第十四夜
「ですから、どうか皆さんと一緒に戦わせてください。始祖やそのほかの吸血鬼による殺戮を止めるためどうか皆さんの力を貸してください」
「吸血鬼と共に戦うなんてありえない」
アリベルをさえぎるように米田が発言した。
先ほど膝をついていた米田はもう回復したようで、立ってアリベルとザルゼアを睨んでいる。今一度、攻撃をするのではないかと思わせるような眼光で。
米田の言葉に、黙って聞いていた他の捜査官達も「そうだそうだ」「馬鹿なことをいうな」と沸き立った。
「皆さん、始祖の力は強大です。それは皆さんがこれまでに経験したことがないほどに。確実にその一体が解放され、この世界に地獄をもたらさんとしています。封印が解かれたフェゴルベルは、老いた状態ではあるものの我々吸血鬼の王として長らく君臨したブベルブゼさまに致命傷を与えました。それもたった一撃でです。このような強大な力を持ったフェゴルベルはいずれ必ず殺戮を開始します。皆さんだけで果たしてフェゴルベルを止められるでしょうか。しかも、フェゴルベルの他にまだ三体の始祖が眠っています。絶対に三体の解放は止めなくてはなりません。皆さんだけで果たしてそれを防げるでしょうか」
「黙れ、貴様ら吸血鬼のことを信用できるわけないだろう。私は枦里のことも全く信用してはいない。疑いは貴様ら二人の出現と共により深まった。その始祖とやらの話も作り話だろう」
「作り話などではありません。始祖は実在します。加えてブベルブゼさまがいなくなったことにより、吸血鬼の動きもこれまで以上に活発化するでしょう。当然、フェゴルベルにも同じように配下がいます。それらが各地で暴れ出したら対処しきれますか」
「だから何だ。貴様ら、たかが二人が加わって何になる」
「たとえ、一人でも二人でも戦力はあった方がいいと私は思います。我々二人は何度も言いますがブベルブゼさまが初めて生み出した吸血鬼です。始祖に匹敵するとは言いませんが、我々の力もかなり強大です。この力はきっと始祖やそのほかの吸血鬼との戦いに大きく役立つでしょう」
「舐めるな。今、我々人間側の戦力は過去最高と言ってもいい。貴様の話が本当だとしても、何の問題もない。始祖とやらも配下の吸血鬼も我々だけで対処する」
「しかし……」
米田は頑なにアリベルの主張を否定した。
他の捜査官も様子を見るに米田に同調しているようで、米田の言葉に頷く姿も見えた。捜査官達は言葉こそ発しないが米田と同じようにアリベルとザルゼアを睨み、敵意を滲ませている。
「お願いします……」
「無理だ」
米田や他の捜査官達の頑なな様子からかアリベルの声もどんどん弱くなってきて、心の底から懇願してるようだった。
それでも米田は揺らぎを見せない。
「今日は、貴様ら二人のことは見逃してやる。さっき長い間人を殺していないといったな。私はそれも信じてはいないが、もしそれが事実ならこれからもその姿勢を貫くといい。ただ命が尽きるのを陰で待っていれば、我々と対峙することもないだろう。だが、貴様らが人間に危害を加えるようであれば、この私が貴様ら二人を必ず殺す。わかったな。さぁ、早くうせろ」
米田は吐き捨てるようにそう言った。
「待ってくだ……」
それでもなお食い下がろうとしないアリベルだったが、そんな彼女をずっと黙っていたザルゼアが静止した。
ザルゼアはアリベルの肩に手を置き、首を小さく振った。
「ザルゼア……」
「アリベル、もうあきらめろ」
「なぜ止める」
「これ以上は無駄だ。あの人間がいうようにいきなり現れた、これまで人間の敵として存在した吸血鬼の話を信じ、仲間にしろというのも確かに無理があった」
「しかし、どうするんだ。我々だけでは始祖は倒せない」
「別に、我々だけということもないだろう。人間の仲間に今はなれずとも、始祖が現れたとき、吸血鬼が暴走したとき、その時に一緒に戦えばいい。わざわざ仲間になって行動を日々共にすることはないだろう」
「……あぁ、わかった」
アリベルはザルゼアの説得にようやく諦めがついたようだった。
「それでは、礼衛さま失礼します。ブベルブゼさま亡き今、我々の主は礼衛さまです。礼衛さまが危機に陥ったとき、必ずや力になります。また、その時まで」
ザルゼアからは言葉からだけでなく、雰囲気から礼衛への絶対的な忠誠を感じた。
「さぁ、行くぞアリベル」
「あぁ」
ザルゼアとアリベルは礼衛に一礼した。
その一礼で、礼衛を含めた捜査官全員がようやく吸血鬼二体がこの場から去ることを理解した。
ザルゼアとアリベルが頭を下げた姿に全員の気が少し緩まったその時、
「皆さん、緊急事態です!」
声は、部屋の上部、透明張りの部屋から聞こえた。