第83話 でんぷん、氷の魔女との対決 其の二
海の中を超高速で移動する4人がいた。
でんぷん【はっ、早過ぎる!!!】
15分程で冷えてきた。海水の温度が急速に下がってきた。そしてスピードを緩めたハイアーたちの目の前に氷の巨大な壁が立ちふさがった。
海獣族3人はどこから侵入しようかと思った会話をしていた(でんぷんには聞こえていない)が、氷の壁の下の方に穴が開いているのが分かった。
4人はそこから侵入したのだった。
魔宮の中
ハイアー『衛兵もいない。罠かな。』
ブレホン『そうかもな。お前はどう思う?』とホクザンに聞いた。
ホクザン『………。』無言だった。
ハイアー『それでも進むしかない。……どうした?でんぷん。震えてるのか?』
でんぷん『ふっ、ふっ、ふざけるな~!』と叫んだ。
ブレホン『おい、そんな大声を出したら気付かれるぞ。』
ハイアー『ここは氷の魔女ブレンダの居城だ。侵入したことは気づかれてるだろう。だけどどうした。そんな大声を出して。』
でんぷん『だって、ここ、息できるじゃないですか。オーツーマウス要らないです。』
ハイアー『そう言えばそうだな。すごいな。』
でんぷん『俺の素材集めは何だったんだ。』
ブレホン『ここの情報は誰も何も知らないんだ。』
ホクザンがでんぷんの肩に手を置いて『どんまい。』と憐れむような眼をして言った。
無口なホクザンの言葉はなんだか一番堪えた。
ハイアー『気を取り直して行こう。』
そして奥に進もうとした。3人の背後で大きな音がした。”ゴン!”と
3人が振り返ると……でんぷんが後頭部を押さえて呻いていた。
ブレホン『まさか、敵か!どこだ!』
ホクザン『滑って転んだんだろ。』
ブレホン『………。』
ハイアー『床も氷だから滑るしな。』
でんぷん『イッター!星が見えた。』と立とうとしたが再度滑って転びそうになった。
でんぷん『よく磨かれた床だ。……あれっ?なんでみんな普通に立ってられる。それに服も乾いてないか。俺の服はバリバリに凍ってきてるぞ。』
ブレホン『海獣族は海中から陸上に上がったら服をすぐに乾かすんだ。魔力で皮膚を振動させて水分を飛ばすんだ。』
でんぷん『便利な技をお持ちで。』と皮肉った。
ハイアー『体の重心を意識しろ。そうすれば歩けると思うぞ。』
でんぷん『なるほど。』
ブレホン『そうなのか。てっきり足裏を振動させて歩いているのだと。』
ハイアー『俺たちはそうだが、でんぷんはそれができないからアドバイスしたまでだ。多分、それで歩けると思う。』
でんぷん『多分ね。ハックション。』と震えていた。振動ではないので水分は飛ばない。
ブレホン『背中に手を当てるぞ。』とでんぷんの背中に手を当てたと思ったら
でんぷん『なに。あわわわわ。』
ブレホン『これで服は乾いただろ。』
でんぷん『やばっ、超気持ちよかったんだけど。血流が良くなった感じがする。病みつきになりそう。』
そして4人は奥に進んだ。
しばらくして慣れてきたのかでんぷんは転ばずに歩けるようになった。
そして誰にも会わなかった。
ブレホン『誰もいない。盗れそうなものもない。氷だけだ。』
ハイアー『だが、油断するな。』
ホクザン『敵の気配はないがトラップがあるかもしれんから用心しろ。』
でんぷん『………。』
でんぷんの未来視でトラップも敵の奇襲も分かる。だが何も言わなかった。ずーっと無口だった。理由は、
未来視で、自分たち4人が奥に進むのが視える。だが1日先でも誰も戻ってこないのだ。討伐に1日以上かかるとは思えない。となると別の出口から出たのか、もしくは全員死んだのか、だ。考えたくはないが後者が正解だろう。
でんぷん【帰りたい。】
かなり奥まで来た。あるのは階段だ。見上げるとずーっと上に続いている。
ブレホン『ここで待とうかな。』
ハイアー『太り過ぎだ。上ればダイエットにいいぞ。』
でんぷん『ブレホンさん、行きましょう。』未来視で4人とも上っていくから逆らえない。
こうして長い階段を上り始めた。
ブレホン『はあ、はあ、はあ。ここで何かを落とされたり階段を壊されたら落下して終わりだ。はあ、はあ、はあ。』
ハイアー『縁起でもないことを言うな。』
でんぷん『………。』何も起こらないことを知っている。
その時
???『そのような小細工はしない。』と女の声が響いた。
全員に緊張が走る。
でんぷん【未来視は声や音が聞こえないからなあ。びっくりした。】
ハイアー『お前が、魔女ブレンダか。』
ブレンダ『氷の魔女ブレンダよ。氷の、ね。』
ブレホン『できればそっちから会いに来て欲しいぞ。はあ、はあ、はあ。』
ブレンダ『それは構わないが、その氷の階段で戦えるのか?』
ホクザン『俺たちが行くから待ってろ。』と言いながらブレホンに向かって口を閉じろと合図した。
ブレンダ『久しぶりの来客だけど、今日は機嫌が悪いのよ。残念ね。』
ハイアー『そうか。俺たちはお前がここに住んでからずーっと機嫌が悪いぞ。』
一瞬、緊張が走った。が、
ブレンダ『まあいいわ。早くいらっしゃい。』そして静かになった。
階段を上ると大広間に出た。
ブレホン『もう、もう動けない。はあ、はあ、はあ。』と倒れ込んだ。
でんぷん『俺もさすがに疲れた。』と座った。そして周りを見回した。
何もない。あるのは氷の塊ぐらいだ。あれを操られたら厄介だな。だが
でんぷん『ん?まさか。ハイアーさん、アレを見て。』と氷の塊を指さした。
ハイアー含めた3人が見た。氷の塊を。その中にあるのは顔だ。どの氷の塊も頭を凍らせたものだった。
ハイアー『これが全部頭。冒険者たちのものか。』
ホクザン『冷酷無比。』
ブレホン『そうだな。装備品は無いな。残念。』
ハイアー『動けるならいくぞ。あの扉の向こうにいると思う。でんぷん、緊張してるのか。ここに入ってから無口だな。』
でんぷん『寒くて。』と答えた。
当然だ。あの扉に入っていく未来は視えた。だが1日先まで誰も出て行かなかった。絶望しかない。しかし、絶対未来視に逆らうことはできないのは分かってる。引き返そうとしてもできないことが起こるのだろう。いや、そのように考えること自体も想定されていて、拒否できないようになっているのかもしれない。
ブレホン『お宝は倒してから探すしかないか。』と立ち上がった。
そして4人は魔女の待つ部屋への扉を開けて入って行った。
この部屋にも氷の塊があった。もちろん頭だ。
ブレホン『俺たちもこうならないように頼んだぞ、でんぷん。』
でんぷんは返事をしなかった。視たのだ。自分たちがこのあとどうなるのか。
でんぷん【俺の異世界冒険もここまでか。】
でんぷん『ん、あれ?なんで?鳥?』凍った大きな鳥のようだった。
ハイアー『おおかた迷い込んで凍らされたのだろう。』
でんぷんが違和感を抱いたのは凍った鳥に対してではない。凍っているのに原形を留めているからだ。
凍らされたものは例外なく、体を粉々に砕かれ、頭だけを残しているのだ。
でんぷん【迷い込んだ鳥は敵対していなかったからか。敵意を向けなければ大丈夫なのか。否、どのみち凍っている。意味が無い。】
それに未来視で視た自分たち4人もそうなっていた。体が粉々に無くなったのに復活は無理だろうな。
色々考えていたが、一瞬で現実に戻された。
凄まじい冷気が前方から流れてきた。
ハイアーとホクザンが戦闘態勢に入った。
ハイアーは槍、ホクザンは剣を持っていた。
ブレホンは………ただ立ち尽くしていた。
でんぷんも剣を持たずに前を凝視していた。剣は意味が無いことを知っているからだ。
そこに氷の魔女が鎮座していた。




