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第11条「18歳未満の年少者」

「あらためて私から。」

「じゃあパシラ直会長、どうぞ。」

「労働者を守ると言いながら、最低基準といいましたね。どんな基準ですか、言ってみてください。」

「多岐にわたりますし、時代とともに変遷していますので、今から説明するのはあくまでも私がいた時点で、となります。

 例えば、労働の対価は、金銭が原則で、現物給付は極々例外とすること、給料には最低基準の金額があること、1日の労働時間は8時間を原則とすること、休みをしっかりとること、死ぬような危険な場所では作業してはいけないこと、死ぬような機械は使ってはいけないこと、死ぬような材料も使ってはいけないこと、といったところですね。

 特に危険な場所に行かないように、危険な機械は使わせないようにというのは厳しく対応しております。

 だいぶ省略していますが、このように理解していただいて差し支えありません。」

「えぐち。色々質問しますよ。金銭のみですって?通貨の流通量には限りがありますし、各会に貯蓄が充分にあるとは思えませんね。難しいんじゃないですか。」

「そこはこの国の実情に沿うしかないと思います。

 現物支給を認めることも不可能ではありません。ただし、渡すときにその物の値段を国が決めることができるような仕組みになっています。」

「そこまで各会に規制をする必要がありますか。」

「この国の労働者の現状を調査してみないことにはなんとも言えませんが、不要とは限らないと思います。」

「ただ、8時間も働かせていいんですね。それは驚きましたよ。」

「あ~……確認ですが、この国では1日が何時間ですか。」

「そんなことも知らないなんて……」


「まあ知らないでしょうよパシラ直会長。昼が6時間、夜が6時間の12時間となってますよぉ。」

「議長ありがとうございます。ちなみに、1か月は何日ですか。」

「1か月は28日、1年は13か月ですねぇ。」


「その基準で言うなら1日の労働時間は4時間、1か月の労働時間は80時間が原則です。」

「まぁなんてことでしょう。短すぎます。

 それじゃなにも作れない。やはりこの国の産業を弱くするために規制したいのじゃないかしら。」

「もちろん絶対に4時間しか働いてはいけないということはないのです。

 4時間を超える労働を時間外労働と呼びまして、1か月働いて45時間の時間外労働をした場合、こちらの国の基準に置き換えるならば、23時間の時間外労働をしたら人は死ぬ可能性が出てくるという調査結果が出ました。

 働いて死ぬなんてもってのほかなので、23時間を原則に、どうしてもだめなら1年のうち半分は50時間まで時間外労働をしていいとしました。」


「へ~いろいろ例外を認めて、各会が動きやすいようにしてくれてるんですねぇ」

「ニコラオス議長、ちゃちゃを入れてもらっては困りますよ。

 いいですか。

 仕事は量でやるのです。時間を区切られてはいいものも作れなくなりますし、各会の会長がやりたいこともできなくなるんじゃないですか。

 どうなんです。」

「睡眠時間を削って無理やり仕事しても良いものは作れませんし、失敗も増えます。さらに、睡眠時間をけずることは命を削ることだと考えます。

 もし拘って一気呵成にやる必要があるのであれば、次の日に遅く出勤したり休んだりすることを求めています。

 仮に会長がやりたいことがあるのであれば、自身でやればいいことです。

 他者を命を削ってまですることではないと思います。」

「――最後に気になったのは、死ぬような危険な場所という言葉です。確かに仕事中に怪我をする危ない機械はありますけど、場所が理由で死ぬというのはちょっと感がつかないですよ。」

「1メートルは一命取る、なんて格言が私の国にはあります。

 1メートル、それはこの机の高さぐらいです。ここに乗って頭から倒れれば人は死にます。

 また、少し息苦しいところに長い時間居ても死ぬ場合があります。

 死ぬようなことはないという考えをお持ちということは、おそらく貴女と私の中での『死ぬような危険な場所』という定義が異なっていると思いますので、そこは懇切丁寧に認識を合わせていく必要があると思います。」


「さっきから聞いておれば、要は各会の会長に様々な義務を課し、それを規制するということなのであれば、全て警邏隊で対応できることではないか!

 特に命の危険は警邏隊で防ぐべきこと!特別な機関を作って新しい規制を実施する必要がどこにある。

 そうではないか!キリアキ警邏隊長。」

「いきなり話がこっちにきたね。

 どうだね、普段から警邏に行っているアレクシス隊長補佐。君のほうが実態をわかっているんじゃないかね。」

「はっ。実際の警邏は道路を歩くのがほとんどで各会の建物の中に入ることはありませぬ。

 しかも今回こやつは、事前の許可も取らず建物の中に入ったものであります。

 確かに本職が警邏を致しておるときも会長と話をすることは存在し、会長の求めに応じて中に入ることは存しますが、働く人が逃げたとか暴れたとか物を壊したとかそういう話だけであります。

 働いている状況については、なんて聞けばいいのかすらわかりません。」

「だ、そうだよ、イウリオス裁判長。」

「ならばキリアキ警邏隊長は自らが指揮する警邏隊が能力不足であることを認めるというのだな。」

「ちょっとそれは話が違うんでないかね。」

「何も違わぬさ!貴殿らがここで胸を張って充分に警邏しておると言えぬということはこの国の治安を守ることができていないと、そう言っているのと同義ではないか!

 なんのために警邏隊に訓練をさせて職務に当たらせている。軍部と別に警邏隊を作った意味をキリアキ警邏隊長は理解してないわけではあるまい。」

「相変わらず頭が固いね。動く範囲が違うと言っているんだよね。

 そもそもこの話をここにかけようとしたのは、まさしく僕たちが街中を見て回った結果なんだよ。働いている中で、色々されたという相談が最近増えてきてね。

 例えば働いているけど給料をもらえないとか、親元離れて働いた子が死んで帰ってきたとかね。僕たちの権限では見れない場所も多くてね。

 そこに彼がやってきたんだよね。

 実際に見て回るのが警邏隊でもいいけど、新しい権限を与えてもらえないと広い意味での治安を守ることができないんだよ。

 わかるかねイウリオス裁判長、君が肝入りで大きくしてくれた警邏隊も、その規則に漏れがあったということだね。それを自覚したくないから、そうやって大きな声を出しているのかね。」


「まままま、その辺にして。もしもぉ、問題がある会があればそれはなくさないといけない、ということが今回の共通認識なんだからぁ。

 そうやって相手の足を引っ張ることを言わなくてもいいでしょう。イウリオス裁判長も落ち着いて落ち着いて。

 ほかに何かありますか。」


「ニコラオス議長、よろしいかしら。」

「はいどうぞ、エレフテリア教会長」

「初めまして、この国の教育に関する業務を授かっているエレフテリアと申します。大変興味深い話をしていただき感謝ですわ。

 あなたの国では、子供と女性に危ない仕事をさせないということから始まったとおっしゃりましたね。

 子供と女性を優先的に保護する、とてもいい考えのように思えますわ。この国では、10歳までは働いてはいけない、働くのは11歳からとしています。

 その基準は変わりませんの?」

「年齢は違いますね。こちらの国には教育制度があると思いますが、『義務教育』という考え方はありますか?絶対に教育を受けないといけない年齢がありますか?」

「義務教育ありますよ。4歳から12歳までですわ。」

「義務教育を受けているときは、働いてはいけません。そして、私の国では義務教育は6歳から15歳までです。

 さらに、18歳までは体が発達していないなどの理由で、深夜に働くことは禁止されています。」

「まぁそれは働き手はさらに減るのがちょっと心配になりますが、確かに若い人を守るにはとてもいいことですわ。

 この国の基準では10歳を超えたら働いていいことになっています。まだ体も成長しきっていない子供を働かせるのは私としてはずっと反対でしたの。

 ちょうどよかったですわ。ニコラオス議長ありがとうございます。」


「ほかにはないですかね。この場で聞いておきたいこととかぁ。

――大丈夫、ですね。ではぁ、事前に通知していたとおり、この働く人を守る制度を作る方向で動き出させてもらうということで、族長会議に諮らせてもらいますぅ。

 族長会議に諮る文書は、実務者連携会議事務局を主として、直会補佐、教会補佐、警邏補佐に参加してもらうということで話がいっていると思いますが、いいですかね。」

「ならぬ。わが裁判隊補佐も入れてもらう。」

「裁判隊はあくまでも規則に基づき裁くのが仕事なのでぇ、規則の制定には携わらんことになっているのはご承知でしょう。」

「例外があろう。警邏隊に関する規則を定める場合だ。」

「言いたいことはわかりますけどぉ、今回の新組織は警邏隊とは違うでしょ。」

「違うことが確定しているのか?

 すでにそこまで具体的に決まっていたとは驚きな話だ。事前と話が違うというのであればここで諮ればよかろう。」

「はぁ~。イウリオス裁判長がそのように言っておりますが、意見がある方いますか。」

「あの、よろしいですか。」

「まさかのえぐちさんですか。どうぞ。」

「ここに、建物や土地の建設を担当している部署の方はいますか。」

「治水土木隊ですねぇ。」

「安全面を語る上では、建設の話が外せません。

 建設現場で死んでいる労働者は多くいると思いますので、建設現場の安全面の規制は最優先で行うべきであり、規制を決めるうえでその治水土木隊の担当者はぜひ入っていただきたいのですがいかがでしょうか。」

「なるほど。ヨルゴス治水土木隊長どうですかぁ。」

「建設への規制をするなら色々言いたいことがあるけど、裁判隊が入るならうちは入らないすよ。

 イウリオス裁判長の話だと、どのような規制になるかまだ具体的に決まってないってことですよね。

 規制を作る前段階の検討のならうちが入る必要ないでしょ。なぁアルキボスそんな暇ないよなぁ。」

「そうっすね。忙しいっすね。」

「だって。いいそれで、えぐちさん。」

「そうですね…規制を決める段階では必ず参加していただきたいと思います。」

「まってまってえぐち君。その決定権限は議長である私にあるはずでしょう。」

「あっ、すみません。」

「ということでぇ改めて、族長会議に諮る文書は、実務者連携会議事務局を主として、直会補佐、協会補佐、警邏補佐、裁判補佐に参加してもらう、そこでは制度設計のみを話して細かい規制の話まではしない、ということでいいですかぁね。

――異議なさそうなんで、そのようにします。では、えぐちさん退席してください。」

「ありがとうございました。」


 手許に時計がないので、どれくらいの時間をやっていたのかわからない。3時間近くはしていただろうか、いや、こちらの世界の時間でいうと1時間半か。


 私の話を聞くと冒頭言っておきながらすでに話が進んでいるとおりと最後に行っていた。ということは私の話を聞いた目的はどこにあったのだろうか。

 隣の2人に連れられて、議場を後にした。そのとき、カリカと目が合い、その表情はさもお疲れさまと言っているようで、また癒されてしまった。

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