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017 ……どうして俺だったんだ

「……どうして俺だったんだ」


「あなたが異世界に来たいと願っていたからです。地球の物語にあった異世界転生ですか? あれに並々ならぬ憧れを抱いていたあなたであれば、夢が現実となった世界で舞い上がり、感情のままにわたくしの望みを叶えてくれると思ったのです」


 女神の目論見は大成功で、まんまと敬は有頂天になって魔王を討伐した。実際に魔物は人間に害を与えていたし、勇者となって救った人々の笑顔には癒された。


(だけど、これは違う。いくら女神だからって事前に許可も得ず、人の心や命を好き勝手にもてあそんでいいはずがない!)


 確かにろくでもない人生だと思っていた。家族にも良い印象を持っていなかった。可能であれば異世界で暮らしたいと思っていた。


 けれどそれらはすべて自分で決断して、得たり失ったりするものだ。誰かに強制的に選択させられるものではない。


「あんたの作ろうとしている世界は、確かに平和なのかもしれない。けど、俺はごめんだ。そこには自由も幸せもない!」


「その結果、そちらの方みたいな魔物と人間の子が誕生してもですか?」


 瞬間的に固まった敬は何も言い返せなかった。油の切れた機械みたいな動きで、黙って女神とのやりとりを見ていたルーファに視線を向ける。


「わたくしが干渉すればそのような不幸は起こりません。もちろん半魔だからといって滅ぼしたりもしません。何不自由のない生活が送れるのです。あなたにとっても、それは望ましい未来になるでしょう」


 この場にいる敬たちには、まだ羽は刺さっていない。いかに元女神といえど、繋がりを持たなければ、心を意のままに操作するという荒業はできないのだろう。それゆえの説得だった。


「あなたたちには魔王を討伐した功績があります。ゆえに拒否しても構いません。悪意を持ったとしても、三人では魔王を生み出すには至らないでしょうから」


 そこまで言って、思いついたように堕ちた女神は微笑む。


「そうです。魔物もある程度は残しておきましょう。悪との戦いを経て、正義の心が強化されることもあります。戒めのために、半魔を少なからず誕生させるのもよいでしょう」


 イシュルとの対話で何度も愕然とさせられてきたが、これはその中でも最大級の衝撃を敬にもたらした。


「なん……だと……ついさっき、ルーファみたいな存在を作らないと言ったばかりだろ!」


「もちろんです。望まぬ誕生はありません。あくまでも祝福して生まれてくるのです」


 当たり前のように言い放つ女神に、敬は眩暈を覚える。


「要するに、母体となる女性の心を操作して子を産ませるんだな。最低最悪じゃねえか!」


「ですから、どうして憤るのです? 半魔という存在がきちんと認識され、祝福されるべき存在となれば迫害もなくなるでしょう」


「それを強制的にやるのが問題だと言ってるんだ!」


「人間に任せていたら遅々として進まないではありませんか。長い年月を経て、昔からあった半魔への対応はどうなったと思いますか? そこにいる少女が誰より知っているでしょう。何も変わっていないのです」


「だからってあんたの手動で誕生させてどうすんだ! より強い人間でも作ろうってのか!」


 激昂する敬とは対照的に、女神は冷静そのものだ。


「それも一つの手ではあります。すべては滅びを避ける為。目的が達せられるのであれば、生き残った魔物すら活用しましょう。わたくしにはもう頼るべきものはないのです。創造した世界と生物――子供たちとともに平和な世界を築くのです」


「狂ってる……」


 それが敬の率直な感想だった。


「自分が創造した世界が壊れるのを見るのは、確かに辛いかもしれない。だけど、こんなやり方は間違ってる!」


「……では、どうするおつもりですか?」


「あんたがやり方を変えてくれないっていうなら、力ずくで訴える! この世界で知り合った人たちが、心を失った人形みたいになるのを黙って見てられるか! それに……勝手に殺された恨みもあるしな」


 異世界へ召還してくれた女神イシュルには、間違いなく感謝もしている。けれどもし、転移するには自害が必要と言われていれば、即座に実行したかはわからない。


 単純に事故死したと思ったがゆえに、新たな人生を始められると喜んだのだ。


「命を奪ったことには申し訳なく思います。ですが、あなたも喜んでくれたではありませんか。今後も望んでいた生活を、悲しみのなくなった世界で送れるのですよ?」


「それについてはありがとうと言っとくよ。けど、いつ心を操られるかわからない状態で、楽しい生活なんてできねえんだよ!」


「フン。それについては同意見だな。そもそも暗黒大陸に悪意が集まるように創ったのは貴様だろう。いわば貴様が半魔を生み出していたのだ。迫害だどうだ言う前に、まずはそのツケを貴様に味わわせてやる」


 困ったように、イシュルはレリアを見る。


「あなたはどうしますか? こちらの二人と同意見なのですか?」


「わ、私は……」


 レリアが口ごもる。聖騎士という立場でなくとも、この世界の普通の住人であれば、唯一の信仰対象である女神に剣を向けるなど恐れ多くてできないだろう。


「無理をする必要はないぜ。レリアは下がっててくれ」


「で、ですが……本当に女神イシュルと戦うおつもりなのですか?」


「もちろんだ。言いたいことも言えない世の中なんて息苦しいだけだ。ちょっと悪戯とかしただけで悪意なんて言われる世界なんてまっぴらだ!」


 俯いたレリアが無言で後ろに下がる。共に戦ってくれないのは残念だが、敵対されないだけマシだった。

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