第38条の2「休息時間」
カリカと仲良くなった。
たな、それが男女の関係の好意につながることを求められているとしたら、私には応えられない。
2年たっても家族のことが忘れられないし、いまだに帰りたいと思っている。
一瞬は諦めてここに骨を埋めるのだろうか、ということも考えた。
しかし、この間のアポロ中央ギルド長の話、そして中央ギルド長から言われたことを報告したコンスタンティノスさんの反応が、元の世界に帰れることを、その希望を、思いを強くさせたのだった。
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「改めてコンスタンティノスさんには、大変なご迷惑をおかけしました。」
「ふぉっふぉっふぉ。何を言う。
お主が突っ込んでくれぬかったら、この大犯罪の全貌は明らかにならんかったんじゃ。
無謀な突っ込みだったがの。」
カリカから、話を色々聞いた次の日、5日前の事件、しかし寝ていた私には昨日のことのように思える事件、のお礼をコンスタンティノスさんに言ったところ、ぐさりと刺されてしまった。
「いや。ほんとお恥ずかしく、ご迷惑を。」
「何を言っているんだい。えぐちくんが無事でよかったじゃないか。
カリカの取り乱すところを見せてあげたいくらいだったよ。」
「お父様……!もう。」
カリカが明らかに照れ隠しで怒っているのが、可愛らしく思えて仕方がなく、思わず笑みがこぼれてしまった。
しかし、すぐに表情を戻し、私の行ったことの反省に意識を持っていく。
「そう言っていただけるのはありがたいですが、やはり心配と迷惑をかけたことは申し訳なく思います。」
「ならば、その気持ち受け取っておこう。」
優しい人たちに囲まれてありがたい限りだ。
この世界に来て色々大変な事があったが、この人たちのおかげで自分を保たれていると言ってもいいぐらい、助けられている。
そして、この流れで私がすごく気になっていることを聞いた。
「あの、コンスタンティノスさん。
少し前になりますが、アポロ中央ギルド長とローデ中央ギルド次長は、私が異世界から来たことを知っていました。
そのうえで私に『いつか戻ることができると約束する』と発言しました。
これってどういうことか、何か予想とかつきますか。」
私のこの言葉を聞いて、カリカとレフテリウスさんが、非常に驚いた様子を見せた。
その一方で、コンスタンティノスさんは、非常に落ち着いていた。
「アエネアスには会ったんじゃったな。」
「はい。労働基準法を作る際に。」
「どういう印象じゃった?」
「なんというか、落ち着いていて、端的に物事を進める方かと。」
「端的に、か。そう言われてみればそうじゃな。
頭がよい奴でな、最も効果的な方法は何かを常に考え、それに基づき実行しておる。
それがぴったりと当てはまるときはいいんじゃが、ずれた時は永遠にずれ続ける。
ずれることは滅多にないがな。
ただ、えぐちがここに来たのは、奴がずれた結果の可能性がある。」
「やはり、私は王族特務機関の魔法でこちらの世界に召喚されたのですか。」
「そう考えるに足る状況証拠はある。
ローデはアエネアスの直属の部下として今働いておる。
そのローデが知っておるのだから、アエネアスが主導していると考えるのが通常じゃ。
わしは探りを入れるために現在の王族特務機関首脳のシーマに聞いたが、知らぬと言っておった。」
「その人の発言は信用できるのかい?お父さん。」
「五分五分じゃ。
上司部下の関係になったことはないが、誠実な者だときいておる。
じゃから知らないことが本当で、何かしらの別の方法、偶然にこちらに来てしまった可能性も否定しきれぬ。
とはいえ、組織を守るために、必要なことは隠すじゃろう。
それに何よりな。えぐち。
わしも召喚魔法を研究したことがあった。人間ではなく魔物じゃがな。
戦時下の戦力として使えるようにな。
召喚で使役した魔物を使えばすさまじい戦力増が見込まれておった。
しかし、召喚魔法の不安定さから、実用は不可能となった。
わしがつかえん魔法を他の者が開発できるとは正直思っとらん。
ましてやアエネアスだけでできるとは到底思えんのじゃ。」
「ーーつまり?」
「王族特務機関が組織的に研究を行って完成させた、のでなければ偶然こちらに来てしまったにすぎんのじゃ。」
「後者の可能性がまだあるんですね。」
「どうした?」
「いえ。前者なら帰れる望みがあったのになと。」
「それはまた別の話じゃ。」
「えっ?」
「この世界に来たことが、意図的にしろ偶発的にしろ、返還魔法を考えるのは、当然のことじゃ。
じゃから、今、それの研究を行っているのは間違いないじゃろう。言いぶりからして成果が出た可能性は低いしの。
そこは話せると思ったからか、ローデはいつか帰れる、などと発言したのじゃろうな。」
「えぐちさん……。」
「ん?カリカ、どうしたの。」
「やっぱり帰りたい、ですよね。」
「うん。
あっ!ここが嫌ってわけじゃないんだよ。
ただ、色々残してきてしまっているから、どうしてもね。」
「ごめんなさい。」
「なーんでカリカが謝るのよ。」
「わたしたちの都合で無理やり連れてこられて、留められて――。」
「大丈夫大丈夫。心配しないで。」
と、カリカの沈んだ顔をみて取り繕うべく前向きなことを言った。ただ、もし召喚されたことが確定であれば、勝手なことをされたという気持ちがない訳ではない。
もちろんここが嫌ではないというのも、本音だ。
私のことを気にかけてくれて、なんでもしてくれている、カリカたちには感謝しかない。
その感謝を示すために、カリカの前では努めて明るくいようと思った。
同時に、帰ることができる望みを捨てずにいようと。
だから、カリカがどんな気持ちを持っているかによらず、一定の距離は保たないといけないと思う。
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