと実感した。
「あと、労働者が住んでるのって皆さんどの辺ですかね。」
「あんたね、なんでそんな話聞くんだい!
まったく!
大体なんなんだい。給料の資料だけ見てればいいんじゃないのかい。」
これまで静かだったドーラさんがいきなり舌鋒激しく詰めてきた。
正直、寄宿舎のようなのがあることを予想しているので、聞く理由を正直に答えるのであれば『全員同じところに住ませて無理やり働かせているだろう』ということ。
発言した人は予想外だったが、この質問を聞いた際に何かしらの反発があることは予想していた。
予め再反論というかもっともらしい言い訳も準備している。
「会によっては通勤手当みたいなのを支給しているところもあるのですが、エルマーリ工会はそういうのが無かったので、少々気になったところです。」
「そういう手当は払ってませんねぇ。払わなければならないものなのですか?」
「いえ、義務ではないです。」
「そうですか。だったらそこは質問されても答える義務はないですねぇ。」
まぁそれはその通り。ちょっと軽率な質問だったとここの段階にきて反省した。




