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第30条の2「労働者に対する尋問」

 翌日から、聞き取り調査が始まった。

 私が担当するのは、投書をしたであろうヴァンゲリスとニコレッタ、庶務部長のエラスミオス、その3名に加えて、10日間の張り込みで遅く帰っていたことが確認された労働者7名だ。

 

「では、ニコレッタさんどうぞ。」

「はい。あの、本当に全部話をして大丈夫なんでしょうか。」

「はい。ニコレッタさんが話した、ということは絶対に事務長や事務次長などには伝えません。本当のところを正直にお話しください。」

「わかりました。まずどこから話せばいいのか――。」


 非常に線が細い女性で、不安の感情が顔全体に広がっている。


「ゆっくりで大丈夫です。

 では私から色々聞いていきますね。まず投書を頂いたのはニコレッタさんで間違いないですかね。」

「あ、はい。私です。」

「なるほど。では、一個ずつ確認させてください。

 出勤予定表に無い日に出勤したことってあります?」

「あります。」

「それは誰の指示ですか?」

「クリストス事務次長です。

 労働基準法ができるまでは、1週間に1日しか休みがなかったんです。

 それが、法律ができて、1週間に2日休みを取れってなって、出勤予定表は法律に違反しないように作ることになりました。

 けど、休みが増えると働いている人の負担が増えるし、仕事が回らないから、これまで通り1週間に1日しか休みはない、って言われました。」

「なるほど。それで出勤簿に書かなかったんですか?」

「それはちょっと別です。

 アルテミス事務長が、全体会議で、『出勤予定表の時間以外を出勤簿に書いても給料は変わらない。出勤の確認のために出勤簿は書かせるけど、予定表以外を書いても意味ない』と言われて。

 それ以来みんな書かなくなりました。」

「そうなんですね。

 ん?

 でも、出勤予定表とは別の日に出勤してたんですよね?出勤日はどうやって決めてたんですか?」

「毎週何曜日が休みって口約束で決めてたので、それに従ってました。」

「となると、何か紙で残ってたりはしないのか――。

 出勤した日は予定表通りの時間で働いてました?」

「いえ。早く来たり遅く帰ったりしてました。

 依頼を受け付けたら、翌日に決裁を取って、翌々日には掲示しないといけないので。」

「その日程ってかなり厳しいですよね。

 それは、誰が決めた決まりなんですか?」

「ちょっとわからないです。昔からそうなっていたみたいで。

 聞いた話だと、依頼主との間でそういう契約書を交わしているとか。

 依頼したのに何日たっても掲示されないというのを防ぐためみたいです。」

「なるほど。

 働いていた時間が正確にわかる記録とかあります?」

「う~ん……。

 あ、依頼を受け付けた時間は全員書いているので、出勤予定表の時間以外に働いていることの一部はそれでわかると思います。」

「なるほど、それはいいですね。

 でも、全部は難しいですか。」

「全部は難しいですね。退勤時刻とか出勤時刻とか特に記録していないし。」

「そうですか。

 他に仕事が多くなる要因ってありますか?」

「私とは違う部署なんですが、冒険者の登録と変更手続きが大変みたいです。

 依頼の成功に対して報酬を払うんですけど、誰にいくら報酬を払ったかとか全部記録しておかないといけないので、大変してるって聞きました。

 あ、そういえば、報酬を3割回収しているのって違法じゃないんですか。」

「それは労働基準法で違法とは言えないですね。

 その3割回収は誰が始めたとか知ってます?」

「アルテミス事務長が事務長になってからです。

 誰もわからないだろうし、中央ギルドの利益になるからって。」

「なるほどわかりました。

 ちなみに、仕事が終わったらすぐ帰ってます?それとも誰かを待ったりします?」

「待つことはないです。

 家で子供が待っているのでできるだけ早く帰るようにしています。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「ほんと、ここで働いている人たちはみんないい方なので、給料面と仕事量がよくなるようにお願いします。」

「わかりました。できる限りのことをしてみます。」


 私が初日に4名から聴取したが内容はほぼ全て同じであった。


 全部終わってカルナック所に戻って報告会をしたところ、大体他も同じ状況のようだ。

 違うところとしては、友人と一緒に帰るために待つこともある、という労働者が1名いたこと。

 いつもではないということだったが、ここをアルテミス事務長が針小棒大にしないことを祈る。


 2日目。

 私はヴァンゲリスさんを呼んだ。

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