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045 甘く見るなよ!

 首を回し、肩を上下させ、肉体の感覚を確かめるような動きをルーファが行う。その間も敬は身動きが取れず、しばし呆然としていた。


「魔王……だって? この地底城で、確かに倒したはずだぞ」


「いかにも」


 魔王と名乗ったルーファが獰猛に嗤う。


「我がお主に滅ぼされたのは、紛れもない事実よ」


「だったら、どうして生きてる」


「意外と頭が回らぬな。半魔の小娘が、どうして器を手に入れられたか知っておるだろう」


「まさか……そのガントレットか!」


 軽くジャンプしながら、指差されたルーファこと魔王ゲーダは首肯した。


「いかにも。このガントレットには我の因子を少しばかり埋めておいたのよ」


 事も無げに言い放ったゲーダが、正面から敬の目を見てくる。


「強大な力が人間の国に降りたのはすぐにわかった。そこで我は思念体を飛ばし、一人の人間の中に入った。そして見たのよ。忌々しい女神の力を借り受け、決して弱くはない我が配下を物ともしない者の存在をな」


「それが俺か」


「お主が戦っている間に、我は見つけた。人々が魔物の脅威から救われそうになっているのを、忌々しげに見つめていた者をな」


 そこまで聞けば、たいして頭のよくない敬にも理解できた。人間に少なくない恨みを抱いていたのは、半魔であることを理由に迫害され続けてきたルーファ以外にありえない。


「我は乗っ取っていた人間の体で問うた。何か人間に恨みがあるのかと。答えはなかったが、我は知った。フードに隠れていた赤い目が見えたからな。そこで近くにあったガントレットに我の因子を宿らせて、この娘にくれてやったのよ。魔王と女神の力を吸収できる装備だと言ってな。あとはお主も知る通りよ」


 他ならぬルーファも言っていた。敬に同行を申し出たのは、あくまでも魔王と女神の力を手に入れる為だったと。


 討伐直前に魔王のとどめを刺したルーファは、恐らく敬が女神の元へ任務達成の報告をしに行くと思っていたのだろう。そこで不意を突き、上手く力を奪えれば世界を破壊する力が得られる。同時に本願を邪魔しかねない存在を排除もできる。


「まったく、ルーファもとんだ困ったちゃんだけど、アンタもアンタだな。魔王なのに、勇者に滅ぼされるのを前提で保険をかけてたってことだろ」


「腹立たしいが、事実なので否定はできぬな。魔王といえど我は人間の悪意から生まれた存在。……フム。何を驚く必要がある。吼えるしか能のない魔物どもと違い、上位種ともなれば知識を持ち、言語を使用するのをお主も見てきたはずだ」


「突然変異みたいなものか。アンタを筆頭に、そういう魔物が増えてきたから女神も傍観できなくなったんだな」


 魔王よりも強力な魔物が出現すれば人類の繁栄はもとより、女神の力をもってしても太刀打ちできなくなるかもしれない。そうなる前に、世界を荒廃させない為に、堕ちてまで平和を取り戻そうとした。方法はともかく、女神イシュルも本気で創造した世界を案じていたのだ。


「我としても一種の賭けではあったが、ガントレットが存在する限り、力を求めて人間は争いを続けたであろう。半魔と違って人間には魔力がないので復活までは時間を要しただろうが、悪意が積み重なれば我は再びこの世界に降臨できる。その頃には女神もいないかもしれぬ」


「色々と策を巡らせたみたいだな。で、ルーファの体をどうするつもりだ」


「知れたこと。我の肉体として使うのよ。この娘の外見をしておれば、お主も本気では戦えまい? さて困ったな。クックック」


 人が嫌がる戦法を積極的に好む。まさに魔王で、敬が大嫌いなタイプでもあった。


「我の魂が力を得たことで闇の力は増幅し、ガントレットには聖なる力も蓄えられている。扱うには多少の痛みを覚悟せねばならぬが、触媒を通しているのでさほどの問題にはならぬ」


 ルーファの外見をしたゲーダが床に手を当てると、生えてくるように光の棘が次々と敬とレリアの足元に押し寄せてくる。


「チッ。甘く見るなよ!」


 レリアを抱き寄せ、繋いだ手からの聖気を翼に変える。だが、敵の狙いはそこだった。


「宙では地上ほど速く動けまい」


 闇の球体が敬とレリアの周囲を囲む。徐々に狭まるタイミングに合わせ、防御態勢に移行しようとした矢先に、魔王が光の矢を放ってくる。


 光の衣で直撃を防ぐも、そのせいで相殺された分の聖力が弱まる。そこにやってくるのが闇の球体だ。床へ降下する敬たちを、容赦のない衝撃と爆炎が包む。


「ぐああ――っ!」


 悲鳴と共に床を転がる敬を、不愉快な笑い声が追いかけてくる。力を得ても戦闘はまだまだ素人な敬に比べ、魔王は明らかに戦い慣れていた。


「ケイ様、大丈夫ですか」


 女聖騎士が泣きそうな顔で肩を揺すってくる。度重なる激戦の影響で、彼女の鎧もすっかりボロボロだった。せっかくの美貌も煤けてしまっている。


「ああ。けど厄介だな。こうして戦っていると、創造神もルーファも心のどこかで本気になりきれていなかったのがわかるぜ」


 元女神だったイシュルは基本的に善の存在であり、ルーファにも敬たちへの仲間意識があった。しかし魔王には手心を加える理由など存在しない。嬉々として、最初から全力で敬たちを殺そうとしていることからもわかる。


「とはいえ、諦めるわけにはいかねえか。あの野郎に肉体を奪われたままなんて、ルーファがかわいそうだ」


「クックック。ではどうするつもりだ。女神の力をも手に入れた我は無敵ぞ。もはや魔王などという器では収まらんほどにな」


「じゃあ、お前は何だって言うんだよ」


「そうだな。クックック。今後は魔神とでも呼んでもらおうか」


 どこかうっとりした様子で、ゲーダが両手を広げた。


「……お前の目的は何だ。世界を征服することか」


 敬の問いかけに対し、自らを魔神と称したゲーダはくつくつと嗤う。


「そんなものに興味はない。我が望むのは喰らうこと。女神であろうと人間であろうと、我がより強大な力を得る為の糧に過ぎぬ」


「……強くなるために他人の力を取り込むってことか。最強になるのはいいが、他に誰もいなくなったらどうすんだ」


「どうもせぬ。我自身を喰らって終わるだけよ」


 悪意から生まれた存在らしい発言ではあった。しかしながら異世界人とはいえ、一応は人間である敬が素晴らしいと賞賛できる目的ではない。


「望まぬのであれば、我を滅せばよい。この娘ともどもな!」


 闇の球体を展開させ、敬の行動範囲を狭めさせた上で、光の攻撃を見舞ってくる。単純に破壊力だけを優先させていたルーファとは違い、ゲーダの戦法は着実に標的を追い詰めるやり方だった。

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