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猫の戯れ


 放課後。

 バスケット部の部室。

 体操服を脱ぎかけた姿の三人の少女が一緒に熱を帯びた躰を横たえていた時に、革靴の床を鳴らす音を聞いた。それは近づいてきて、力尽きて横たえる志麻子の前で立ち止まった。波沙美は気だるい顔をして頭を少し起こし、侵入者の足元を確認する。靴から判断すると生徒か。すると、その三人の情交後の様子を見に来た者の方から胡座をかいて座り込んだのだ。

「いよう、波沙美。よろしくヤッてるようだなぁーー」

 にやけた笑顔で話しかけてきたその女は、八尋鰐真也だった。肩に流れたウェーブの掛かった髪を後ろへとやると、言葉を続けていく。

「今日は挨拶しに来ただけだ」

「……へぇー、今だったらアタシたち無防備なのに、挨拶だけ……」

 上体を起こして横座りになり、前髪を掻き上げる。真也は腕を組むと言葉を続ける。

「波沙美よぉ。バスケの授業のこと、忘れちゃいねーよな」

「覚えてるよーー」

 そして「くすり」と軽い笑い声を発したのちに、波沙美はゆっくりと立ち上がって拳の一方を腰に当てて言葉を吐き出した。にしても、下半分が丸裸なのだが。

「いやあーー。“あの時の”真也の顔ったら最高だったよねー」

 躰を斜に構えて片手を肩の辺りまで上げたポーズをとり、歯を剥いた笑顔で更に言葉を繋いでゆく。

「アンタさ。あんな目に遭いながらも、何て云うかさ、ほら……。スケベな顔してたじゃない」

 赤毛の声を聞きながら、真也は無言で立ち上がる。

「アタシ、その時のアンタに興奮しちゃっててね。あの時、濡れてたかも? ね」

 次の瞬間。

 部室に乾いた打撃音が響いた。


 真也の腕が前に伸びて、赤毛の女の顔面を狙っていたが、その拳は翳された掌によって掴まれていたのだ。二人の間にいた志麻子は素速く身を引いて片膝を突き、構えていた。アリスも同じように構えている。拳越に覗く猫のような瞳で真也を睨み付けつつ、波沙美が語りかける。

「真也ッチよ。挨拶だけじゃなかったのかい?」

「ああ? 細けぇ事云うなよ波沙美ちゃん。事態は計画通りにゃ行かねえ時だってあるさ」

「いいこと云うねえー」

 握り潰しにかかろうかとした時に、拳から離れていた。真也が目線を下に移して、すぐさま波沙美に戻すと、ひと言。

「てかさ、早よパンツ穿けよ。アタシでも目のやり場に困るぜ」

 そう指摘されたので、波沙美は腰骨ラインのパンツを穿いた。そして、近づいてゆき鼻先が触れる手前までのところで止まる。真也は一歩引こうとしたが、志麻子とアリスから背後を塞がれた。そして、波沙美は手首を取り、締まった腰に腕を巻きつけてグイと抱き寄せたのだ。

「はいそうですか。……つって、そのまま帰すと思ってた?」

 そう悪戯っぽく笑って話した女に、真也が上辺の笑顔をして答える。

「ちょっと後悔した」

「……そう……」

 囁くように相槌を打った直後に、二人の唇は重なっていた。

 気持ち長いか。

 吸う力を増した。

 ねっとりと舌が絡む。

 真也の口内を舌先で愛でてゆく。その間にセーラーのタイを解いて、ジッパーを下げてると下着を露わにさせる。お互いの口を離した時には、糸が引いていた。

「逃げないのか?」

「ああ」

 後ろに手を回してホックを外して滑らせながら、真也の膨らみに優しく添えた。

「アンタを至近距離で初めて見たよ。美人だねー」

「あ、ありがとう」

「こうやってみたら、意外に胸あるじゃない」

「B、かな」

 恥ずかしさに赤くした顔を余所へ向けて答えた。その時に出た首筋に、口付けをして這わせてゆく。

「……あ……」

 そして舌は上へと這っていき耳の後ろを舐めていく。軽いくすぐりと痺れが体中に伝わって、真也の眉間に皺が寄る。

「うっ……く」


「も、もう、いいだろ」

 頬を赤くさせた真也が波沙美の両肩に手を当てて押しのけたら、すんなりと離れた。赤毛の女は歯を見せて口を歪める。

「アンタの感じている顔はじめて見たよ。意外に可愛いねーー」

「これ以上ふざけると」

「ふざけると、何だ?」

「犯すぞこら」

「……ぷっ」

 口元を手で塞いで噴いた。肩を震わせていたと思ったら、次は声を上げて笑い出す。腹を抱えて躰をくの字に曲げて笑う。真也を除いた三人が遠慮なしに部室に声を響かせてゆく。ホックを付け直してジッパーも上げてタイも結び直した真也は、セーラーカラーを正すと澄ました顔でこう云った。

「ま、そういうこった」

 ヒーヒーと軽い呼吸困難を起こしていた波沙美が、顔を上げて涙を指で拭い言葉を返す。

「そういうことか。分かったよ。じゃあな」

「ああ、じゃあな」

 そして、真也は部室から出て行った。




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