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013 俺を誰だと思ってるんだよ

 邪竜を倒したことでより友好的になった船長の協力で、敬はルーファやレリアとともに暗黒大陸へ足を踏み入れた。


 邪竜山の頂とは違い、常に夜みたいなおどろおどろしさはないが、空気が非常に重い。黙っていても息苦しく感じる。


「世界中の悪意がここに集まってるんだったな。暗黒大陸とはよく言ったもんだ」


「危険が過ぎるようであれば、一度戻って体勢を立て直すのも考えましょう」


 フル装備のレリアが、兜の下から提案してきた。


 道中に使ったガレオン船は鉱山街へ向かったが、入江にはベースとなる小屋を建設済みだ。魔物が徘徊する大陸なので過度な安心はできないが。


 積み荷を鉱山街に届け終えたあとで、船は入り江へ戻って来ることになっている。それまでには魔王を倒しておきたいところだった。


「いや。一気に突破すべきだな。魔王には配下もいるだろう。体制を整えられたら厄介だ」


 慎重派のレリアに対し、ルーファが積極的な意見を述べる。


 航海中は共に暗黒大陸を守るクラーケンと戦ったのもあり、半魔ではあっても露骨な嫌がらせなどを船乗りにはされなくなっていた。そのせいかは不明だが、現在ではあえてフードで顔を隠してはいない。


「魔王も配下も俺がまとめてとっちめてやる。改心を誓うなら助けてやるって言いたいところだが、魔王の討伐は女神イシュルにしっかりと頼まれてるからな」


 魔王と女神。元々がこちらの世界の住人ではない敬でも、どちらが正義かは悩むまでもない。


「とうとうここまでやってきたか。憎々しい女神の手先よ!」


「何だ? くっ! 地震か!」


 大陸全体に響き渡りそうな大声に続いて、敬の足元が激しく揺れた。ゴツゴツした岩のような大地がひび割れ、地の底から這い出てくるように巨大な影が姿を現す。


 木々や花をほとんど見受けられない渇いた地面を、ズシンと鳴らして立ち上がったのは、ゲームでは比較的ポピュラーなストーンゴーレムだった。


 五メートルはゆうに超えている巨体は、まさしく歩く砦だ。暗黒大陸に僅かな癒しを与えてくれていた太陽の光が遮られ、視界全体が圧迫される。


「我が名はゼニッシャー。魔王様に将軍を任命されている者だ!」


 雄叫びとともに、ゼニッシャーと名乗ったゴーレムの背後から無数の影が湧き出てくる。


「なんて数だ。これほどの魔物がいるか」


 舌打ちをしながら、ルーファはナイフを構える。その隣ではレリアも緊張を露わにしていた、


「質より量ってことか。だが、そんなのは脅しにもならねえぜ!」


 他に使える者がいないのでわからないだろうが、女神に与えられた奇跡の力は絶大だ。言うなれば魔法耐性という数値が存在しない世界で、一人だけ強力な魔法が使えるようなものだった。


「聖なる雷だ。腹が壊れるまで喰らいやがれ」


 轟く雷鳴が眩い閃光を走らせる。光の槍が降り注ぐような奇跡に魔物は戦慄し、味方は目を瞠る。


 一分もしないうちに、大半の魔物が焼かれて消滅した。


「反則すぎるだろう。どうなってるんだ、奇跡というのは」


 ルーファが呆然と呟いた。


「聖なる力はイメージ通りに変化する。要するに何でもありみたいなもんだ。さっきみたいに広範囲に聖なる雷を放つこともできるし、結界を作ったり、怪我を治したりもできる。病気に関しても同じだ。ただ……寿命を延ばしたりはできないみたいだな」


「……例の兄妹の母親か。なるほど。体調が一時的に回復したのは薬草の力ではなく、貴様の奇跡か」


「幼い子供たちの努力が無にならないよう気遣ったのですね。ケイ様はとてもお優しいです」


 横で話を聞いていたレリアが、ほろりと涙でも流すような仕草を見せる。


 大地を覆った魔物が数を減らして雰囲気は緩んだが、敵はそうもいかない。特に軍勢を率いて現れたゼニッシャーは露骨に動揺していた。


「さすがは勇者というところか。だが、我の屈強な肉体はそう易々と倒せんぞ!」


 地面の一部を引っこ抜き、棍棒のごとく振るってくる。大地に激突して砕ければ、すぐさま新しいのを作る為、あっという間に足場がデコボコになる。


「こちらとは違って、向こうは意に介さないみたいですね」


 砕けた大地の欠片が飛んでくるのを大盾で防ぎ、レリアは警戒を強める。


 巨大な敵が自身の足をくぼんだ部分と同化させ、強引に足場としているのが見えた。


「でたらめな攻撃だが、人間には効果的だ。ただし、俺以外のって注釈がつくけどな!」


 吼えた敬は宙に舞い、聖なる力を背中に集中させる。


「ケイ様に羽が生えました! 素敵です。まさに女神の遣いに相応しいお姿です!」


 レリアの賛辞を聞きながら、光の羽で大空に自由な曲線を描く。


「お前が大地を支配するなら、俺は空だ。さあ、これで条件は五分になったぞ」


「こしゃくな! 撃ち落としてくれる!」


 大地を砕いて礫を放つも、聖なる雷が迎撃する。


「ぐがあァァァ!」


 礫では相殺しきれない光の槍が、ゼニッシャーの岩の体を穿つ。


 無数の穴を開けられ、仰向けに倒れる敵目掛けて、一直線に敬は降下する。


「こいつで終わりだ!」


 作り出した光の剣でゴーレムの額を貫けば、無機質な顔面に宿った瞳の赤光が徐々に薄れていく。


「み、見事だ……だが、魔王様には絶対に勝てぬぞ……」


「これだけの力の差を見せられても、断言できるのか?」


 見下ろす敬に対し、ゼニッシャーはふてぶてしく嗤う。


「もちろんだ……何せ、魔王様の居城は地底にあるのだからな! 倒すどころか、辿り着くこともできぬだろうよ。ハーッハッハ!」


 勝ち誇るように笑い声を木霊させながら、ゼニッシャーは霧と化して消滅する。

「地底か。さすがに船では行けぬな。どうする?」


 尋ねてきたルーファに、敬は親指を立てて告げる。


「俺を誰だと思ってるんだよ」


 自分だけでなく、ルーファやレリアの全身にも聖なる光を纏わせ、敬はゼニッシャーが登場した大地の深い裂け目を覗き込んだ。

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