第43話 はんぺんの魔力回路
その日の夜。
ブラッド+コーラル+遅れてきたレッドール+ブルーガン+グリンドル+レイ+はんぺんで宴会になった。分かったことは竜人族は酒豪だということだった。あの美人のレイですら底なしだった。
キング『レイ、こいつに剣術を教えてやってくれ。』
はんぺん『お願いします。』
レイ『無駄よ。パワー、スピードが圧倒的に足りないわ。』
キング『そうなんだよ。はんぺんは無能者だからな。俺が言わんとすることは分かるよな。』
レイはしばらく考えてから『イヤよ。彼はレッドールの…。』このあとの言葉を殺した。
レッドール『俺がなんだって?』
グリンドル『死だ。おまえの未来に死が見えるそうだ。』
レイ『グリンドル!』
レッドール『そうか。であいつに殺されるとか。ハハハハハ。ありえんだろうな。』
レイ『死の未来が7割。そのうち4割ほど彼が一緒よ。そして3割の生の未来には彼が常に傍にいたわ。』
はんぺん『えーと、俺も死ぬのかな?』
レイ『未来を視て欲しいの?』
はんぺん『死ぬ日が分かる…止めておこうかな。』
キング『おい、はんぺんお前だって、!!!!』鋭い視線を外のある方向に向けた。それははんぺんを除くその場にいた竜人族全てが同じ動作をしたのだ。
はんぺんはぽかんと口を開けてみんなを見ていた。
グリンドル『一瞬だったが邪悪な気配だったぞ。』
ブルーガン『そう言えば魔族の例の組織が活発に動いているらしいぞ。あの魔神の封印を解いたのもその組織らしいからな。』
レッドール『新たな魔神でも生み出したか。それに俺が殺されるとかな。』
この言葉に反論できるものはいなかった。誰もが有力な可能性だと思ったのだ。
キング『アーレダール王国の魔神は倒された。なら、仮に新たな魔神が出現しても倒してみせるさ。そうだろ、はんぺん。』
はんぺん『へっ?いや、どうかな。』
騎士団長4人『?』という顔をした。
キング『アーレダール王国の魔神を倒したのは誰か知ってるよな。』
レイ『表向きはムサシさんだけど、私たちの調査では違ってたわね。信じられないけど無能者だとか、しかも転生者。そんな人がいるわけないでしょ。転生者は魔力量がとても多いのよ。それなのにスキルが無いのはありえないわ。』
キング『その勇者は転生無能者だがスキルは使えるそうだ。』とニヤリとして言った。コーラルも笑顔だった。
レイ『例外?イレギュラー?そういうこと?でもそんな情報は聞いてないわ。』
キング『極秘情報だ。レイ、おまえのとは根本が違うようだがそいつのスキルも未来視だ。今日お前たちが来ることも、レッドールが遅れてくることも当てたぞ。』
レイ『!…ということは通常では検知できない極小の魔力でスキルを発動させてるんかしら?もう、分からないわ。連れてきて!会ったことがあるような言い方だったしどこにいるの?魔力回路を調べれば一目瞭然よ。』
キング『だから、さっきそいつの魔力回路を活発化してくれと頼んだろ。』
レイ『えっ?』しばらく考えてからハッとしてはんぺんを見た。目の前にいたのだ。無能者が。
はんぺんは両手を出して『お願いします。』と言った。
このやり取りの少し前に遠く離れた場所の家で家族4人が変死したのだった。
レイは差し出されたはんぺんの両手を見ていた。相手の魔力回路を動かすにはレイの左手から相手の右手にレイの魔力を流しそれを呼び水にして相手の魔力回路を活性化させるのだ。そして相手の左手を握っているレイの右手に流れるようにするのだ。だから両手を出してもらうのだが、言う前に両手が出るのは初めてだった。
レイ『それは未来で見たから両手を出したのかしら?』
はんぺん『そうです。でも魔力がないので魔力回路はありませんよ。』
レイ『その考えは間違ってるわ。無能者でも魔力回路があり、魔力もあるのよ。そうね、例えば虫…Gにも魔力回路があり魔力があるの。魔力を蓄える器が小さすぎて測定器では検知できないし、ステータスすら出せないくらいの魔力量しかないの。だからスキルを持っていても発動させることができないのよ。』
はんぺん『なるほど。』
コーラル『レイ、もう一度説明してくれる。はんぺんは理解してないわよ。』
レイ『………。無能者も魔力があり何らかのスキルも持っているけど魔力量が小さすぎて発動できないということは分かったわよね。』
はんぺん『えーと、ごめんなさい、もう一度、今度は幼児に言い聞かせるようにかみ砕いて説明をお願いします。』
レイはブラッドとコーラルを見た。2人とも笑いをこらえている。
レイ【ブラッド様ってこんなに笑ったかしら】
そして四苦八苦しながらなんとかはんぺんに理解してもらった。
はんぺんは理解したようだ。その証拠に目が輝いていた。魔力回路を活性化することでようやく未来が開ける気分になったのだ。
はんぺん『お願いします。お願いします。レイ様。】
レイ『分かったから。ついでにあなたの未来も見せてもらうわ。拒否権はないからね。あとは明日、剣術の方も教えるから。』
そう言ってからレイははんぺんの両手をそれぞれ握った。
レイ『深呼吸してリラックスして。』
はんぺん『分かりました。』そして深呼吸をした。そしてレイを見た。
レイは目を閉じて集中しているようだ。その姿を見て
はんぺん『うわ~、めっちゃ美人…綺麗だ。』と呟いたのだった。
その呟きが聞こえたのだろう。
レイ『静かに!声を出さないで。集中できないでしょ。』と怒った。
はんぺん『ごめんなさい。』
レイ『でも、ありがとう。女性にそんな言葉は反則よ。』と赤面しながら小声で言った。
数分後
レイ『………………。』目を開けてはんぺんを見た。
はんぺんはずーっとレイを見ていた。
はんぺん『おっ、終わったのかな。でも何にも変わっていないような………気がする。』
レイ『……………ないわ。』
はんぺん『ない?何が?』
レイ『あなたには魔力回路が無いわ。えーと生きてるのよね。無機物では無いわよね。』
ブラッド『……うーん、そこまでイレギュラーだったのか。』
はんぺん『………………。』しばらく言葉が出なかった。
はんぺん『レイさん、どんまいです。まあ、結果はどうあれ今まで通りなだけなのでノープロブレムです。』
レイ『慰めるのは私のほうなんだけど、もう。はあ~………。魔力が無いからあなたの未来が全く視えなかったわ。』と少し笑いならが言った。
コーラル『色々と残念ね、というわけで、はんぺん残念会をしましょう。あら!お酒が無いわね。買ってこないと。』
ブルーガン『大丈夫です。ほら。』と言ってマジックバッグから大量のお酒を出した。
グリンドル『港町で仕入れてきてたのか。やるなあ。』
ブルーガン『当然。』
レッドール『よし、飲もう。』
数時間後
キング『おい、この酒…もしかして海龍族の酒が混じってたんじゃないのか。』
ブルーガン『ご名答。そうで~す。』
レイ『キャハハハハ。だから目が回るんだ~。』
グリンドル『同じ竜族の酒は効くわあ。』とみんな完全に酔っていた。
コーラルは……寝ていた。
はんぺんは一口で飲むのをやめたので大丈夫だった。
レッドール『おい、はんぺん。魔力がないから強くなるには優れた性能の武器や魔道具を持つのも手だぞ。お前ならどんな属性の武器がいいと思う?』
はんぺん『武器…ムサシさんにも言われました。そうですね……。』
キング『ムサシとは前の世界の同郷らしいぞ。』
レッドール『へえ~。だからブラッド様は弟子にしたんですか?』
キング『それもあるがよきょ……っとイカンイカン。』と口を噤んだ。
レッドール『よきょ?…あ~余興ですかあ。なるほど。』
キングはシマッタという顔をした。
はんぺん『あ~余興のよきょでしたかあ。気になってたんですよ。スッキリしました。でどんな属性武器かと言われれば、もちろん炎属性の武器でしょう。凄そうだし。』
レッドール『おお~、そうだろそうだろ炎が最強だよなあ。お前とは馬が合いそうだ。炎はな………。』
キングは苦笑しながら二人のやり取りを眺めていた。はんぺんが余興にイジけるかと思ったがスルーだった。そこがはんぺんのいいところなのかもしれないと思ったのだった。
レッドール『よし、お前にとびっきりの炎属性の剣を見つけてやるよ。期待してろ。』
はんぺん『本当ですか?師匠いいですか?』
キング『好きにしろ。そこまで干渉しないぞ。』
はんぺん『やった~!!!!。』
コーラルに続いてレイそしてブルーガン、グリンドルもいつのまにか寝ていた。
そして夜は更けていったのだった。




