第28話 おでん、死力を尽くして
おでんは、ミスリルの剣をミノタウロスに振りかざした。
未来が視えない。原因はおそらく魔神の心臓だろう。濃い魔気による妨害かもしれない。
剣がミノタウロスの体に当たったが、傷すらつかなかった。
おでん『マジかよ。』
そのおでんの攻撃を無視してミノタウロスは、心臓に向かったビリーに斧を振り下ろした。ビリーは間一髪でそれを躱した。
ビリー『おでん、役割を果たせ。』
おでん『分かってるんだけど、こっちを向いてくれない。』
おでんは剣で何度も斬るが、完全に無視されていた。
おでん『かなりムカついたぞ。斬ってもダメなら突いてみよう。』と突き刺した。
ミノタウロス『グオッ!』と斧を落として両手でお尻部分を押さえておでんの方を向いた。
おでんはミノタウロスの肛門のあたりを刺したのだった。
おでん『さすがにそこは丈夫ではなかったか。』
ビリーは、おでんのその躊躇なくそこに刺したことやそこを刺そうと思ったことに対して敵に回したくないと思った。
ミノタウロスがゆっくりと斧を拾い、咆哮をあげた。
おでん『あっ、やっぱりご立腹ですよね。うおっ!』振り回した斧を避けた。
今度は斧を振り下ろしてきた。それを受け止めようと思ったが、直感で止めて間一髪避けた。斧が床にめり込んだ。
おでん『斧だけにオーノー。あれっ、面白くない?』
ビリー『………斧だからオーノー………ククククク、ハハハハハ。しゅ、集中できん。』ビリーの笑いのツボに嵌ったらしい。
ミノタウロスがめり込んだ斧を力いっぱい引き抜いた。その瞬間をおでんは見逃さなかった。もう一度突き刺した。ミノタウロスの動きが止まった。
おでん『角があるからオスだよね。』股間に剣を突き刺したのだった。
ミノタウロスがゆっくりと倒れた。
ビリー『ミノタウロスをそういう風に倒したのはおでんが初めてだと思うぞ。しかも変異種をいとも簡単に。次は俺の番だ。』股間への攻撃を見て背筋がゾクゾクときて笑いが収まっていた。
ビリーが心臓をスキルで爆発させようと剣を振った。
おでん『あれっ、爆発しませんね。くっ、刃が通らない。』
ビリー『………ああ、変だな。で、お前はミノタウロスの死体に何してるんだ。』
おでん『あ~。ほら変異種の串焼きを食べたくて。でも肉が切れない。』
ビリー『この国が滅びるかもしれないというのに串焼きかよ。終わったら俺が斬ってやるよ。』そう言って、ビリーがもう一度スキルを使った。やはり何も起こらない。
その時、心臓から二人に黒いものが放たれた。黒い魔気?
2人が吹き飛ばされ壁に激突した。
内臓が燃えてるように熱い感じがして二人とものたうち回った。
ビリーがなんとか立ち上がった。しかし、立ち上がったことで再び黒い魔気がビリーに放たれ、今度は気を失った。
その頃、ムサシ達は限界をむかえていた。どんどん魔神が2人のスキルに耐性を持つようになってきていた。すでに重力100倍が効かなくなっていた。ギルマスの空間切断も魔神の体が少し抉れる程度になっていた。
ギルマス『やっかいな敵だ。耐スキル成長型タイプは初めてだ。』
ムサシ『そんなタイプがいても普通はその前に死ぬだろうからな。』
ギルマス『そうだな。で、どうする。俺は万策尽きた。』
ムサシ『時間稼ぎすらできなくなるとは思わなかった。己の無力を実感してる。いかに勇者パーティーが凄かったかがわかるよ。』
ギルマス『なら、ソロはやめて仲間を見つけて旅をするのもいいんじゃないか。』
ムサシ『考えておく。さあて、俺はここで(王都を)見守る。おでんは間に合わなかったか。』
ギルマス『残念だが、避難の時間は十分稼いだと思う。俺も一休みだ。マジックポーションも尽きて俺の魔力も底をついた。』
ついに二人は白旗をあげたのだった。
ロトの別荘
ロト『まだ間に合いますよ。』
マリーは首を振り『ここで待ちます。ロト様こそお逃げください。』
ロト『あなたと同じですよ。きっとおでんさんなら何とかしてくれると信じてます。』
マリーは今度は頷いた。【おでんさん…。】
おでんは迷っていた。立ち上がればビリーのようになる。しかし、立ち上がらなければ心臓を破壊することはできない。そもそもおでんの攻撃力で破壊できるのか。いや、キズすらつけれないかもしれない。
おでん【もう十分頑張ったよね。この世界に放り出されて小説でしか知らなかった異世界を体感できた。もう十分……じゃないわ。この世界の女、マリー…マリーとしてない。】
おでんはエロパワーで立ち上がった。黒い魔気がおでんに向かって放たれた。おでんは横にズレて避けた。【やっぱり直線的な攻撃だ。】ゆっくりと近づいて行った。
おでん【あの黒い攻撃は放つ瞬間が分かるから避けやすい。あとはこのミスリルの剣でダメージを与えられるかだ。線よりも点。俺の攻撃力を考えれば突きで穴を開けるしかない。】黒い魔気を警戒しつつ、剣を構えた。
おでんは、息を整えて【俺には攻撃系スキルはないし、ステータスも他の転生者よりも低い。それでも俺がここにいるということはそういうことだろ。】
おでん『はあああああ。』と剣を思いっきり心臓に突き刺した。しかし、びくともしない。
おでん【ゴムみたいだ。押してもダメなら更に押す。】『うおおおおおおお。』
目の前に黒い魔気が集まってきている。【やばい。俺に放つんだろう。その前に。】
脚そして腰に力を入れて剣先を心臓に押し込む。黒い魔気がおでんにぶつかった。
おでんが吹き飛び壁に激突した。ミスリルの剣は砕け散った。
心臓は……なんともない。
おでんはかろうじて意識があったが、少しでも動けば内臓そのものを吐きそうなくらいの状態だった。
地面の振動が伝わってきた。徐々に大きくなってきているのが分かった。
おでん【魔神がこっちに向かっている?ギルマスとムサシさんは?】『くそっ。』と呟いて、起き上がろうとした。ビリーを見たが気を失ったままだ。
おでん【みんな、俺が心臓を見つけて破壊してくれると信じてたんだ。……きっと。】『ぐはっ。』三度、黒い魔気が当たり倒れた。体の感覚がおかしい。休みたいと思った。しかしまだ心は折れていなかった。おでんは、這いつくばって進んだ。立たなければ攻撃されないと思ったのだ。だが攻撃手段はなかった。剣が砕け散り、残っているのは、銅の剣と拾った短剣。どう考えてもミスリルの剣よりも劣る。【だからどうした。俺は勇者じゃないし、そもそも予定外の転生者だ。俺に期待し過ぎだ。】
おでんは拾った短剣を見つめた。【まさか、この短剣になにかあるとか?そんな都合のいい話は主人公だけの特権だよな。ということは魔人を倒すなにかがあれば俺が主役ということか。】とポジティブ思考で少しやる気がでた。
だから這って心臓の下付近まで来た。立たなかったことで攻撃されなかったのだ。
おでん【魔法攻撃ができないから物理攻撃するには立たないといけないし、立ったらアレが飛んでくるだろうな。もう避ける体力はない。それにアレを今度受けたらもう一度という気力も出なさそうだ。それならこの一撃に賭ける。】
おでんは右手に銅の剣、左手に拾った短剣を持ち、息を整える。狙いは心臓の動脈か静脈の血管にした。心臓の筋肉を断てる力はないからだ。血管も強固ならお手上げだが他に目ぼしい箇所は見当たらなかった。
おでんは息を止め、立ち上がると同時に力いっぱい二本の剣を血管に向けて突き出した。血管は………堅かった。キズすら付かなかった。黒い魔気が集まり放たれた。しかし、おでんは飛ばされないように踏ん張った。【まだだ。これが最後だ。】
おでん『うおおおおおおお!!!!。』渾身の力で剣を押したのだった。
数秒経っただろうか。ついに剣先の抵抗が無くなった。
おでんは見た。
2本の剣が砕け散るのを………。そして主役かもという希望が潰えたために踏ん張りが無くなり壁まで吹き飛ばされ激突し倒れたのだった。
おでんには、もはや立ち向かう気力も体力も残されていなかった。
次回は 12/20 18:00更新(毎週金曜日)




