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008 頼りになる勇者様がついてるんだ

 結果として、交渉をするというほどのことにもならなかった。


 エスファーラはドラハム王国が統治する大陸であり、国王が協力しろと書状で命令を出したのであれば、住民はどんなに怖くとも従わざるをえない。


 目をつけたガレオン船の船長は乗り気ではなかったが、暗黒大陸へ敬たちを送り届けるのに同意した。


「丁度、ガージへ出航しようとしてたところだ。暗黒大陸側のルートを使えば面倒も少ねえ」


 大陸の南西に位置するレックスに対し、鉱山街ガージは北東にある。そして暗黒大陸は北西となる。暗黒大陸に近いほど魔物の数も強さも増すので、本来であれば南側のルートを使って鉱山街に荷物を届けるらしかった。


「船長は暗黒大陸の近くを通ったことはあるのか?」


 興味本位の質問に、口回りに髭を生やした体格のいい船長は亀のように首を竦めた。


「あるわけねえよ! 自殺志願者も同然じゃねえか」


「護衛を雇っても無理なのか?」


「陸の上ならともかく、船じゃ護衛も満足に戦えねえだろ。積み荷を守る必要もあるしな。そこへ魔物が大挙して押し寄せてみろ。どんな船だってあっという間に沈められちまうぜ」


 弓などは一応あるが、地球みたいに銃などの強力な武器は存在しない。加えてファンタジー世界では当たり前の魔法も、女神しか使えないおまけ付きだ。


「魔物どもは得体の知れねえ力も使いやがる。火を噴かれて、燃やされれば船なんてイチコロだ。中には大波を起こす海の魔物もいるらしいぜ」


 魔法は使えないが、その代わり特殊能力は使える。それが魔物という存在だ。


 だからこそ人間は恐れ、苦戦を余儀なくされている。この先、文明がより発達していけば形勢も逆転するかもしれないが、その可能性が高いのであれば、女神イシュルはわざわざ敬に魔王討伐を頼んだりはしないだろう。


「ま、今回の船旅は安心していいぜ。頼りになる勇者様がついてるんだ」


 勇気づけるために船長の肩を叩くも、返ってくるのは愛想笑いだけだった。ドラハム王の書状にも敬は勇者と書かれていたはずだが、いまいち信じていないらしい。


 もっとも防具も何もなく、こちらの世界ではシャツにジーンズという得体の知れない服装の敬を怪しむのは当然でもあった。


「暗黒大陸方面を通るなら、積荷をもう一度整理してえ。そうだな。夕方過ぎくらいにまた来てくれ」


 船長と別れた敬たちは、港から階段を上がって街中へと移動する。舗装された道路などはなく、土の上に木や石でできた家が並ぶ。それでも露店ばかりだった港に比べれば街らしい。


「夕方まではまだしばらくある。そこらで昼飯でも食うか」


 道中はレリアが調理してくれたとはいえ、保存食のようなものが大半だった。干し肉や乾パンなどは硬く、地球の食べ物になれていた敬はあまり好みではなかった。


 しかし王都での歓迎会で食べたような、ステーキやハンバーグにも似た肉料理もこの世界にはある。まだ昼食を取っていなかった敬は、楽しみにしながら食堂の席に着く。


「王様に貰った路銀もあるし、気を遣わなくていいのにな」


 自分には不要だとルーファは食堂に入らなかった。敬は金銭的な面での遠慮とばかり思っていたのだが、向かい席の女聖騎士が顔を曇らせた。


「恐らくルーファ様はご自分の正体が露見するのを嫌がったのだと思います。私や勇者様は問題にはしておりませんが、半魔への差別はなかなかに根深いものがありますので」


 その説明は暗に、ルーファの生い立ちが住民にバレたら酷い目にあわされると言っていた。


「地球で言うところの人種差別みたいなものか。ろくでもねえな」


 地球の話はわからなくともニュアンスは伝わったのか、レリアは悲しげに頷く。


「半魔は災いを呼ぶ存在とも言われています。私の知る限りでは、半魔として生まれた者たちの末路は、どれも痛ましいものばかりだったようです」


 聖騎士とはいえ、一個人の耳に届くくらいの件数はあるのだろう。魔物も生きる為、子孫繁栄の為に必死なのだろうが、双方が望まない限りは敬としても許容できない。


「お互いが平和に暮らせればいいんだけどな」


 女神の知識を借りれば、魔物同士での生殖活動はほぼない。そもそも魔物そのものが、人間の悪意から誕生する存在なのだ。


 何故人間に欲情するかといえば、そうした悪意を持つ者のせいである。


 女性に恨み、憎しみを持つ人間の悪意によって誕生した魔物は、そのまま人間――特に女性に強い敵意を抱く。


「何にせよ、魔王を倒せば少しは世界も明るくなるだろ。そうすりゃ、ハーフの連中だって普通に暮らせるようになるかもしれない。いや、せっかくこの世界に呼ばれたんだ。俺が居場所を作ってやる」


「素敵です。さすがはケイ様。この身は勇者様に遠く及びませんが、是非、最後までお仕えさせていただきたいです」


 さほど人の心に敏感ではない敬であっても、はっきりと認識できるほどの好意だった。ひとたび戦闘になれば鉄球を持って暴れ回る女性でも、普段は美しい淑女なのである。


 会話を楽しみつつ、運ばれてきた肉料理やサラダ。携帯食よりもずっと柔らかいパンにコンソメスープを堪能していると、木扉がゆっくりと開かれた。

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