第19話 ムサシvs魔族①
とある小さな家。
ここには、母親と10歳位の女の子が住んでいた。父親はいない。魔物に殺されたのだ。だから母親が稼ぐお金では育ち盛りの子供のお腹を満たすことはできなかった。だから定期的に教会が無料配布している生活物資を貰ってしのいでいた。
この日、母親は朝早く近くの小さな教会に行き、施しを貰って帰るつもりだった。そこへ行く途中に出会った。そう、出会ってしまった。
フードを被った男『もし。お腹が空いているならこれをあげよう。教会に持っていこうと思っていたんだが、ここで会ったのも何かの縁だ。どうかな。みんなに分けてもよし。あなたが全部持ち帰ってもよし。好きにしたらいい。私は誰か一人でも喜んでくれればいいと思う。』
母親はその言葉を聞いて迷わず貰った食糧を全部持ち帰ることにした。
母親【これだけあれば我が子にお腹いっぱい食べさせることができる。】
大量の食糧を持ち帰ってきた母親を見て、女の子を目を輝かせて聞いてきた。
女の子『お母さん、これ、どうしたの?』
母親『親切な人がくれたのよ。食べなさいって。だからお腹いっぱい食べていいわよ。』
女の子『本当?美味しそう。お母さんも一緒に食べよ。』
母親『ええ、お母さんも食べるわよ。どちらが多く食べるか競争よ。』
女の子『私負けないから。』
フードC『ヴォロンテ、あれの保管はどうだった?』
フードB=ヴォロンテ『変わらずよ。問題ないわ。ところで人間に何をあげたの?ナザール。』
フードC=ナザール『最後の晩餐だよ。』
フードA『また実験か。余計なことを。』
ナザール『余計ではなく必要なことだ。お前には分からんだろうな。アルヴァ。』
アルヴァ『まあいい。俺は魔人が復活するまでここに留まるつもりだ。ヴォロンテはどうする?ナザールは実験を見届けるんだろう。』
ナザール『もちろん、今後のためにも成果を見ておきたいからな。じゃあな。』と消えた。
ヴォロンテ『私も残るわ。少しやりたいことがあるし。』と言って消えた。
アルヴァ『やりたいこと?………痛い目を見なければ理解できないか。命があればいいが…。』と言って消えた。
女の子『お…か…あ…さ。』これが人間としての最後の言葉だった。
母親だったもの『ギギギギギギ。』もう人間ではなかった。
この日、ある場所で見たこともない魔物が突然出現したのだった。
その緊急事態に国衛騎士が向かった。
騎士A『騎士長。見たことのない魔物です。周りの人々が襲われました。』
騎士長『俺のスキルを使う。副長班は近くの住人の避難を。残りは私とともに討伐するぞ。』
魔物に近づく騎士たち。その魔物は、全長5mほどか。オークに似ているがかなり醜い姿だった。
騎士長『確かに初めて見る魔物だ。オークの変異体か。しかし突然、町中に?どうやってここまで?』
その変異体?が口から液体を吐く。周りに異臭が漂う。液体が蒸発し出した。
騎士長『毒気だ。すぐに浄化を。』
騎士の1人が魔法を使い浄化した。
騎士長がスキル国境を使った。
騎士長『結界を張った。これより攻撃を開始する。』
その言葉と同時に変異体に火系魔法が炸裂した。
変異体の体が焼ける。そこに剣技スキルが炸裂した。切り刻まれる体。悲鳴を上げる変異体。しかし、その体が再生し元に戻り始めた。
騎士長『再生が早い。オークキングレベルか。だが、おかしい。なぜ動かない?もう腹が膨れたのか?』
そうなのだ。国衛騎士たちが駆けつけてから一歩も動いていないのだ。すでに何人もの人々が犠牲になっている。それを食べて満腹で動かないのか?
騎士長『再生が早いから持久戦になるぞ。俺のスキルは破れない。ここで打ち取るぞ。思いっきりいけ〜』
怒濤の魔法攻撃に剣技の物理攻撃が変異体に炸裂した。再生が追いつかなくなったのか、体が崩れ始めた。
その戦況を遠くから見守るナザール『毒の体液が拡散してないな。あのリーダーらしき男のスキルか。』面白くなさそうに呟いた。
ヴォロンテ『私が協力してあげるわ。』そういうと両手を前に出し、何かを唱えた。両手から赤色と青色の炎が出た。それを捻るようにして矢のように放った。
変異体が体液を撒き散らしながら悶え苦しんでいた。
騎士長【おかしい?どうして攻撃してこないんだ。】
騎士A『もうすぐで倒せそうだ。ハウル騎士長のスキルで被害は広がっていない。無事に国境内に封じ込めてるみたいだ。』
スキル国境:周りと断絶し逃げることも外から侵入することも出来なくなる。それは毒気すらも。
しかしその境界壁にヴォロンテの魔法攻撃が当たった。その衝撃に騎士長が気付いた。
騎士長【どこから攻撃を!】スキルを破られれば毒気が拡散する。魔力を出し惜しみせずスキルを最大限にあげた。しかし、ねじられた2色の魔法の矢が生きてるように回転しながら壁を破ろうとする。そして遂に穴があき、それを見届けてヴォロンテの手が動くと同時に中で赤と白の炎が広がった。
一瞬で騎士が全滅した。隔離が逆に仇になり、炎が逃げ場のない閉鎖空間に広がったのだ。騎士長がかろうじて息をしているが、大怪我で動けなかった。その目は部下が変異体に食べられるのを見ているだけだった。損傷した体を治すために人間を食べ始めたのだった。
騎士長の意識が遠のく寸前、上空から
『遅くなってすまない。あとはまかせろ。』ムサシのその言葉は届いただろうか。少し安心したような死に顔だった。
ムサシ『見たことのない魔物だな。匂いから毒を撒き散らしてるのか。俺に毒は効かないぞ。潰れろ!』地面に降りたムサシがそういうと変異体は地面にめり込んだ。
ムサシ『へえ~、50倍でも耐えるのか。すごいな。じゃあ、100倍はどうだ?』
重力100倍に耐えきれずについに潰れた変異体。体液すら100倍の前に拡散できなかったようだ。そのムサシに向かって3色の魔法矢が放たれた。
しかし、ムサシに届く前に地面に落ちた。魔法すら落とすスキル重力使い。
ムサシ『なるほど、ハウル騎士長があの程度の魔物にやられるはずが無い。原因はあいつか。』
およそ500m離れた高い建物の屋根から攻撃していたヴォロンテ。S級冒険者のムサシがやってきたので倒そうとさっきよりも強力な魔法矢を放ったのに撃ち落とされた。
ナザールはムサシの姿を見た瞬間に移動して逃走してしまったのだった。
ムサシがヴォロンテのいる方を見た。その瞬間、ヴォロンテの勘がささやいた。《逃げろ》と。しかし………
ムサシは右手をヴォロンテの方に向けて引いた。
その瞬間、ヴォロンテはムサシの前に這いつくばっていた。重力で身動きが取れなかった。一瞬で引き寄せられたのだった。
重力スキルの派生で作った引力スキルだ。ターゲットを決めて自分を重力の中心と見立てて集中的に力を付加することでそのターゲットを自分に引き寄せることができるのだ。
ムサシ『最後に言い残すことはあるか?』
誰だ?何の目的?を聞くのではなく遺言を聞いたのだった。
ヴォロンテは交渉すら出来ないことを悟った。しかし『もうすぐ魔人が復活する。』この言葉に反応があるはず。
ムサシ『それが最後の言葉か。死ね。』
絶望がヴォロンテを襲った。仲間が言っていた意味が分かった。相手の実力すら分からずに死ぬことを、手を出してはいけないものに手を出したことを。
ナザールはただ成り行きを見ていた。
そこに合流したアルヴァ『このままではヴォロンテが死ぬぞ。』
ナザール『そうだな。だが忠告はした。』
アルヴァ『俺は助けに行く。あれでも仲間だ。』
ナザール『お前も死ぬぞ。』
アルヴァ『ああ、そうだろうな。だが見殺しには出来ない。』
ナザール『そうか。じゃあ、助けるだけならチャンスは一瞬だけくるかもな。俺は別の場所から見届ける。』そう言って消えた。
アルヴァ『チャンスだと?』
ヴォロンテは目を閉じた。魔神様復活や魔人封印解除を見たかったと思った。その時、別の呻き声と大きな音がしたので恐る恐る目を開けた。横にアルヴァが寝ていた。
ヴォロンテ『どうして?』
アルヴァ『助けに来た。忠告したぞ、こいつに手を出すなと。残念ながらこの有様だが。』
ヴォロンテ『助けに?ナザールも?』
ムサシ『まだ仲間がいるのか。』
ヴォロンテとアルヴァはシマッタという顔をした。
ムサシは周りを見回した。『分からんな。』見つけられなかったのだ。
そういうと指輪の通信機で誰かに話をし出した。
ムサシ『おでんはいるか。2階のバルコニーに出して欲しい。ああ、そうだ。頼む。』
しばらく前に、おでんは国衛騎士と変異体の戦う音を聞いてロトの別荘の2階から見ていた。
おでん『うーん、分からん。良くないことが起こってそうだ。王都は怖いなあ。クワバラ、クワバラ。触らぬ神に祟りなし、だ。』一階に降りてきて、フルーツでも食べようと思っていた。
ロト『おでんさん、いいところに。ちょっと2階のバルコニーに行って欲しいんです。』
おでん『布団でも干すんですか?』
ロト『なぜ?言ってる意味がわかりません。』クリーン魔法があるのに布団を干す必要はないし、そういう文化ではないのだ。
おでん『あ~、ジョークです。』
ロト『? とにかく2階へ。』おでんを引っ張って2階のバルコニーに連れ出したのだった。
そして指輪の通信機で、ロト『今、立ってます。』と言った。
次回は 10/18 18:00更新(毎週金曜日)




