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第39条の2「自己研鑽の時間」

 次の日。

 さっそくカリカと一緒にカーラの元を訪ねた。

 カリカの家は南街区にあり、カーラの家も同じく南街区にある。


 家、と聞いていたが、行ってみるとどうして剣術の教室であり、道場も立派にある。

 道場というか稽古場は、当然畳ではなく土間で、広さは60帖ぐらいか。


 中学校の武道場がこれぐらいの広さだった気がする。

 中学校では、なぜか昼休みに体育教師と柔道をして散々投げられた記憶が不意に蘇った。

 そうなった流れは思い出せなかった。


 それはさておき、お邪魔するとカーラが出て来た。

 ドワーフで身長は低いが、多くのドワーフみたいにずんぐり体系ではなくすらっとしてる。


「ようこそいらっしゃいませぇ。」

「突然ごめんねカーラ。今日なら個人鍛錬してるかなって思って。」

「全然大丈夫です。」


 カリカと挨拶するカーラは、肩まですとんと落とした髪の毛を左右に揺らしながら首を大きく振った。


「今日はどうしましたぁ?」

「えぐちさんに稽古をつけてほしくて。」

「わかりました。」


 少し舌足らずでまったりした喋り方をする。

 こういう喋り方をする女性にはいらっとすることもあったりするが、この子はなぜかそうは思えない。


「少しやったことあるらしいから、たぶん大丈夫と思うから。」

「それはカリカが期待値上げすぎだよ。

 改めてこんにちは。やってたと言っても型を主に数年習ったぐらいだし、もう10年近く前だし、初心者だと思って教えてほしいな。

 なによりもう38歳だから、体力もないし。」

「あははは。大丈夫ですよ。きっとできます。じゃあとりあえず剣を持ってみてください。」


 そう言って、いきなり真剣を渡してきた。


「大丈夫です。刃は潰してます。」


 両手持ちの両刃の剣。反りはなく、刀身は竹刀と同じぐらいの長さ。

 しかし、元幅が10センチメートル、こちらの単位だと、0.2キュピぐらいで、非常に大きい。

 当然それに比例して重さもかなりある。

 剣道で教わったことを思い出しながらしっかりと握り、個人的に好きだった上段の構えをしてみたら、重さと筋力の無さで剣が全く安定しない。


「こんなの振り回してるの?」

「はい。うちではこれが基本です。それが構えですかぁ?」

「うん。個人的に好きな。」

「う~ん……。

 上にあげた状態で保持しておくのはお勧めしないので、横に構えてください。」

「横?」

「はい。こう。」


 そうやってカーラは自分の剣を脇構えのような、しかしそれよりもより低い姿勢に持った。

 身長が低いので特に低い姿勢に感じる。

 というか、ドワーフなので身長が低いのは当然で、彼女の身長は、剣と並べても同じぐらいになる。

 しかし、構えがびしっと決まっている。

 カーラの体幹が、足腰がいかにしっかりしているかわかる。


 そこから一閃、斬り上げる。

 抜刀術が速い理由は、柄を下に向けることで重力による加速を利用していると聞いたことがある。

 しかし、カーラがして見せたのは、完全な下から上。

 単純に筋力のみで高速の切り上げをして見せた。


「この動作をしてみてください。

 重いかもですが、軽い木刀だとやっぱり剣の重さがちがって実践での感覚の違いについていけないんですよねぇ。」


 その指示にしたがって、無言で斬り上げてみる。

 剣道をしていた時から思っていたのだが、正直、大声を出す意義を見出せていなかったので、心置きなく静かに振れる。


 私の一振りを見たカーラが、指摘を入れてくれる。

 肩、腰の入れ方。足捌き。斬り上げたあとの姿勢。


 半日の稽古でやったことは、斬り上げ、からの次の姿勢、の繰り返しだった。

 剣の重さに振り回されて、腕が上がらない。明日は確実に筋肉痛になるに違いない。


「おつかれさまでした。

 質問です。今回、えぐちさんが剣を始めようと思った理由って何ですか?」

「護身かな。こないだあんなことになったし。」

「危なっかしいんで、私からお願いしたのよ。」

「なるほどです。

 だったら今の型が身に着いたらちょっと違うことしてみましょうかねぇ。」

「違うこと?」

「はい。防御です。」

「え、護身って言わなかったら教える気なかったの?」

「あははははははっ。

 『攻撃は最大の防御』って考え方がありますから。」

「可愛い見た目の師範に対して、なかなか怖い流派だね。」

「ありがとうございます。

 でも私まだ師範じゃないですよぉ?母が私より強いですから。」

「お、お母さまですか。」

「はい。家庭内でも外でも最強です。

 うちなぜか、師範は女性がずっとやってるんですよね。

 こんな重たい剣なのに。」

「重たいって認識はあったのか。よかったというかなんというか。」

「はい。重たいです。あははははは。」


 案の定、次の日は全身筋肉痛で、カッサーラ所に出勤するのですら一苦労であった。

 よかった、まだ筋肉痛が翌日に来る、なんて安心はさらに次の日には消えてなくなった。

 2日たっても全く筋肉痛から回復する兆候がない。

 歳は重ねたが、体力はまだまだある、なんて思っていたが、回復力が目に見えて落ちている。

 3日目になって、まだ痛みはあるが、ようやくまともに動けるので、稽古を再開した。


 2週間たって、エルマーリ工会に臨検監督を行うことにした。

 あれだけ稽古したのだから、と言われたが帯刀はしなかった。


 日本において、労働基準監督官に逮捕権限は認められているが武器使用権限は認められていない。

 制圧が目的の警察員ではないからだ。その考えに則り、帯刀しないことにした。

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