第42条の1「労務関係資料」
朝起きて詰所にはいかずにエルマーリ工会に直行した。
前回と同様にクリストドゥロス会長とドーラさんが対応してくれて、入り口で再度挨拶をしたのちにに工場を案内された。
明らかにおかしい。
明らかに違う。
工場内が清掃されているのはまあいい。よくあることだ。
むしろ私たちが行くと言っているのに何も対策していない方がおかしいまであるので、ここは気にしていない。
問題は労働者の数と服装だ。
前回来た時には、40名ほどの労働者が居たのに、今見る限り、20名ほどしかいない。
私がクリストドゥロス会長とドーラさんから話を聞いている横で、同行したカリカとカーラとフェービが、労働者ひとりひとりに何をしているのか、ということを聞きながら名前を控えている。
名前を控えるのは大事だ。しかし、前回はもっと人数が居たので足りない。
人数が減っている理由は年少者や人身売買で連れてこられた労働者を隠しているとしか思えない。
クリストドゥロス会長が、製品のこととか作業内容のこととか色々説明しているが、私の頭には届いていない。
人数が少なくなっていることを正面切って今ここで聞くか、後で聞くか。そればかりが気になっていた。
そして、服装。
汚れているのは当然、破けていたり大きさがあっていなかったりしていた。
今見てわかったが、そのボロボロの服は、同じ作業着を着せられていたようだ。
折り目が付いたまっさらな作業着を全員が着て作業している。
これはクリストドゥロス会長に聞くまでもなく、我々が来る前に全員に配布したのだろう。
このことから導き出される可能性は、ここの労働者は、衣食住がすべて管理されている可能性が高いということだ。
特に服については管理されているので間違いないだろう。
自分で服が買えないということは給料をもらっていない可能性もあるし、買うことを認められていない可能性もある。
いずれにしろ、強制的になにかをさせられているはずだ。
工場を一通り見終わった。
結局私は人数についての指摘はしなかった。
今度突然来ることで確認する方法をとりあえずは思いついたからだ。
だから、私はその場では工場内の危険な機械について言及するだけにした。
「クリストドゥロス会長、ちょっといいですか。工場内の機械なんですが、すべてに安全装置が付いていないので、つけてください。」
「安全装置て言われても初耳なんですけどねぇ。」
「例えば、この丸のこ盤、ってそんな名前で呼んでないですよね。なんて呼んでます?」
「丸のこ盤ですよ。」
「あら、意外です。この丸のこ盤って、切るために使うところは机から出ているここの部分だけですよね。」
そう言って私は止まっている丸のこ盤の机に手を置き、丸のこの机からはみ出ている部分のうち、机から2、3センチのところをさししめした。
「そうならですね、丸のこの上の部分は作業においては不要なところであり、手や体の丸のこに接触しないようにするための覆いをかけてほしいんです。」
「そんなことしたら被せ切りがができなくなりませんかねぇ。」
「被せ切りは危ないんでしないでください。途中から刃を入れる必要があるなら、丸のこ盤ではなく別の方法で切るようにしてください。」
「わかりました。どんな素材でもいいですか。」
「手や指がぶつかっても変形しない程度の素材であれば大丈夫です。」
「ドーラさん、いいですか。」
「だから人使いが荒いってんだよ。誰に似たんだか全く。
ここに覆いをかければいいのかい?面倒なことをさせるね。」
「すみません。見たところ労働者には怪我をして指がなくなっている方がいるご様子。
そういう労働者をもう二度と出さないかというところが大切ですから。」
と、言ったとたんクリストドゥロス会長が、眼光鋭くこちらをにらみつけてきた。
もしかして、労働者が怪我した事実を隠そうとしていたのか?さすがにそれは無理がある。
前回見たときにそこは確認してしまっているので言い訳をする余地がない。
というような気持でクリストドゥロス会長を見返したところ、視線がしっかりと会った。
時間にして3秒。お互いが目をそらさなかった。
会長は視線が合ったことに気づくと固まっていた表情を崩して、ニコっと笑いかけてきた。
この工場内のやり取りだけで、何かしら悪いことを隠そうとしていることは確定だ。
それが何なのかはまだ分からない。
そして、事務所に移動して、書類を見せてもらい賃金や労働時間を確認する運びとなった。
どんなのが出てくるか不明だが、おそらく、改ざんや偽物の作成をしているだろう。
どんな違和感でもいい。
私はそれを見逃さないように見ていく必要がある。そのことを肝に命じた。カリカ達にも、色々偽造されたものの可能性があることを示唆する言葉をその場で私は伝えることにした。
「カリカ、カーラ、フェービさん、今から書類を見るんだけど、綺麗な数字が出てきたら報告して。」
「きれいな数字。」
「そうきれいな数字。ほかの人と一致してたり、みんなが同じだったり。普通に雇ってたらそんなことありえないから。」




