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042 こ、怖えぇぇぇ!

 回転する大鎌は光と闇の力を纏い、触れるものすべてを破壊する。物理では防ぎようがなく、強制的に結合させた魔力が相手では、敬が聖なる力を使っても跳ね返すのは難しい。


 結果として回避するしかないのだが、ルーファの速度は単純に敬を上回る。先回りして大鎌ブーメランをキャッチすると、改めて力の限りに繰り出す。しかもある程度は操作可能らしく、単純な動きにはついてくる。


「私が盾となりますので、ケイ様はその隙にお逃げください!」


 レリアの提案を、敬は一喝する。


「ふざけるな! 誰一人見捨ててやるもんか! ここで逃げたら、俺がルーファにぶつけた言葉のすべてが無駄になっちまう!」


「では、どうしますか」


 会話の最中にも回転する大鎌は敬たちを追いかけ、ルーファは行く手を遮るように斜め前方を走っている。広大な地底城の壁を半ば破壊するように突破し、他の部屋へ入り込んだところでたいした妨害にもならない。


「逃げ回っててもジリ貧か。だからといって正面からやり合うのも分が悪い。創造神イシュルがもっと力を残しててくれればよかったんだが、ないものねだりだよな」


 自嘲気味に呟き、レリアを抱えて左方へ大きく跳ぶ。直前まで足を乗せていた床を砕き、光と闇の大鎌が地面を抉る。


「抵抗の無意味さを悟ったのであれば、大人しく最期の時を待て。共に旅をしたよしみで、苦しまないように送ってやる。そしてあたしは本物の破壊神になる!」


「ハッ! そう言ってる時点で、人の心を残してますと宣言してるようなもんだ。お前こそ、素直になれよ! 本当はこっち側にいたいんだろ!」


「……慈悲すら仇になるか。では苦しみながら逝け!」


 ヘッドスライディングするようにして、ギリギリで頭上を通過する鎌を回避する。だが悠長にしている暇はない。すぐに立ち上がり、少しでもルーファから距離を取るべく走る。


「くそっ。大鎌ブーメランしか使えてないのを見ると、あれ以上はルーファの魔力も余裕がなさそうだし、そこまで敵わない相手って感じじゃないんだがな」


 女神の力を借り受けていた頃の敬であれば、魔王を討伐した時のように余裕をもって倒せたに違いない。しかしながら現在は、レリアの力を借りても当時の三分の一かそれ以下の強さしか発揮できていない有様だった。


「正面から圧倒するのが無理でしたら、不意をつくしかありませんね」


 敬の腕の中で、考え込んでいたレリアが言った。


「奇襲か。問題はどこを狙うかだな。生半可な攻撃じゃ、今のルーファには動きを封じるほどのダメージにはならない」


「少しでもルーファ様の力を弱められるといいのですが……」


「弱める? そうか……それだ!」


 握った手を離さないようにしながら、光の衣を翼に変えて、防御から速度に強化の比重を切り替える。後方宙返りすると同時に加速して、避けるのではなく大鎌手裏剣に突っ込む。


「うおお! こ、怖えぇぇぇ!」


「で、ですが、さすがのルーファ様も呆気に取られて、こちらへの注意が一瞬緩みました!」


 それこそが狙いだった敬は、姿を隠すように部屋から部屋へ移動する。本来のルーファであれば暗殺者のごとく音もなく忍び寄ろうとするはずだが、力を手にしたことで壁を破壊して視界を拡げる方法を選択していた。


 確かにまだるっこしくはないが、逆にこちらからルーファの位置を確認できるようにもなる。デメリットをまるで気にしないのは、強者となったゆえの油断だろう。思わず敬は、少し前までの調子に乗っていた自分自身を思い出す。


「隙がある今こそが最大のチャンスってか。よし、行くぞ!」


 光の矢を放ち、ルーファの死角にあった柱を破壊する。


 大きな炸裂音と崩れ落ちる柱に注意を奪われ、動きを止めるルーファ。しかし敬はあえて相手の背後へ回り込まない。全力で床を蹴り、跳ぶように正面から距離を詰める。


 なまじ暗殺者じみた動きを得意とするだけに、よもや自分の情報を知る敬が、バカ正直に攻撃してくるとは予想していなかったのだろう。ルーファの反応が一瞬だけ遅れる。


「もらった!」


 咆哮と共に、羽から変化させた光の槍で、狙いをつけたガントレットを突く。金属同士がぶつかるような甲高い音が木霊する。


「どうだ!」


「甘い!」


 放たれたルーファの回し蹴りを、隣にいるレリアが腕で防ぐ。闇の力でブーストされた威力を完全には消すことができず、敬もろとも壁まで吹き飛ばされる。


「器の触媒としているガントレットを狙ったのは見事だ。しかし、あたしがそこを防御していないはずがないだろう。浅はかすぎるぞ」


 勝ち誇ったようなルーファ。明らかな弱点なのだから、彼女が言うように何の対策もしていない方がおかしいのだ。


「くそっ。以前ほどの力があれば、同時に攻撃できたりもするんだが……」


 イシュルの力を得たとはいえ、レリアはあくまで人間。しかも堕ちたあとで天界からの加護を失った堕神の籠だ。無尽蔵の魔力とはいかなかった。


「申し訳ありません、ケイ様。私がもっとお役に立てればよかったのですが……」


「レリアは十分に助けてくれてる。ピンチを招いているのは俺自身の力のなさだ」



「いいえ、ケイ様。私が――」


「――戦場でイチャイチャするのはそれくらいにしてもらおう」


 永遠に続きそうだった敬とレリアの会話に、乱入してきたのは大鎌を担いだルーファだ。


「よう、どうした。お前も加わりたいなら遠慮することはないぜ。異世界生活とハーレムは切っても切り離せない展開だからな」


「……貴様は相変わらず意味不明で腹立たしい男だな」


 衝撃波みたいなものに全身を強打され、壁を破壊して廊下にレリアと一緒に転がる。


「ぐはっ! がっ……い、痛え……っての……」


 聖なる力のおかげで致命傷こそ免れているが、打撲したみたいな激痛が全身に走る。


 かろうじて立ち上がった敬の顎に、今度はルーファの爪先がヒットする。後ろ向きに飛ばされ、レリアと繋いでいた手が離れてしまう。


「これで力は使えない。あとは死ぬだけだな」


「そうは……させません……!」


 勇者でなければただの人間に過ぎない敬よりも先に、鍛錬を積んだ聖騎士のレリアがルーファと再び対峙する。


「無駄な足掻きを」


 空気ごと押し潰そうとする鉄球を片手で軽々と受け止め、無造作にレリアごと放り投げる。倒れている敬とは逆方向の壁に叩きつけられたレリアは、ピクリとも動かなくなる。

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