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第37条の1「蹂躙王」

 外の10名が瞬く間にやられる様子を、中から遠見の魔法でエルピダは全て見ていた。


 遠見の魔法は偵察用として最適である。

 遠隔地の様子を知ることができるばかりではなく、相手は見られていることを知覚できない。

 ランブロスはそのように説明していたし、それに嘘はない。

 しかし、コンスタンティノスは確かに遠見の魔法が映す映像に目線を合わせている。


 そればかりではない。

 遮断の魔法を無効にするだけでなく、倉庫内の状況を把握しているのは魔法によるものだろう。さらに瞬間移動に消滅魔法と同時にいくつもの魔法を展開している。


 この世界で魔法は誰にでも使える。

 ただそれは、あくまでも魔法陣を書くことと魔力量が充分にあることが前提である。

 魔法陣を書いて、そこに書かれた呪文を唱えることが魔法の発動条件だ。

 コンスタンティノスがえぐちに対して魔法を教えたとき、物を動かす魔法は魔法陣が簡単だという説明をした。

 そして実際にえぐちは使うことができた。


 複雑な魔法、高度な魔法になればなるほど、魔法陣も複雑になる。

 そして発動に必要な魔力量は、魔法陣の複雑さに指数関数的に比例して大きくなる。

 魔法陣は王族特務機関で開発され、開発された魔法陣は書物に認められ王族特務機関のみが入るとことができる書庫に保存される。

 したがってほとんどの魔法は誰にでも使えるわけではない。


 だがコンスタンティノスはどうだ。

 これまでいくつの魔法を使った。

 そのすべてにおいて魔法陣を書いたそぶりがない。

 王族特務機関の首脳だったから、多くの魔法を知っているだろうが、覚えているとしたらその知識量が尋常ではない。

 しかも同時に魔法を発動できる方法をエルピダは知らない。


 エルピダからしてみたら、この世の理を全て覆された気持ちになった。

 そして同時に、先ほど口走ったコンスタンティノスの2つ名の意味を、目の前の事実でもって実感させられている。


「そっちの名で呼んだか。わしは別の名が好きじゃがの。」

「大魔術師コンスタンティノス!死ね!!」


 相手を躊躇なく殺すその様子から、口さがない人たちは、魔法戦闘狂と呼んだ。

 魔法の知識量のその多さに、敬意を持つ人たちからは、大魔術師と呼ばれた。


 会話をできるはずのない距離で会話が成立している。

 その異常な状況にもはや驚きもせず、エルピダは部下に準備させておいた攻撃を繰り出す。


 4名の魔法使いが、それぞれ、倉庫の床に魔法陣を描いていた。

 それがエルピダの叫びに応じて魔力を込められ光りだし、順に攻撃をしていく。


 地面がめくれ、たった1名を殺すには充分すぎる量の土が、老人を押し潰すための壁となり、左右からコンスタンティノスに襲い掛かる。

 すさまじい音を立て、倉庫と同じぐらいの大きさの土塊が出来上がる。

 その中心に居る者は圧死。あるいは、窒息死。

 死ぬ運命しかでないはずだが、エルピダはそれでは終わらせない。なぜならーー。


「その名前でもないんじゃがな。」


 また、コンスタンティノスの声が聞こえたからだ。


 今度は、別の魔法陣が光った。

 コンスタンティノスを飲み込んだ土塊を高熱にし、溶岩状にした。

 そのうえでまた別の魔法陣がひかり、地面に裂け目ができた。

 地中に押し込められた土塊は真っ赤になり周辺を巻き込んで溶けていく。土塊は地面に潜っていく。

 このまま、コンスタンティノスごと地面の中に溶かして閉じ込めてしまう攻撃だ。


 倉庫には遮断の魔法と硬化の魔法をあらかじめかけておいたので影響はない。

 影響はないから遠慮なく攻撃ができる。


 そうエルピダは思ったとき気付いたことがある。


「そうじゃ。お前らが使える魔法がわしに使えんわけなかろう。終いじゃ。」


 やはり聞こえるはずのない声。

 その声は意識の中まで干渉しだした。

 その事実でもエルピダに嫌な汗をかかせるには充分すぎた。

 しかし、眼の前で起こったことが、発汗量を加速させる。

 外の溶岩は冷えて固まり、配下の4名の魔法使いのうち2名が消滅し、コンスタンティノスがエルピダの目の前に現れたのだ。


「蹂躙王コンスタンティノス。」

「そう。それじゃ。さすが古い奴は物を知っておって助かる。

 まさか、2名も残るとはな。なかなかつわものをそろえておるようじゃ。」



 200年前のアビュドス王国軍の全滅。それは文字通り全滅であった。

 軍の指導者をおさえれば、壊滅させることはできる。

 しかし、コンスタンティノスはそれをしなかった。

 南方進出を確実に成すために、アビュドス王国軍の全員を滅したのだ。丁寧に。一人一人。徹底的に。


 その様子から、蹂躙王の名がついた。

 コンスタンティノス自身は、その名前が自分の性格を一番反映しており、相手に威圧感を与えるには一番効果的だと思っている。


 残ったのは、エルピダ商会の2番手のアントニスとえぐちに魔法をかけたランブロス。

 ランブロスが準備していた遮断の魔法が何とか間に合って、2名だけ助かることができた。


「蹂躙王、か。その名前もここで終わりだよ。」


 刹那、アントニスがすさまじい速度でコンスタンティノスに斬りかかる。

 全力を注いだ一刀は、ランブロスの遮断の魔法の効果が上乗せされ、コンスタンティノスの魔法攻撃や防御魔法の影響を受けずに、本人に届くーーはずだった。


 遮断の魔法は、周辺の魔法の効果を無効にするものだ。

 したがって、攻撃も防御も全て無効になり、確実に相手に攻撃が届く。


 その遮断の魔法をまとったはずのアントニスの刀は、コンスタンティノスから少し離れた位置で、何かに止められた。

 すかさず刀を引き、間合いを取った。

 その攻撃の間にランブロスが次の魔法陣を展開。

 拘束用の檻をコンスタンティノスの周りに作り、今度はアントニスが遮断の魔法の魔法陣を引き継ぎ、檻に掛ける。

 こうすることで、コンスタンティノスを閉じ込め、魔法攻撃を外に出さないようにした。


「見事じゃ。」

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