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第36条の1「王族特務機関首脳」

 トロニス=へラクレイオンとフランク・ゴディオンとの戦争が、和平という名の痛み分けで終わったのが今から7年前。

 およそ6年間に及ぶ戦争でどちらも疲弊した結果、和平を、という流れに自然になった。

 その戦争の中、巨人族に対する攻撃に攻め手を欠いていたトロニス=へラクレイオン軍の内部では、王に対して少なくない批判があった。


 王族特務機関首脳をなぜ前線に投入しないのか。

 トロニス=へラクレイオンの歴史の中でも、彼以上の魔法の使い手は存在しない。

 彼こそが最強の魔法使いである。

 彼が居れば、フランク・ゴディオン軍を、その国自体を壊滅させることができる。


 そういう噂が、軍部の中で広まっていたのだ。

 そしてその批判は、当事者となっている王族特務機関首脳にも届いていた。


「すまぬ。批判の的になっておるが??。」

「わかっとりますよニコデモス王。

 ここでわしが出ると、王都の防衛、王族の防衛ができませんからな。

 今この場におる意味をわきまえとりますつもりじゃ。

 それにわし一人の力で一国を壊滅させることができるなど、年老いたわしには買い被りもいいとこじゃ。」

「すまぬ。」


 結果、王族特務機関首脳が前線に出ることはなく、和平となった。

 6年間という長い時間が、国境線の街を全て崩壊させ、トロニス=へラクレイオンに大きな傷跡を残した。


 この戦争が長引いたことの責任を取るという名目で、王族特部隊、王立陸軍及び水軍の3名の首脳が、終戦と同時に更迭された。


 その決定に、王族特務機関首脳は何ら不満を述べなかった。

「いい加減隠居する歳じゃったから丁度良いのよ。」

 とだけ、更迭されたコンスタンティノスは言った。


 コンスタンティノスがフランク・ゴディオンを壊滅させるという噂は本当に買い被りなのか。

 コンスタンティノスは本当に能力が衰えていたのか。


 この疑問、一部は肯定され、一部は否定されるべきである。


 今から約200年前。

 トロニス=へラクレイオンの南方進出が実現され、国土は広がった。

 当時そこにあったのはアビュドス王国。

 王の独裁で国家は疲弊し、王政排除の内乱が起こり無政府状態になった地域を、自治を認めたトロニス=へラクレイオンが併合した、という歴史になっている。


 大枠はそれに誤りはない。ただ付け加えるべきことがある。

 併合に関する一連の動きは、コンスタンティノスが単騎でアビュドス王国軍を無傷で全滅させたことに端を発する。

 その頃がコンスタンティノスの全盛期であり、比べて今は確かに衰えた。

 したがって、「能力が衰えた」ということは肯定する。

 しかしそれでもまだ、フランク・ゴディオン軍を壊滅させるには充分な力を持っていることから、買い被りであることは否定されるべきである。


 そして今。

 200年ぶりにコンスタンティノスの躊躇ない攻撃が発動し、それがエルピダ商会に注がれる。


「今度は、じじいが一人で来ましたぜ。」

「じじい?」

「へへ。こいつです。」


 エルピダ商会に所属する魔法使いの一人、ランブロスの遠見の魔法で外の様子を把握したエルピダは、全身から血の気が引く感覚に表情を固まらせた。

 そこに映っている者は私の命を刈り取りに来た者だ。きっとそうだ。

 死を目の当たりにした気持ちが全身を支配して動けなくなる前に、顔を上げ、何とかして悲痛な声を、だができる限りの大きな声を出す。


「お前ら!!!

 あのじじいを全力で殺せ!何をしてもいい!

 商品のことなんか気にするな!!殺せ!!!

 魔法部隊は防御を固めろ!すぐに!!!」


 その場に居た者のうち、すぐに攻撃に移ったのは、アンブロシアをはじめとした4段の冒険者5名と、冒険者登録していないが同じぐらいの実力を持つ者5名。

 単純な物理攻撃力であれば、一人一人が、ローデ中央ギルド次長をしのぐ。

 この10名がエルピダの叫び声に呼応して外に飛び出した。


 コンスタンティノスに9個の影が襲い掛かる。

 その影から剣が、大太刀が、斧が、大槌が、大鎌が、槍が、薙刀が、青龍刀が、大量の矢が、同時に全方位からすさまじい速度で現れた。

 1つでも受ければ必死の攻撃が9つ。

 その攻撃を繰り出した彼らに躊躇はない。


 彼らはエルピダのあそこまで悲痛な声を聞くのは初めてだった。

 理由はわからないが、この排除すべき対象を全力で殺しにかかるにはそれで充分だ。


 唯一攻撃に移らなかったのは、アンブロシア。

 彼女が攻撃しなかったのは、拡散性の毒を使うので、仲間を巻き込むのを嫌ったからだ。


「あんな大声で指示すればこちらまで届くに決まっておろう。」


 完全な不意打ち。

 完璧な攻撃。

 人外の速度。

 その事実に反して、9名が確実に仕留めたと思ったと同時に、武器と武器が、武器と地面が当たる音が響く。

 そしてその音が響き渡ると同時に、確かに今の老人の深い声を全員が聞いた。

「あの速度の攻撃を受ける間にそんな発言をする時間があったか」

 その疑問が起こった9名には状況の整理に一瞬の時間が空く。


 一方で一歩外れて見ていたアンブロシアだけが状況を一部理解した。


「瞬間移動魔法!?しかも空中に……魔法陣の展開もなしにどうやって!

 でも、離れた位置に居るのは失敗ですわよ。」


 コンスタンティノスは、倉庫の屋根と同じ高さの空中に瞬間移動したのだ。

 声だけを残すことができたのは、コンスタンティノスの魔法というよりむしろ9名の集中力の結果と言える。

 一撃必殺の攻撃を繰り出す集中力が、時間の引き延ばしを可能にした。

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