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第十三夜

 跪く男女の吸血鬼。



 一番早く反応したのは駕峰(がほう)だった。



白百合(レルミティ)



 駕峰は流れる静寂の中、魔力で剣を出し切りかかった。

 その後すぐに米田(よねだ)伊路(いじ)がほぼ同時に、



蒼炎(ソルティエ)

堕月(だげつ)



 攻撃を繰り出した。

 駕峰の剣が女の吸血鬼に迫り、伊路の拳が男の吸血鬼に迫る。

 そして二体を上部から米田の蒼い炎が包まんとした。



 しかし、三者の攻撃が二体の吸血鬼に当たるその寸前、



無価値な夜(ルベリア)



 駕峰の剣は消え、蒼い炎は消滅し、吸血鬼に殴りかかった伊路が血を吐きその場に膝をついた。

 吸血鬼が何かを発動したようだった。

 それがどういったものかは全くわからない。

 


「かはっ……」

「何だどうなってる。蒼炎(ソルティエ)が消えた。魔力が使えない」

「私も剣が出せない。一体どういうこだ……」


 今起きたことに、三人を含め全員が動揺を露にした。それは礼衛(ゆきひろ)も同じである。

 攻撃が消えた? 伊路さんはなぜかダメージを受けているし……


「皆さん我々は敵ではありません。どうか我々の話を聞いてください」

 口を開いたのは女の吸血鬼だった。

 その女の吸血鬼に米田が無言で蹴りかかったが、

「ぐはっ」

 と伊路と同じように血を吐き膝をついた。



「今、私の半径20メートルの範囲ではあらゆる魔力操作・武力攻撃が私も含めて禁止されています。ですから魔力で創出した剣も蒼い炎も消えました。打撃等の直接的な攻撃の場合、そちらの二人のように強制的にダメージが与えられます。なのでどうか無駄なことはせず我々の話を聞いてください」


 魔力操作・武力攻撃が禁止? 伊路さんと米田さんが血を吐いたのは直接攻撃をしたから?

 礼衛が女の吸血鬼がいうことを飲み込んでいると、

「ぐはっ」

 また米田が攻撃しようとして、血を吐いた。


 女の吸血鬼が言った通り、米田は攻撃を当てることができずに確かに強制的に動きが止められた。


「ハァハァハァ……クソッ……」


 二度ダメージを与えられた米田はかなり効いている様子で、うつむいている。

 礼衛にも米田の荒い呼吸音が聞こえていた。


「だから何をしても無駄です。攻撃はただいたずらにあなた自身を削るだけです」

「クソが」


 なおも米田が吸血鬼を睨みつけ、立ち上がろうとしている。



「やめろ。米田」



 そんな米田を止めたのは、最初、米田・駕峰・伊路と並んでいた髪を結んだ女性だった。


屡御(るみ)さん……」


 屡御の静止に米田も諦めたようで、立ち上がるのをやめた。

 屡御はそのままこちらに近づき、

「話を聞こう」

 と言った。


「ありがとうございます。私は名をアリベルと申します」

「私はザルゼアです」

「うむ、私は屡御という」


 女の吸血鬼は自らをアリベルといい、男の吸血鬼はザルゼアと名乗った。


「それで話とは」

「我々二人はブベルブゼさまが初めて生み出した吸血鬼で、ブベルブゼさまの忠誠なる配下です」

「配下?」

「はい」


 女の吸血鬼と男の吸血鬼はブベルブゼの配下だという。しかも初めて生み出した。


「ブベルブゼとは枦里(はぜり)が取り込んだという吸血鬼の王のことか」

「そうです。ブベルブゼさまは我々吸血鬼の始まりとなった偉大なる吸血鬼の王です」


 その言葉に他の捜査官達が騒然となった。「吸血鬼の王が本当にいたのか」といった言葉が聞こえてくる。


「その吸血鬼の王ブベルブゼとやらの配下が何の用だ」

「我々二人を皆さんの仲間に入れていただけないかとこうして皆さんの前に参上しました」


 一層、アリベルの言葉に捜査官が騒がしくなる。


「仲間に?」

「礼衛さまにお聞きになったかもしれませんが下賤な奴らがブベルブゼさまを裏切り、その上、始祖の一体を解放してしまいました。我々は、吸血鬼の暴走を止めなくてはいけません。ですが二人だけではどうにもなりません。そこで聖十字の皆さんに協力をお願いしたいと思いました」


 吸血鬼が協力? ブベルブゼは自分の配下に忠誠心はもうないと言っていたし、従属関係は完全に切れているって言っていたけど……


 礼衛は、アリベルの言うことを疑っていた。


「枦里の話にもあったが、その始祖というのはなんなんだ」

「始祖とはこの世に初めて生まれた吸血鬼のことで吸血鬼はブベルブゼさまを含め五体の吸血鬼から始まりました」

「五体?」

「えぇ、他にはフェゴルベル、モーマン、デスモアウス、ヴィアレタンといった四体の始祖がいます。かつて古の時代、覇権争いのためこれら始祖同士で戦争があったんですが、今挙げた四体はブベルブゼさまが封印し、そうしてブベルブゼさま一人が吸血鬼の王として君臨するようになったのです。封印が解かれたのは四体のうちの一体、フェゴルベルです」


 アリベルの話は、ブベルブゼに聞いたものより具体的なものだった。


「フェゴルベルが現れた日の夜、いきなりブベルブゼさまの視覚が私とザルゼアに共有され、我々はブベルブゼさまがフェゴルベルから致命傷となる攻撃を受け、そして礼衛さまに血を飲ませたことを知りました」

「しかし、なぜ貴様らが他の吸血鬼の敵となり、我々人間の味方となろうとするんだ」

「ブベルブゼさまは、人間を含めて殺しを行うことをひどく嫌っていました。我々他の吸血鬼にも殺しを行うなと命じるほどに。他の吸血鬼どもはその命を反故にしていましたが、私たち二人は命を守り、始祖同士の戦争以降、誰一人殺していません。視覚が共有されたのは吸血鬼時代の到来を止めるようにというブベルブゼさまから私たちへの最後の命令だと考えています。我々はなんとしても吸血鬼の暴走、特に始祖を止めなくてはいけません」

「なぜだ。お前の話によると、他の吸血鬼が命令を反故にし、殺しを続けたということは命令にはそこまで強制力はないのだろう」

「私たち二人は、ブベルブゼさまが初めて生み出した吸血鬼です。低俗な吸血鬼どもとは異なりブベルブゼさまに対して絶対的な忠誠心があります」

「しかし、そのブベルブゼはもういないだろ。これまでは忠実に命令を守っていたとしても、これからはその必要はないのではないか。お前たちも吸血鬼側に立った方が都合がいいだろう」

「我々の忠誠心は永遠です。たとえその存在が消えたとしても。それはブベルブゼさまの血を取り込んだ礼衛さまに対しても同じです」



 そういうとアリベルとザルゼアがこちらを見てきた。

 二人の顔がよくわかる。

 見た目は若い男女。どちらも端正な顔立ちだった。

 二人が礼衛を見つめる目は、なんともまっすぐな力強い目だった。

 二人のその目を見て、不思議と疑う気持ちが薄れていった。







 

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