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第六夜

 猛スピードの飛行は、二体の吸血鬼と聖十字の人間から少し離れた場所で止まった。


 すごい、体が浮かんでる……


 礼衛の体は上空に浮かび、吸血鬼と聖十字の戦いを見下ろす形となった。

 吸血鬼と聖十字の人間はこちらには気づいていないようで、地上での戦いを続けている。


「いいな、礼衛。まず、我々吸血鬼の翼は実際に生えているわけではない。これはいってしまえばオーラのようなもので、これによって飛行が可能となる。これは吸血鬼の力を手に入れた人間も一緒だ。別にお前も翼を使って飛行するのに特別、訓練はいらない。今は、儂の意志で飛んでいるが、それをやめるから自分でやってみろ」

「えっ?」

「大丈夫だ、少し意識するだけでいい」


 途端、体の浮遊感が抜け、落下しそうになった。

 

「おっ、え、おっと……」

 

 一瞬のことで焦ったが、すぐにその浮遊を取り戻していた。


「よしよし、いいぞ礼衛。そういうことだ。どうだ、自然に飛べているだろう」


 確かに落下しそうになって危ないと思ったが、自然に飛んでいた。

 

 これを僕が……


「よし次だ。礼衛、吸血鬼についてどれだけ知っている」

「少しだけ……」

 

 美香のことがあって、吸血鬼について調べていたため少しは知識があった。が、それでも吸血鬼について出回っている情報は少なく、対吸血鬼組織である聖十字についても、多くの情報が閉ざされ、つまり礼衛の吸血鬼に対する知識量はしれていた。


「礼衛、下をみろ」

 

 下を見ると、大型の吸血鬼は体全体を使って暴れまわり、二人の聖十字の人間がそれと戦っていた。そこから少し離れて、人型の吸血鬼と女性だろうか、聖十字の人間が一対一で戦っており、人型の吸血鬼は空に浮かび、何らかの攻撃を放っていた。

 見る限り、聖十字の人間はかなり苦戦を強いられており、特に人型の吸血鬼と戦っている人間は、防戦一方というような状況だった。


「いいな、礼衛。吸血鬼には人間のような吸血鬼と大型の吸血鬼の2タイプがある。大型の吸血鬼はあのように、儂やあの人型の吸血鬼と異なり、化け物じみた見た目をしているだろう」


 ブベルブゼの言う通り、大型の吸血鬼は怪獣のようだった。


「大型の吸血鬼は、理性がなく著しく知性が低い。あやつらは、ただ破壊衝動のもと生きる。厄介なのは人型の吸血鬼だ。あれを見ろ」

 そういわれ、人型の吸血鬼を見る。

「人型の吸血鬼は基本的に大型種よりも弱い。それは、もともと人間だった混合種も含めてだ。しかし、あいつは何か攻撃を放っているな。あれは魔力による攻撃だ。吸血鬼の中には、魔力を持つ者がいて、魔力を使う吸血鬼は一様に上位種にあたる」

 魔力……

「魔力を使うのは人型の吸血鬼に限られる。それはなぜか分かるか?」

「知性があるから……?」

「そうだ。いくら魔力を持っていても知性が低ければそれを使うことはできない。稀に大型種の中にも魔力自体を持っている者はいるが、それを使える吸血鬼はいない。それはさっきも言ったように、奴らは理性もなければ、知性もないからだ。だが油断はするなよ。大型の吸血鬼は魔力こそ使えないが、爆発的な力と硬度を誇る。だから、魔力を使う吸血鬼ほどではないが、大型の吸血鬼も上位の吸血鬼となる」

 

 じゃあ、あの体を貫通した攻撃は魔力によるものということか……

 礼衛は始めている情報に耳を傾けていた。


「あの大型の吸血鬼は、多分、そこの女と戦っている人型の吸血鬼の眷属だろうな。これまでの話からもう分かるな?」

「あの人型の吸血鬼は、かなり強い?」

「そういうことだ」


 礼衛には、暴れている大型の吸血鬼の方が強そうだと感じられるが、そうではないらしい。


 すると、その強力な人型の吸血鬼と空中戦を繰り広げている聖十字の人間が、吸血鬼が攻撃を放った瞬間、地上に落下した。


「おっと、あの人間、攻撃を受けてしまったな」


 地面で伏している聖十字の人間を前に、人型の吸血鬼がまた攻撃を放とうとしていた。


「礼衛、まだ吸血鬼については話すことがあるが、儂の意識がどこまで持つかわからない。あの女もこのままでは殺されてしまう。そろそろ実践に移ろう」

「実践?」


 考える間もなく、体が急降下した。

 地上に降り、見上げる先には人型の吸血鬼がいた。

 攻撃を放つその寸前だった。


「また、虫けらが来たか。いくら集まろうが無意味だというのに。本当に弱く馬鹿な種族だ」


 吸血鬼は攻撃をいったんやめ、あざ笑うようにそう言った。


「ハァハァハァハァ……」


 背後で、苦しそうな呼吸音が聞こえる。

 振り向くと赤い長髪の若い女性が、腹部を苦しそうに抑えていた。

 体にいくつか穴が開いていた。

 抑える手からは、血があふれ出している。


「ハァハァ……誰だ?……」

 赤髪の女性にそう問われた。

「なにを……ハァハァ、している……吸血鬼がいるのが、ハァハァ、わからないのか……」

 

 随分と苦しそうなその姿に、あのとき攻撃された自分の姿が重なった。


「礼衛、その女のことは気にするな。そいつも吸血鬼の力を持っているんだろう。ならばその程度の傷、すぐに回復する」


 吸血鬼は、再生能力が高いことは礼衛も知っていたが、吸血鬼の力を手にするとその能力も手にすることになるのだろうかと思った。


「それよりも、あいつだ」

 

 でもブベルブゼが言うのだから、心配はいらないのだろう。

 あいつといわれ、それが誰をさすのかもちろんわかった。


「フフッ、仲間と別れの挨拶は済ませたか。それでその女もろとも殺してやろう」

 振り向いてすぐ、空中の吸血鬼がニヤつき、そう言った。

 その言葉の後、吸血鬼の周りに黒いピンポン玉ほどの球体が数え切れぬほど現れた。


 あれは……


 その球体を見て、自分の体を貫通したのはあの球体だと理解した。


「くるぞ!」

 ブベルブゼの言葉のすぐ、



黒月玉(シュレストマ)



 黒い球体が、とてつもない速さで飛んできた。

 それは、避けようなど考えつかぬほどに。

 その攻撃を前に、礼衛は目をつむってしまった。

 死……それだけが頭に浮かんだ。


 あれ?


 おかしい、数秒経ったが、記憶にあるあの激痛はない。

 恐る恐る目を開ける。


 目の前には、驚きを隠せていない吸血鬼の姿があった。


「俺の……俺の黒月玉(シュレストマ)を受けきった……だと?」


「なんだ……その力は……」

 背後からも信じられないといった様子が伝わってきた。


 礼衛にも何が起こったかわからない。

 ただ、手には知らぬ間に剣を持っており、地面にはくぼみがたくさんできていた。


「礼衛、あいつは儂が倒してやろう」

「今の攻撃は……」

「あれは儂がこの剣ですべて受けてやった。では、いくぞ!」


 今のは、ブベルブゼがやった……だから、生きてる?


 礼衛の体が浮き、吸血鬼の方に飛んだ。


「何者だ! 貴様! くそ、もう一度くらえ」


 またあの球体が現れる。



黒月玉(シュレストマ)



暴食の夜(ブベル)





「そ……その……力は……なんで……人間ごときが……」



 黒い球は消え、吸血鬼は地上に落ちた。

 その体は、胸のあたりから下が消えていた。


「どうだ! 礼衛。いまのが儂の力だ!」

「すごい……」


 ブベルブゼの話によると、魔力を使う吸血鬼はかなり強力だったはず。それをたった一撃で倒してしまった。


「そうだろう。よし、礼衛。次はお前の番だ。お手本は見せただろう。あっちの大型の吸血鬼をお前が倒せ」

「で、でも……」

「大丈夫。ちゃんとお前は儂の血をモノにしている。ただあの吸血鬼を倒すことを考えろ。そうすれば自然と技が出る」



 大型吸血鬼は前にすると、一回りも二回りも大きく感じられた。


「誰だ」

「なぜ、宙を浮いている」


 大型吸血鬼と対峙していた二人の男性は、赤髪の女性と同じような反応をした。

 大型吸血鬼と先ほど倒した吸血鬼とはそこまで離れていたわけではないが、どうやら二人は今初めて礼衛の存在に気づいた様子だった。

 二人も随分、体力を削られているようだった。それほどまでに手を焼いていたのだろう。


「うわっ」


 あ!


 礼衛に気を取られたせいか、二人の男性のうち若い一人の男性が大型の吸血鬼の打撃を受け、勢いよく大学建物に衝突した。


 大丈夫だろうかとその男性のことを気にしたが、

「さぁ、やってみろ」

 とブベルブゼに急かされた。

「こいつを倒すことを考えろ」


 目下の吸血鬼は、猛々しい声を上げ、暴れている。

 その迫力はすさまじく、自分に倒せる気がしなかった。


 それでも、さっきの吸血鬼のようにブベルブゼが助けてくれる気配はない。

 もうどうとでもなれと、暴れる吸血鬼に向けて剣を構えた。

 それに反応したのか、吸血鬼が大きな口を開け礼衛に向かって、咆哮を上げた。

 吸血鬼の咆哮に委縮したが、その萎縮が礼衛を動かした。



月花の刃(マラディソム)



「えっ……」

「そうだ、それでいい」



 大きな大きな吸血鬼が、中心から真っ二つになっていた。

 吸血鬼の咆哮は止み、静寂が流れる。



 これは、僕がやった?



「礼衛、これで分かったな。この力を使って世界を救え」



 ブベルブゼの声は、この言葉を最後に聞こえなくなった。




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