第40条の2「相互通報制度」
意外にも臨検をした翌日に、エルマーリ工会からの日程調整の連絡が来た。
中央ギルドのときのように待ちぼうけを食らうと思っていたのでそこは面食らった。向こうの提案は1週間後。
特段否定する理由もなかったので、それで受け入れた。
それまでに教会と調整がつかなければそれはそれで再度行けば良いとも思いつつ。
エルマーリ工会に日程の承諾する旨の回答をしたのち、すぐに教会事務所に向かった。
事前に約束はしていないので会えないかもしれないが、会えたとき用に今回もカリカとカーラと3人での訪問となっている。
「フェービ教会補佐か。
労基法を作るときに結構言い合いしたから、いい印象を持たれてなさそうで嫌なんだよなぁ。」
「大丈夫じゃないですか?意見をぶつけ合って、嫌ってきたらそれまでの奴だということで。」
「ちょいちょい思うけど、カーラって発想がたまに物騒だよね。」
「ありがとうございます。あはははははは。
周りの人のせいで悩むのも時間の無駄ですから。」
「まぁ一理あるか。そうだね。気にせず行きますか。」
私がこの世界に来て最初に説明を求められた実務者連携会議に参加していた各隊、各会のうち、警邏隊などは中央議場庁舎に事務所を構えているが、教会だけは別にある。
中央議場庁舎のほど近くに、あるエリー=レラ教本部に事務所を構えているのだ。
教育機関と宗教が近いのは致し方ないとは言え、やはりここまで一緒だと違和感があるが、ここはそうもいっていられない。
エリー=レラ教本部に入ると、礼拝所になっており司教が信者に対して説教を行っている。
キリスト教の礼拝所に近いような感じで、司教が前に立ち、その説教を聞いている信者たちが多く長椅子に座っている状態だ。
対応してくれた方に用向きを伝えたところ、フェービ教会補佐は礼拝の最中なので、ここで待つように言われた。
立って待っているとその礼拝を取り仕切る司教のお言葉が聞こえてくる。
「こうしてマリア=エリー=レラ様は、全民族の平等の教え説いて行かれたのです。
この世界はまだ完全な平等が実現しているとは言えません。
平等が脅かされている場面を目撃したときには、皆さま、マリア=エリー=レラ様のお言葉である『我、いかなる者と会おうと、我はその者に謝意をもって接する。しからば、その者と我は対等な立場に立とう。上の者、下の者、敵になる者。いずれも元よりそのように生まれ出ずる者なし。すべては我の意識が生み出すものなり。』を思い出してください。
このお言葉を実践するのは当然のこと、多くの方に伝わるよう、皆さまが伝道師となって、平等が脅かされることを未然に防いでいかねばなりません。
皆さまの行く道に多くの感謝がありますように。」
という言葉で、礼拝は締めくくられた。
信者の席に座っていたフェービ教会補佐がとてとてとこちらに歩いてくる。
「えぐちさんじゃないですか。どうしたんですかっ。」
「こんにちは。
児童使用の疑いを確認したので、その話をしたく。」
「わかりましたっ。教会長のとこに案内しますねっ。」
エレフテリア教会長が居てくれたのなら話は早いし、なによりフェービ教会補佐に嫌われてなかったようで、なによりそれが一安心であった。
礼拝場から1度外に出て、別の入り口から建屋に入った。
そこは教会の事務所になっており、エリー=レラ教本部とは独立した事務所となっている。
「ようこそいらっしゃいました。」
「ご無沙汰しています。えぐちです。急にお邪魔してすみません。」
「いえ、私がここに居る時でよかったですわ。」
「ありがとうございます。しかし、教会の事務所とエリー=レラ教本部は別になっているのですね。」
「ええ。教育を担当する教会とエリー=レラ教が近い存在であることは兼ねてよりご批判をいただいているところですわ。
ですので、こちらも独立性があることを示すためにこのように形からでも変えていますの。」
「なるほど。」
私が考えることぐらい当然考えている、ということか。
実務者連携会議の時も思ったが、エレフテリア教会長は底が知れない。
物腰の柔らかさに対して私がいまいち信用を置けていない理由もそこにある。
下手に色々話すとぼろが出てしまい、全てを見透かされてしまうのではないだろうかという気持ちもある。
その気持ちもあって今回は要件のみを話すことにした。
「早速ですが、本題です。エルピダ商会の件はご存じでしょうか。」
「ええ。伺っておりますわ。
非常に由々しき問題であったこのことをえぐちさんが見事に解決なさったと。」
「買い被りです。しかも私が解決したわけではありません。
昨日、エルピダ商会から大人数を買ったという情報があるエルマーリ工会に行ってきました。
そしたら、10歳程度の子供が働かせている可能性が確認できました。あくまで見た目の判断ですが。
今回ここに来たのはその情報提供と、次回行くとき、1週間後とすぐの予定ですが、その場に教会の担当者を同席していただきたいというお願いです。
おそらく名前を確認すれば、教会のほうで、義務教育対象者名簿と突合できるかと思いますので。」
相手方の出方がどうなるかにかかわらず、とりあえずこちらからの要望を伝える。
児童使用の確認だけでなく、保護という話になったときにも、教会の力が不可欠だということもある。
エレフテリア教会長は、誰にでもわかるように悲しい表情になった。
「わかりました。フェービを行かせますわ。予定の調整、よろしいですわね。」
「はいっ!大丈夫です!」
「フェービであれば、普段から学校を回って子供たちをよく見ているのでわかるでしょう。
おっしゃるとおり、名前が分かればこちらで確認することも可能でしょう。
見た目の判断が誤っていることを祈るのみです。」




