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第40条の1「相互通報制度」

「えぇ。理解しておりますよ。すべてを理解したうえで、今日はこれ以上、対応できないからお帰りくださいと言っているんです。

 今後も対応をしないと言っているつもりはないんですがねぇ。」

「理由を聞いても?」

「言わないといけませんかねぇ。」

「法律上の義務ではないですが、聞かせてもらえますか。」

「それなら言いませんねぇ。また連絡します。ドーラさん。皆さんお帰りです。案内してもらっていいですか。」

「私がするのかい。

 いつから私を顎で使うようになったんだい。

 あんたの父親のほうが敬意ってもんを感じられたよ。まったく。」


それですべてが打ち切られた。



 私とカリカとカーラの3人が、エルマーリ工会についたとき、クリストドゥロス会長が居たので、対応をしてもらえた。

 事前の予約はしなかったものの、最初は快く受け入れてくれた。


 いつもどおり、私たちが来た理由ややりたいことなどを説明するところまでは、にこやかな雰囲気で進んでいた。

 同席した管理部長という役職のドーラさんは終始憮然とした表情だったのが気になっていたが、クリストドゥロス会長が対応してくれているから大丈夫だろうと思っていた。


 ところが、だ。


 いざ書類を見せてくださいと言った途端、対応を打ち切られた。

 さも最初から、そうする予定であったかのように。

 対応を打ち切られた以上、しかも「今日は」無理なだけだと言われた以上、ここに居続けることはできない。

 工場を見せてもらうことも断られた。

 労基隊の権限は日本に従って、事業場に臨検し、書類の提出を求め、尋問をすることができるとはしているが、相手方が明確な拒否の意思を示したときに、居座っても違法とはならないとまでの規定は設けられていない。

 だから、帰れと言われれば帰るしかない。

 臨検拒否の罰則は間接強制でしかないのだ。


 その事実が今私たちを苦しめており、そのせいで歯痒い思いをしているのは間違いない。

 とはいえ、そこにとらわれている暇はない。

 今ここでできることをすべてする必要がある。


 エルマーリ工会の敷地外に出されるまで、できるだけ多くの情報を集めることだ。


 エルマーリ工会は、木製の家具や壁材を主に作成している会で、敷地内には1階が工場、2階が事務所になっている。

 工場内の設備をざっと見たところ、丸のこ盤、手押しかんな盤、バンドソーが確認できた。割り歯、接触予防装置など、安全装置が何もついていない。


 動力がないので、おそらく魔法で動かしているのであろう。

 このような工具があることを想定せず、魔法の技能講習は物を浮かせるときに限っている。

 したがって、ここには技能講習を修了していない労働者がほとんどのはずだ。

 この世にある機械をすべて把握して条文化するのが難しいのはわかっているが、これは完全な法制定上の落ち度だ。

 この安全装置のない状態から、今後法改正が必要となるなと考えていた。


 それはそれとして、作業している労働者に目をやる。

 このうちの何人が人身売買でここの会に来たのだろうか。

 本当に給料をもらっているのだろうか。

 そういう目で見ていると、身長が低く痩せている者、服装がとてもじゃないがまともでない者、そういった労働者が多く見て取れた。


 日本ですら、木材加工機械による労働災害は後を絶たない。

 安全意識が乏しいこの世界ではよりひどい結果となっているのだろう。

 それは予想ではなく確信になった。

 労働者には指や腕の欠損が多く見て取れたからだ。


 見る限り40名ほどの労働者が笑顔もなく黙々と働いている。

 ドーラさんと一緒にいる我々に目線を送る様子もなく、ずっと手元ばかり見て作業している。


 これもまた非常に異常な光景だ。


 通常監督隊が来れば、誰だろう疑問に思った労働者が一瞬でもこちらを見るものだ。しかし、それすらない。

 工場の通過に要した時間はほんの1、2分。その間だけで、色々と見えてきたのに加え、異様な空気を読み取った。


 色々考えさせるなと思いながらエルマーリ工会の敷地を出ると、すぐにカーラが口を開いた。


「あすこで働いていたドワーフ、子供ですね。」

「え、そうなの?他種族は見慣れてなさ過ぎてわかんないや。」

「ええ。間違いないと思います。」

「確かに。エルフも子供っぽい子がいました。」

「カリカの言う子供って何歳?」

「エルフのうち、一番幼い子は10歳は行っていないと思います。」

「ドワーフもそれぐらいですよ。」


 まじか。


 服装から強制労働の可能性ありとは思っていたが、それに加えて児童労働か。

 本当は日本と同じ15歳以下の就労を禁止したかったが、12歳以下を禁止するに限った。

 その代わり日本みたいな児童使用許可規定は設けなかった。

 だから10歳が居れば問答無用で違法な児童使用ということになる。


 こういう時のために、作っておいて正解だった制度がある。

 それが相互通報制度だ。


 児童教育をつかさどる教会、建設関係をつかさどる治水土木隊、そして、警邏隊とは、お互いにお互いが所管する法違反の疑いを見つけたときは情報提供をし、場合によっては合同で監査するという規定を設けた。

 餅は餅屋。専門の者がついてきた方が当然見落としが減るし効果的な指導ができる。

 そしてまさしく今回、教会に情報提供をして、一緒に来てもらう方が児童使用の判断もしやすい。


「と、いうことでフェービ教会補佐に話に行くか。」

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