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第31条の1「労働時間の適正な把握」

「こんにちは。ヴァンゲリスさんのお仕事は何ですか。」

「冒険者の登録を行っている部署の課長をしています。

 具体的には誰がどの依頼を受けたかとか、成功した、失敗した、いくら払った、とかを管理していますね。」

「労働時間が長くて、残業時間を申請できていない、ということはありますか。」

「はい。投書に書いた通りです。」

「あのヴァンゲリスさんは、やはりあなたでしたか。」

「そうですね。

 ほんとアルテミス事務長とクリストス事務次長が結託して好き勝手やっているので、それを止めてほしいんです。」

「私腹を肥やしている的な?」

「いえ、そういうことは……まぁ間接的にはそうかもしれません。

 中央ギルドの利益が増えれば、中央ギルド長はアルテミス事務長とクリストス事務次長の評価を上げるんです。

 そのためにこういったことをしていると思うし。

 それにあれですよ。3割持っていくのも売り上げを増やすためですよ。」

「なるほどそういうことですね。

 どうやったら仕事量減ると思います?」

「量を減らすのは難しいですね。

 漏れを防ぐために冒険者の登録は即日というようにしているのですが、それが翌日になったところで、登録作業が減るわけではないので、ずっとたまっていくばかりになるでしょうし。

 登録方法とか台帳を探すのを簡単にしたらいいんでしょうが、量が量だけになかなか難しいですよね。」

「そう、ですか。

 どうにか減らしたいんですけどね。長いでしょ?」

「そうですね。毎日6~7時間ぐらい働いてるんでしんどいはしんどいですよね。」

「そんなに働いてるんですか!?しかも、休みは週1日ですよね。」

「昔からずっと週1休みですし、誰かがこれないとかのときには、私が出てたので休みがないときもありました。」

「それはよろしくない。

 何か仕事していた時間が分かるもの、あります?」

「ないですね。特に書類に時間を書く決まりとかもないですし。」

「ん~ざんねんです。

 とりあえずありがとうございます。」


 私は1日の半分以上仕事しているヴァンゲリスさんの目の隅がすごかったので、急いで何とかしないといけないと切実に思った。

 とはいえ、昨日から誰に聞いても労働時間を全部把握する方法が、ない。

 中央ギルドに対してもう二度と同様の問題を起こさないように対策はさせることができるだろうが、過去の清算が無理に思えてきた。


 最終日、エラスミオス庶務部長の聞き取りの時間になった。


「改めましてよろしくお願いします。エラスミオス庶務部長。」

「はい。」


 最初の印象とは、打って変わって、かなりしおらしくなっている。


「改めてお伺いします。初めて私達が臨検した際、一切説明しなかった理由は何ですか。」


 しばらくの沈黙の後、エラスミオス庶務部長は大きく息を吐き、「実は」という言葉と共に説明を始めた。


「アルテミス事務長からね、いつか労基隊が調査に来ることがあるだろう、そのときは何も話さずに対応を最小限にしろ、という指示がありました。」

「なんですって――?」


 エラスミオス庶務部長はただ深くうなずいた。

 アルテミス事務長め、賃金不払い残業を労働者に強いているだけでなく、それを認識したうえでいつか調査が入ることを予期していた。

 いや、予期していなくとも調査が入っても発覚しないように対策していたということか。

 とてもじゃないが捨ておけぬ。私の心の中で怒りがふつふつとわいてきた。労働者を法を私達をないがしろにしているとしか言えない。


「ちなみにエラスミオス庶務部長は、残業代の申請とかできてます?」

「できないですよね。アルテミス事務長は怒ると本当に怖いんですね。

 一言目には給料減らすぞ、二言目には首にするぞ。

 私には家族もいますから、言うことに従うしかないですね。」

「そう、ですか。働いている時間が分かるものありますか?」

「ないですね。依頼や冒険者の受付は時刻を書きますがね、決裁する私は何も時間を書きませんね。

 最初に来て最後まで残っていることもありますね。

 1階で仕事をすることもあれば、2階で仕事をすることもありますね。」

「2階って何をするところなんですか?」

「記録の保管とね、庶務経理です。

 あと、中央ギルド長とギルド次長の秘書的な部署もねあります。」

「なるほど。ちなみに、今回の話はギルド長には。」

「入れていないと思いますね。事務長で止まっているんじゃないかな。」

「そう、ですか。」

「ええ。ギルド長がこの状況を認めるとはね、思えないですから。」

「それはいいことを聞きました。ありがとうございます。」


 新しい情報はなかった。

 ただ、今回の是正報告書は絶対に中央ギルド長の署名でもって作成させよう。

 この方針だけは固まった。


 翌日、カリカたちと聞き取りの内容を報告しあった。

 全労働者に共通しているのは、週1日休みだということ、出勤簿より長い時間働いているということだったが、一方で、始業から終業までの時間の記録はなかった。

 1名だけ、自分の手帳にずっと書いている労働者が居たが、それも自分の分だけなので、全員の是正は難しい。


 カリカたちに全額正しく遡及払いさせる方法を思いつかないか聞いたが、いい意見が出てこなかった。


「仕方ない。全額には足りないかもしれないけど、分かる範囲で払ってもらおう。」

「わかる範囲って言うとどういう範囲ですか?」

「カリカさんも聞き取っていると思けど、受付の時刻が書いてあるらしいじゃない?

 先月分の書類を全部もらって、今回聞き取りをした32名が絶対に働いている時間を算出して是正勧告書を交付しよう。

 それ以外の時間については、中央ギルドに調査させて報告させるしかない。」

「ちゃんと調査してくれるっすかね。」

「そこは是正報告のときに確認するしかないね。

 よし、そうと決まれば、次に会う時にその書類をもらおうかね。」

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