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第34条の3「申告」

「私は知っていたわけではない。あくまで予想だ。

 警邏隊時代に被害にあった女性に保護した際に、犯人の特徴について書いた報告書を見たことがある。

 そこで、エルピダ会長の特徴と一致している話が出た。しかし、証拠は何もない。」

「むしろ、アレクシスはなんでエルピダ会長と一致したとわかったの?」

「先の大戦のときに、志願兵からなる傭兵部隊として私は彼女と同じ部隊にいた。

 巨人族の陣地に深く入り込みすぎたことが原因で、顔に傷を負った。それを私が回収し、医療班に渡した。」

「国防に志願した人間がなぜ、人身売買を。」

「わからん。

 ただ、巨人族を殺すことを楽しみにしていたオークだ。女だてらに私より強く、誰よりも敵陣深くに突入して、誰よりも戦果を挙げていた。

 だから、常識では測れない何かを持っていたのかもしれぬ。」

「ある意味国の英雄なのに。女性ばかりを狙って。」

「『戦下の英雄、平和を乱す』という言葉がある。まさしくそれであろう。

 それに信用しやすいからな。同性のほうが。」

「因果な世の中だね。

 わかった。労働者からの申告ということで、私が現地に行こう。

 エルピダ商会の住所も教えてもらったし。そこから警邏隊に相談しようかね。」

「1人でか?」

「とりあえず最初はね。いきなり行ってもどうせ中に入らせてもらえないだろうし。

 大丈夫大丈夫。」


 風俗店に臨検する場合や、暴力団が運営しているという噂がある会社に行くときは、これまで私は2人以上で臨検していた。

 しかし、今は人員が足りないし、今回は様子見が主だということで、私1人で行くことにした。


 エルピダ商会には、拠点が2か所あるらしい。1つは服の販売を行っている店舗。ここは健全なところで、そこの労働者は人身売買を行っていることすら知らないだろう。

 もう1つが今回の申告者ルキアノスが働いていた、誘拐と人身売買を行う拠点。


 しばらく中央ギルドや他の業務に手を取られていたので、アレクシスと話をして10日が経った今日、ようやく手が空いた。

 そこで、業務時間中にその拠点として教えられた住所に向かった。


 王都カッサーラは東西南北中央の5街区に分かれており、ここ東街区は工場地域と住宅地域からなっている。

 工場が近いことから、土地代が安く、所得が低い市民が多い。その影響か、治安は王都の中では一番悪いと評判だ。

 治安が悪いという評判から土地代が安くなりさらに治安が悪化するという悪循環。


 工場地域は、大きな工会がある地域はまだいい。

 しかし、誰の所有のものかわからない工場・倉庫が乱立している地域はもはや手を付けることができず、ここはなんでも隠し放題だ。

 エルピダ商会の本拠地として教えてもらった場所も、そんな倉庫の一つだった。

 その倉庫の扉の前に立ち、倉庫の扉をたたいて声をかけ、開けようとした瞬間、いきなり袋を頭にかぶせられた。


 首を絞められ薄れる意識の中で「売りモンにすっから殺すなよ」と低い女性の声をきいた。


 腹を蹴られる痛みで起こされた。


 どれぐらい気を失っていたのかわからないまま、椅子に座らされて手と足が縛られ身動きは取れなった。


 頭から布をかぶされているから、周りは何も見えないが、明るさを感じることだけはできた。


「起きたか。

 お前、えぐちだろ。労基隊作ったって噂の。」


 さっき聞いた低い女性の声と同じ声が私に質問を投げかけている。ここでなんと答えるのが最善の道なのかわからず、何も答えられない。


「面取りしてっから。言い訳しても無駄だから。

 とりあえずこれ飲んどけ。」


 かぶされた布を少し上げられて、口に無理やり液体を流し込まれた。ウイスキーに似た味がするし、実際にアルコールが入ってそうな味がする。

 飲んだだけで気持ち悪さがこみあげてきた。

 顔を隠してた布を少し上げられたおかげで、足元が見えた。

 脚と椅子が太い紐でがちがちに拘束されているのはいいが、床に文字がびっしりと書かれているのが気になった。


「うし。ランブロス。」

「へへ。あんさんも運がわるかったでさ。

 次に起きた時は、誰かの言いなりになってもらいますぜ。」


 そう言うと私の足元にある文字が光りだし、また意識を失った。


 気が付くと、暖かくて柔らかいところに寝かせられている。

 あの薬のせいか、少し吐き気がある。

 頭は全くはっきりしないが、目は開けることができた。


 広く大きな部屋だ。見覚えはない。


 絶望する私に、聞き覚えがある声が聞こえて来た。


「この度は、至極御苦労をなされましたようで、大変な事で御座いました。

 只今、御主人様とお嬢様にお声掛けさせて頂きますので、この場を離れ大変な不便をお掛け致しますこと、平に御容赦下さいますよう。」

「エウス、タキウスさん。」


 扉が閉まる音がした。顔はそちらに向けることができない。

 意識もままならずまた寝てしまいそうになるところで、扉が開いて、カリカとレフテリスさんが入ってきた。


「起きたかい。えぐちくん。君の中に施されていた他者従順の魔術は、王族特務部隊のローデが解除してくれたよ。

 媒介用の魔術薬の中和も併せてね。意識に作用する魔法を短期間で二度かけられたから、今は頭がはっきりしないだろうが、すぐに良くなるさ。」

「えぐちさん!よかった本当に何もなくて!」


 泣いて喜ぶカリカの涙がなんと美しいことか。

 なんとうれしいことか。


 私は表情が固まった顔に、笑顔を浮かべようとした。

 上手くできたかわからないが、その頭をなでながら、ありがとうという言葉を発してそのまままた寝てしまった。


 次に目覚めると、同じようにエウスタキウスさんがみんなを呼んでくれた。

 今度は意識もはっきりしている。今日は、私が一度目が覚めてから2日も経っており、エルピダ商会に行った4日後のことだと、カリカが説明してくれている。


 それにあれから何が起こったのかも。

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