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024 照れちゃって可愛いとこがあるじゃないか

「じゃあ、何で俺は力を使えたんだ?」


「だから人の話を最後まで聞けと言っている。貴様は女神に力を与えられ、行使できるようになった。つまりイシュルの力で肉体に器を作られたのだ。力を引き揚げられて空っぽにはなったものの、器はそのままにしていたのだろう」


「まあ、イシュルの力を貸してもらえないと、器だけあっても無意味だもんな」


 的外れではなかったらしく、ルーファが頷いた。


「ゆえに女神も放置したのだろうが、今回の件は完全に予想外だろうな。あたしもまだ信じられないくらいだ」


「さっきの真っ黒い盾とか剣のことか?」


「ああ。恐らくだが手を繋いだことで、あたしの魔力が貴様に流れ込んだのだろう。器を求めて彷徨うしかない半魔の魔力だからこそ、空っぽの器に反応したと考えるべきか。フン。やはり信じられんな。たかだか手を繋いだ程度でなど。しかし仮説が事実だとすれば、互いの肉体的接触を強めるほどに、貸与できる魔力量は増すことになるな」


 肉体的接触というなんとも刺激的な言葉に、健全な男子である敬が反応する。


「貴様、鼻の下を伸ばして何を考えている! 魔物の餌になりたいのか!」


 強い口調ながらも露骨に動揺するルーファに、さすがの敬も申し訳なくなる。


「悪かったよ。けど俺だって年頃の男なんだ。可愛い女の子とキスしたくなったりしても、ある意味当然で、悪くはないだろ」


 懸命に弁解する敬の前で、怒りに震えていた半魔の少女が硬直する。


「キス? ……そうか」


 どこか気まずそうに口を噤む姿に、ムクムクと敬の中で悪戯心が膨れ上がる。


「おや? おやおやおや? ルーファちゃんは一体何を想像したのかな。肉体的接触という言葉で何を連想したのかな」


「くっ。不愉快な顔をやめろ! 女神の力のない貴様など、簡単に八つ裂きにできるのだぞ」


「照れちゃって可愛いとこがあるじゃないか。エッチなルーファちゃん」


「殺す。確実にぶっ殺す」


 本気でナイフを構えるルーファの手を全力で握りしめる。


「離せ! この変態が!」


 繰り出されるナイフを、体に合わせて作った闇の衣で防ぐ。女神の力か、魔物の力かというだけで奇跡を発動させる仕組みは同じだった。


 威力は比べるべくもないが、それでも只の人間である敬が、特殊な力を使えるというのは十分な強みになる。


「ええい。足にしがみつくな! 貴様にはプライドがないのか!」


「ルーファと離れたら力が使えなくなるんだ、仕方ないだろ。離れてほしかったら、攻撃しないと約束しろよ」


「ぐうう……わかった! 約束してやる!」


 悔しがりながらもルーファがそう言うと、ようやく敬は離れた。


「フン。あたしが素直に約束を守ると思ってるのか」


「ああ。ルーファを信じてるからな」


「……貴様は阿呆か? そんなに簡単に人を信じてどうする」


「ハハ。レリアの人の好さが移ったのかもしれないな。けど、俺が立ち上がれたのってさ、ルーファのおかげかもしれないんだよ。考えてみれば、これまで厳しくされた経験ってないんだよな。時には見守るより、叱られる方が優しいんだって初めて知ったよ」


 呆気にとられた様子で、ルーファが両目をパチクリさせる。


「どうやら先の戦闘で頭を打ったらしいな。とうとう本物の阿呆になってしまったか」


「うるせえよ。だからとにかくルーファには感謝してる。もちろんレリアにもな。彼女には酷いことを言って別れたけど、どこかで幸せになってくれるといいな」


「それなら本人にそう言ってやれ」


「え?」


 敬が目を剥くと同時に、少し離れた茂みがギクリとするように揺れた。


「まさか……そこにレリアがいるのか?」


「ずっとこそこそ追いかけていたな。貴様が力尽きそうになるたびハラハラしていたぞ」


 何を今更とばかりに暴露するルーファに焦ったのか、聖騎士の鎧に身を包んだレリアが観念したように立ち上がった。


「申し訳ありません。ですが私も騎士。一度ケイ様を守ると誓った以上、最後まで同行したかったのです」


 素直なレリアの言葉に、やれやれとルーファは肩を竦める。


「男女の仲というやつか。そんなにこの情けない男がいいのか?」


「はい」


 躊躇いなくレリアは頷いた。


「ケイ様がいいのです」


 ルーファをからかっていた時とは対照的に、今度は敬が焦る番だった。


「お、俺のどこがいいんだよ。手に入れた力で調子に乗ってただけの道化だぞ」


「ですがケイ様は突然に与えられた役目を拒否せず、力の限りに実行してくださいました。命を助けられた時、恥ずかしいですけれど、私は王子様がいらっしゃったのかと」


 顔面を真っ赤にして口をパクつかせる敬。隣では半魔の少女が、正気かコイツと言わんばかりに双眸を丸くしていた。


「旅に同行させてもらううちに、レックスでの一件があって、ますます素敵な方だと思いました。力ではなく、ケイ様の気高い心に惹かれたのです」


「気高い……」


 力を失って引き篭もり、レリアに八つ当たりまでした敬にすれば皮肉を言われているに等しい。そうでないのは、レリアの真摯な顔を見ればわかるのだが。


「私は信じています。ケイ様であればどのような困難にも立ち向かわれると」


「買い被りすぎだよ。レリアは褒めてくれるけど、あれは力があったからだ」


「いいえ。力を有していても、それを自らの為だけに使う者もいます。動機がどうであったとしても、ケイ様は間違いなく大勢の人を救ったのです。ですからそのまま前を向き続けてください。立ち塞がる者がいれば、失った力の代わりに私がケイ様の刃となり盾となります」


 堂々とした宣言に、敬はある種の感動すら覚えた。


「あれだけ酷いことも言ったのに。レリアは変わってるな」


「ウフフ。あんなに辛そうな顔で言われたら、誰だって意図に気づきます」


 悪戯っぽく笑うレリアに、敬は敵わないと苦笑して後頭部を掻いた。


「フン。くだらないお涙頂戴は終わったか。それならさっさと先を急ぐぞ」


 つまらなさそうに吐き捨てたルーファへ、おもむろにレリアが頭を下げた。陽光を反射する金色の髪が、清流のように首筋に流れる。


「ルーファ様もケイ様を静かに見守ってくださって、ありがとうございました。私が街へ買い出しに行っている間は、いつも気を遣ってくださっていましたものね。おかげで安心して出かけることができていました」


 こっそり後をつけていたのを暴露された仕返しではないだろうが、ルーファにとってはとんでもない爆弾が炸裂した。

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