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第24条「なぜなぜ分析」

 翌日になって、カリカとテオーネの3名で交付する是正勧告書の内容の検討を開始した。

 午後には交付予定なので、午前中に決め切る必要がある。


「まずは、と。

 まってくださいね。私の走り書きが汚すぎて、読めないんですよ。

 えっと、あぁ、材料を投入するところで呼吸用保護具をしていなかったやつですね。それは違反として書きますか。」

「暑かったのどうします?」

「そう言うテオーネはどう思います?」

「暑いのをどうにかしてください、って無理ですよねぇ。」

「難しいね。ほんとはどうにかしてほしいけど、あそこで働く以上は無理でしょうね。」

「だったら、1時間に1回外に出る時間を設けるとかどうですか。」

「お、カリカさんのその意見、採用します。」

「ありがとうございます。それと、落っこちないようにするのはどうしますか?

 2名もなくなっているので、必ず対策させたいんですが。」

「あ、忘れてたそうだそうだ。手すりか命綱かなにかさせよう。

 次は……転炉のところか。どうしたもんかねぇ。」

「いっぱい亡くなってますもんね。」

「なんかもっと遠いところで作業させたらいんじゃないすか。」

「テオーネの言うことに一理ありますよね。

 魔法使ってるんだし、遠いところからやれば加熱された鉄をかぶる心配もない。ただ、それだと労働者がめっちゃ疲れるらしいんだよなぁ。」

「働く時間を短くするように指示してみます?」

「それはする予定。6時間の2交代って言うから、4時間3交代に変更してくださいって。」

「え、でもそれじゃ人手足りなくなっちゃう。」

「まぁそこは対策をお願いします。それに違法として是正勧告書を書くわけではなく、お願いとして指導票に書くから、それぐらいは書いてもいいでしょう。

 無茶な時間働かせ続けたら、すぐに死にますよって、書いちゃいましょう。」


 労働基準監督官はなにも法律に違反することを文書で交付するばかりではない。

 このままだと、法律に違反してしまいそうなことや、法律に違反しないけれど、生命身体の危険があるときには「指導票」と呼ばれる文書を交付する。

 ちなみに、法違反を書いた文書のことを「是正勧告書」と呼ぶ。この国の労基隊でも、同じような制度を運用している。


『まったく、未熟で困りますな』


 というのはカロロス会長の言葉だ。この発言をした会長の意識改革を求める指導票を書かないと、災害はなくならないかもしれないとも思った。

 しかし一方で、抽象的な指示よりも具体的に「ここを変えよ」とか書いたほうが刺さるかと思って、今回は書くのを見送ることにする。

 今後、1年間かけて付き合っていくことになるので、どこかで書いて渡すことになるだろう。


「よしよし。ここまでできた。今度はその次だ。

 連続鋳造工程の回転具の災害か。これはもう、作業中には動かさないようにしてくださいって違反を指摘ですね。」

「そうですね。どうやってしてもらいます?」

「カリカならどう指示する?」

「どうしよう……なんか、合図とかないですかね。動かしていいよ、だめだよ、みたいな。」


 ここで私ははっとした。

 完全な失敗なのだが、あのとき、災害の原因を聞くのを忘れた。

 直接原因と間接原因のなぜなぜ分析や4M管理について実施しているのか確認していなかった。

 原因の分析無くして再発防止対策は行えない。

 したがって、適切に指導することもできないことになってしまう。なので――


「そうだね。それとか、『作業中』の表示とか色々ありますが、とりあえず、原因とその分析をしてもらいましょうか。」

「原因と――」

「分析?」


 きれいに二人とも首を傾げた。


「そう。災害が起こるということは、不安全な状態と不安全な行動があるんですよ。

 この二つのそれぞれについてなぜそうなったかの直接原因と間接原因を確認して、その原因をなくさないと同じような災害がまた発生してしまう。

 カリカが言った合図とか、私が言った表示とか、もしかしたら他にもっといい方法があるかもしれませんが、こちらから『表示を行ってください』って言ったらあんまり意味ないんですよ。

 こういうのはトロヘラスディーロ工会に考えさせないと。

 だから、ちゃんと考えてくださいねって指導票を書きましょうか。」

「わ~めっちゃちゃんと考えてるんですね。」

「失礼ですよっ。」

「ははっ。大丈夫大丈夫。意外と頑張ってるんですよ私。

 ちょっと文章にまとめてみるんで待っててくださいね。」


 私は労働災害の発生の分析をするような内容の指導票を書いた。

 手書きで長文の指導票を書くのは久々だし、習ったばかりの文字を使って書いているので、カリカとテオーネに手伝ってもらいながら書く必要があった。

 結果、もう昼食の時間になっていた。


「ごめん、休憩取れないかもしれないけど、あとちょっとやってしまおう。」

「え~労働基準法違反ですよ~。」

「あら、勉強不足ですねテオーネ。労働基準監督隊は労働基準法の適用を受けないと書いてありますよ。

 えぐちさんからの発案で適用しないでおこうとなったんですよ。」

「国家で働く人間には労働基準法の埒外で働いてもらわないといけない場合があるからね。

 私の居た国でも適用が外れていたので、同じようにしたんだ。」

「知ってますよ。冗談ですって。で、あとは何がありますか?」

「ん~……あ、軌道装置に鉄を乗せて倒れたやつだ。

 これはコイルを横倒しにするって指導票を書くか、同じようにさっきの災害の再発防止で終わらせるか……とりあえず再発防止でいいか。

 他なんかあったけ。」

「時間が長すぎるのはどうしますか。」

「法律の施行前だからね長いのは。今後はなくしてくださいねって書くぐらいですね。

 ――さて、と。

 終わった!ごはん!

 急いで食べて急いでトロヘラスディーロ工会に行かなきゃ。」


 私たちは急いで昼食を取り、トロヘラスディーロ工会に向かった。

 文書を渡すに際して、カロロス会長やダニエラから、一個一個の違反について、違法状態をなおさないとどうなるのか、とか、指導票はどの程度守らないといけないのか、とか色々聞かれたので、丁寧に説明した。

 そして最後に、私から一言説明を入れた。


「今回、お時間いただいて色々対応していただきありがとうございます。

 今後、報告で何回もお会いすることになると思うので、引き続きお願いします。

 最後に2点。

 まず、労働者が怪我をしたり亡くなったりするのは、すべてトロヘラスディーロ工会の責任だと考えてください。働いてもらって、製品を作って、それを売って。

 一部は労働者に還元されるでしょうが、一部は会の利益として得ていると思います。

 『利益あるところに責任あり。』

 これは事業活動によって利益を得る者は、その活動によって生じる損害に対しても責任を負うべきだという原則です。

 この原則で考えれば、労働者の怪我や病気や死亡という損害は、彼らを雇っている会が負担して然るべきですし、責任も会が負うべきです。

 その前提に立って、今後は安全対策、労務管理を行ってください。

 そして2点目。

 労働災害の発生防止のために、まず考えるべきことは『危険の除去』です。危ない場所をなくすことです。

 それができなかったら、柵などを設置する『工学的対策』です。

 これができないと立入禁止をするという『管理的対策』、そしてそれがどうしてもできなかったときに命綱とかの使用になります。

 材料の投入口の墜落対策で、注意喚起をしていましたが、注意喚起の表示というのは最後の最後に行う補助的なもので、対策としては不十分すぎます。

 この2点をしっかりと踏まえ、労働者を雇うということついてするべきことは何なのかを考えて、報告書を作成してください。」


 全てが無事に終わり、私たちはカッサーラに帰るべく馬車で揺られていた。


「えぐちさん、かっこよかったですよ。」

「えぇ、何が。」

「最後ですよ。やっぱりあれくらい熱い思いをもって仕事をしないとだめですね。感動しました。」

「カリカがそんな風に言ってくれるのなら、もうちょっと仕事頑張れそうだよありがとう。」

「私もかっこいいって思いましたよ!」

「はいはい。ありがとう。」

「どんな報告書が出てくるのか楽しみですね。」

「ね。私が言ったことがちゃんと伝わってればいいけどねえ。

 さて、疲れたし王都カッサーラに帰り着くまで寝ますか。」

「ふふふ。おやすみなさい。」


 私は目を閉じたが、興奮していたのかすぐには眠ることができなかった。

 今から帰ってカッサーラにつくのは夜になるだろうか。カロロス会長は私の言いたいことを理解してもらえただろうか。

 これが私の「労基隊」としての人生の始まりだとして、失敗はなかっただろうか。


 色々考えることがあった。ぐるぐる考えるうちに、寝てしまった。

 目が覚めると、カリカの家の前についていた。


 テオーネに別れを告げ、家に入り、少し遅めの夕食を食べ、すぐに泥のように寝た。今後もこの仕事をできる限り頑張ろうと思いながら。



 1か月後、1枚の投書が詰所に届いた。

 これまで色々な会について、監督に入ってほしいという投書や相談が相次いでいた。

 情報を精査し、臨検監督を行ってきたが、今回の手紙を持ってきたカリカの焦り方がそれまでとは違っていた。


「えぐちさん、監督に入ってほしいという投書が届いたのですが――。」

「うん?」

「この手紙を書いた方が働いているところが、中央ギルドなんです。しかも、残業代がもらえないし、働いている時間が長すぎるって内容で。」

「中央ギルド?」


 その手紙は中央ギルドで働く受付担当者からだった。

 そこにはこのように書いてあった。


―――――――

こんにちは。

私は中央ギルドで、依頼の案内を担当しています。

今回、手紙を書かせていただいたのは、ギルド内の問題を解決してほしいからです。

労働基準法が始まり、中央ギルドでも残業時間を少なくしようとなりました。

数字だけは減っているのですが、本当は、減ってないのです。

なぜなら、残業時間の給料を払わずに、帳簿のうえでは、残業していないようにしているんのです。

これまでは、働いた時間を正直に報告して少しのお金をもらっていたのですが、労働基準法が始まってからは、報告をさせてもらえなくなりました。たまにさせてもらえることもありますが、ほんの少しです。

毎日毎日長い時間働いてこれではなんのために働いてるかわかりません。

このままでは、何のための労働基準法かわかりません。

それと、ギルドから、パーティに対して、支払われる報酬なのですが、本来ギルドの取り分は、依頼料から2割を引く約束のはずなのに、3割取っているんです。これも違法ですよね?

どうか中央ギルドを取り締まってください。

―――――――



「とのことです。えぐちさん、どうしますか?」

「これは大変こまりましたねぇ。」

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