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第26条の1「労働者の権利」

 どうしたものか。

 タイムカードがあっても休憩時間を取っていないことの指摘は非常に難しいことが往々にしてある。


 なぜなら証拠がないからだ。


 休憩時間を打刻していてもそれ以上に休んでいたとか働いていたとか労働者も使用者も好きに主張できる。

 本当に働いていたとしても、証拠がない以上、特に今回みたいに賃金不払残念を起こしているようなところが、「休憩とらせてませんでしたごめんなさい」って簡単に認めることを期待するのは難しい。

 しかも1日だけは証拠を見つけることができてもじゃあ毎日休憩していないということを認めない場合もある。


 そうなると毎日の仕事について、有無を言わさない証拠をみつけなければならない。

 例えば休憩中に仕事をしていたという証拠はパソコンがあれば楽なのだが、電子機器がないと正直無理がすぎる。

 頭を悩ませてもしょうがないのでここは出たとこ勝負にすることにした。


「とりあえずだいたいわかりました。明日現地入りして、明後日の朝イチ、私達の仕事が始まる4時からすぐにに突撃しましょう。」


 お役所は8時5時、なんて言葉があるように、日本の監督署の窓口の時間は、8時30分から17時15分まで。

 この国の1時間は日本の2時間なので、労基隊詰所の窓口の時間は4時から8時30分までにした。日本より15分長い計算だ。


「朝すぐにですか?」

「うん。対応できる人が居ませんって言われるかもだけど、それでいいんだ。」

「なにしに行くんすか?」

「出勤して仕事をしている労働者の名前の確認。」


 労働時間の虚偽申告をする代表的な方法は3つある。

 出勤時間を遅く書く、退勤時間を早く書く、出勤してないのに書かない。

 朝イチ行ってそのとき居る人を確認することで、この3つの場合のうち最初と最後の2つを潰せる。さらに実態を把握するには、逆に偉い人は居ないほうがいい。

 下っ端の人間だけ居てくれた方が正直になんでも答えてくれるから。だからあえて朝イチに行くのだ。


「だから、みんな名前控えるの頑張ってね。」

「わかりました。」

「よし、そしたら明日の8時にここを出発しますので、そのつもりで。」

「はい。よろしくお願いします。」


 4名で挨拶を交わしてその日は解散となった。


 打ち合わせがおわりカリカの家で晩御飯を食べた。そのときは仕事の話をしなかったカリカだが、私が自分の部屋で寝る支度をしていると、部屋の扉を叩いた。


「どしたの?」

「ちょっと気になることあって。」

「どうしたの?」


 私はそう聞いたことを後悔した。いや、正確にはその聞き方が軽はずみであったかもしれないと反省したと言ったほうが正しい。

 カリカの眉と眉は普段より少し近づき、目には困惑と疑惑が混じった色になっていた。


 おそらく次に発せられる言葉は「なぜあなたがあんな行動を取ったのか理解ができない」であろう。

 真っ直ぐこのまま言われるはずも無いので遠回しにその気持がぶつけられるのは間違いない。

 そう感じ取ったので、後悔した。

 私が最初にするべきであった発言は来訪の理由を聞くことではなく、私の昼の言動に省みるべきところがなかったか見直しつつ、わからないときに備えてなにか粗相があったか尋ねることが必要でなかったのか――。

 私の思考と並行して、カリカは夜の挨拶をし、少し沈黙。そして私の質問の答えを言おうとしている。


「長くなるけど良いですか?」

「もちろん。」


 そう言って寝間着姿のカリカは、私の寝具の上に座った。私は部屋に一つしかない椅子をカリカの前に持ってきて、向かい合わせに座った。


「この間のトロヘラスディーロ工会からいくつか一緒に臨検させてもらいましたけど、えぐちさんって労基隊の仕事が好きなんだなって感じました。

 それでいて各会に対して、柔軟に丁寧に毅然とした態度を取りながら対応しているのとか見てて、ほんと凄いなって思ってるんです。見習わないといけないことがいっぱいあるなって。

 しかも、それが労働基準法を、労働者の命を守るために正義感をもってやってるんですよね。そう伝わってきました。」

「嬉しいけど買いかぶりだよ。」

「いえ、ほんとに。それで、でもだからこそ不思議に思ったんですけど……。」


 またも沈黙。「けど」のあとにはなにを続けようとしているのか。

 次の言葉がこの憂いともとれる表情から出てくるのを、私は本当に集中して待っている。


「今回の中央ギルドの件、あまり乗り気じゃないですか?」

「というと?なんかそう思わせるところがあった?」

「あったと言うか、なんとなく。なので理由とか無いんです。私の思い違いなのかなとも思うけど……。

 中央ギルドに対して厳しくしよう、みたいな発言がなかったので。

 確かに命に関わるようなことはなさそうなので、もしかしたらあまり行く気ないのかなって。」

「行く気ないって見えてしまったのかぁ。」

「正直そう思いました。何回も難しい難しい言ってたんで。」

「なるほどね。

 それは違うと否定したうえで、さて何から説明したらいいか……。

 そうだな。

 うん。労働者にとって一番重要な守られるべき権利って何だと思う?」


 私自身、消極的な動きを見せたとは思っていなかった。

 しかし、カリカがそう受け取ったのであれば、私の考えについて弁明する必要がある。

 そのためには最初から順を追って説明するのが良いと思った。そこで、カリカの考え方の基本的な前提を確認することにした。

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