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オクトパス&スクイッド

 1


「結局は、連絡来ず。ね」

「ひとりで、あの麻実を殺せるとでも思ったのかしら? あの女」

 ほぼ同時刻。

 奥戸蓮おくとはす掬井戸十和子すくいどとわこは、浜の町観光通のある喫茶店の窓際席で紅茶を飲み終えていた。蓮と十和子を含めた三人は、毒島零華からの指令で麻実を消すようにと云われていたのだが、八江が二人を拒んでひとりで行ってしまったのである。

 喫茶店を出た二人は、商店街を歩いていた。はす十和子とわこはお互いに表情の変化に乏しく、声の抑揚もほとんど無いに等しい。黙々とただ歩いているだけで、これといった会話などなかった。そして、大きな十字路を通り抜けて大手百貨店の前を通過した時に、二人は同じ反応を示して前から歩いて来る人物に気がつく。自分たちと同じ紫陽花女子高校の生徒だった。

 鬼山銀おにやまぎん。十八歳、三年生。身長は百六五の痩せ気味。細い顔立ちに高い鼻柱。切れ長な瞳を持つが、それは座っており隈を作っている。銀は、両手をいつも弛めたくらいにして拳を握っていた。そして、その女が二人の眼鏡娘たちの元にゆるりと歩み寄ってきて目の前に立つと、すれ違いざまに十和子の耳元でボソッと囁く。鮫の目の少女の口元が歪んだ。蓮が後ろを振り返った時に、銀は既に遠くへと歩き去っていた。

 正面に向き直った蓮は、隣りの従姉妹へと目線を流して。

「十和子。何を云われたの?」

 と、問われた十和子は眼鏡を正して「うふふふ」と笑い歯を見せた。

「八江がやられたそうよ」

「そう。それはご愁傷様だったわね」

 蓮も歯を見せる。

 そして、二人は手を繋ぐと再び歩き出した。

「行きましょう。麻実を倒しに」

「ええ。行きましょう」



 城麻実じょうあさみは、一定間隔を置いて後ろから付いてくる気配に気付いていた。図書室で留須家八江の亡骸を始末し終えてから約一時間ほどが過ぎている。この私を尾行するとは、実にイイ度胸だ。そんな思いが浮かんで口元を歪ませた。小さく“ふふふ”と嘲笑した。麻実は、浜の町観光通商店街内にある文房具屋へと入って、鉛筆を二ダース購入。勿論、文房具屋にある機械式鉛筆削りで鋭利に整えてもらう。お次はA4サイズの画用紙を一枚購入して、麻実の任意の形にカットして大量生産していただいた。

「ありがとうございました」

 こう、愛らしい女店員から快く云われたので。

「此方こそありがとう。お陰様で助かりました」

 笑顔付きでお礼をひと言述べて、縁無し眼鏡を正した。女店員、麻実の魅力からハートを射抜かれて顔が赤らむ。そして階段を下る麻実の背中へと向けて手を振った。

 麻実は路面電車に乗り込んで大波止を通り越して終点の石橋駅前に着く。そして次に県営バスへと乗り換えて、戸町に向かい土井の首を通過すると、香焼町の大手造船所のバス停に辿り着いて降りる。学生鞄を片手にコレといった当てもなく静かに歩いてゆく。香焼町は、歴史ある大手造船所がある所だけに、広い三車線道路が長い距離を走っている。車道を挟んで向かい側の歩道に目をやると、バスから次々と降りてくる小学生たちに中学生たち。水産高校の生徒たちもチラホラといた。ここ数十年最近は、女子生徒も入れるようになったという元・男子高校。土地が広い町なだけに、静けさがあった。潮の香りが麻実の高い鼻梁を通っていく。高い金網の続く造船所の壁に沿った歩道を歩いてゆくと、波の打つ音が耳に入ってくる。今日は穏やかだ。そう感じた麻実は、こういう日も良いなと思うのだった。

 そうして長い距離を歩いてゆくと、そこは錆止めを塗装してある巨大な鉄の箱が幾つも重ねられており、積み込みを終えて眠りについている巨大なクレーンが日の沈み始めた空を眺めていた。麻実がその場所に目を配っていき、状態と入り組みかたなどを確認していく。そして、踵を返して後ろを向いた。

 静まり返る空間へと声を投げる。

「出てこいよ」

 そして、二人の女子生徒が姿を現す。ひとりは倉庫の影から。もうひとりはクレーンの影から。

 奥戸蓮と掬井戸十和子の二人であった。



 2


 麻実は歯を見せて笑った。

「わざわざこちらから場所を選んでやったんだ。何か云って貰えれば嬉しいのだがね」

「ありがとう、麻実」

 はすから十和子へと続いて。

「わざわざ貴女から自身の死に場所を選んでくれて」

「探す手間が省けたわ」

 再び蓮に戻った。

 麻実は眼鏡を正していく。

「私から誘うことは滅多にないぞ」

 そう云って走り出して、コンテナの重なる隙間へと入り込んでいった。一歩遅れて蓮と十和子もその隙間に入ってゆく。


 狭い隙間の通路の途中で立ち止まり、追いかけて来る二人と向き合う。先頭を走る蓮が地面に両手を突いて身を回転させて勢いを付加して向かってゆき、力強く地を蹴飛ばして宙で躰を捻り蹴りを繰り出した。放たれた踵が真横に三日月を描く。麻実は僅かに頭を引いて避ける。既に着地していた蓮が、足を踏み出して進みながらに肘を次々と打ち出す。

 頭を狙って薙払う。

 喉を狙い肘を突く。

 こめかみ。顎。胸板。

 片脚を軸に身を回転させて肘を振り払う。麻実が全ての攻撃を僅かな動きのみで避けていく。そして、軽くジャブを顔面にお見舞いした。足を払って踵を真っ直ぐ撃ち込む。蓮が蹴り飛ばされたと同時に、入れ替わるかたちで後ろから十和子は跳躍してきた。着地をして踏み込んで膝を打つ。拳を捻って繰り出す。肘を打って拳を立てる。踏み入れて爪先を蹴り上げると麻実が身を引いてかわしたところで、踵を一直線に蹴り込んだ。その瞬間、十和子の目の前に膝。麻実の高く上げた膝が、十和子の顔面を叩いた。天を仰いで背中側を地に打ちつける。長い脚を下ろした麻実が浮かべたその薄笑いから嘲りを読み取れた為に、蓮と十和子は歯を剥いて睨んだ。

 そして、女二人は横に並ぶと半身になり肘を突き出して構えた。次に喉から「かーっ」という音を出して、唇を尖らかせた瞬間に「ふっ」と黒い液体を吐き出した。麻実は学生鞄を盾にして顔を庇う。だが、すぐさまにその鞄を投げ捨てて地面を蹴って数歩後退した。学生鞄に二つの穴が開いたのだ。そして、蓮と十和子が数々と容赦なく黒い物を吐いて撃ち出してゆく。迫りくる黒い疸を次々とかわして、全てを避け切ったところで麻実は跳躍してコンテナの上に着地をした。その後を追って十和子も飛び上がり、同じ場所で麻実と向き合う。おさげ頭の二人へと麻実が声をかける。

「女の子たちが人前で疸を吐くのは良くないなあ」

 その言葉に舌打ちをした十和子は、構わずに麻実めがけて黒い疸を吐く。そんなときに、腕に刺さる瞬間的な痛みを感じて見てみると、十和子の腕を二本の鉛筆が貫いていた。思わず表情筋が強張る。

 別のコンテナに着地した奥戸蓮は、麻実の背中をめがけて腕を振り下ろした瞬間に少女の腕は赤黒く変色して一気に伸びていった。麻実が片脚を軸に躰を捻って踵で赤黒い触手を打ち払う。同時に蓮は跳躍して、十和子と麻実の居るコンテナをめがけて両腕を振り下ろした。狙いは勿論、麻実。幾つもの吸盤を持つ太くて大きな触手がコンテナを歪ませた時には、麻実は姿を消していた。蓮がコンテナに足を着いた瞬間に、麻実は二人の前に姿を現して腕を振り下ろすと、蓮の細い喉を鉛筆で貫いた。続いて、十和子の胸元にも鉛筆を突き刺した。蓮の吐血する様子を見た十和子が歯を食いしばった表情で、腕と胸元に刺さった鉛筆を引き抜くと爪先に力を入れて跳ぶ。そして、麻実にタックルを決めてコンテナから共に落下してゆく。

 片方の手で十和子の頭を押さえつけて、もう片方の腕を曲げると肘を使い女の喉に当てた後に、麻実は空中で身を回転させた。大きな音を鳴らして落下。その結果、地面には人ひとり分位の深い窪みを作り上げて、広い円形状のひびをアスファルトに走らせた。「げはっ」喉を潰された十和子が血を吐いた。麻実は既に窪みから離れて、立っている。十和子が身を起こして麻実を睨みつけると、立ち上がり両腕を広げて叫んだ。

 すると、十和子の両腕が白く太いその上に吸盤を持つ触手へと瞬間的に変形をして更には、お下げ髪が触手に変形して、肩甲骨から両脚の臑から下がそれぞれ白い触手へと化した。そして、背中の両側から三角形の帆を生やしたのだ。背骨から柔らかい筒状の者を出現させた十和子は、そこから墨を噴出して弓矢の如く飛んでゆく。唇を尖らかせて黒い疸を連射。十和子は、己の攻撃を避けられる避けられないに関係なく、そのまま麻実へと突っ込んでいった。音を上げてコンテナの立方体の形を歪ませたのちに、窪みの中央を確認すると麻実の姿はそこにはなく、違うコンテナの上に立つ麻実を発見。十和子が歯を剥き出して、背中の筒から墨を噴出して飛翔をして向かってゆく。麻実も跳躍して、十和子へと接近した。両者が宙で重ね合わさったと同時に、骨を砕く音を立てたのだ。

 ゴキャ

 蓮は確かにそのような音を聞いた。胸の中に悪い予感が走る。空中で重なった二つの影が落下したのちに、ひとりの影がその場から跳躍して去ってゆきコンテナの間に身を隠した。蓮は急いで駆け寄って確かめてみたら、そこに倒れていたのは十和子だった。首を変な方向へと曲げられて生気を失い、躯と化していた。

 ギリ、と歯を鳴らす。

 蓮の頬を滴が伝う。

「…………十和子」

 ひと言従姉妹の名を呼んで拳を握りしめて、麻実が身を隠した隙間へと走って行った。横切ってゆく麻実を発見した瞬間に、蓮は力を開放させて背中の両側から被膜を持つ赤黒い触手を四本生やして、変形させた両腕を被膜が癒着して繋いだ。そして、複数の腕をコンテナに突かせて吸盤を使い、我が愛する従姉妹の仇へと突進してゆく。柔軟な躰は、狭い隙間などはものともせずに速度を持って進んでいくのである。隙間から出た麻実を確認した蓮は、その間からニュウッと上体を出して目標を定めると黒い疸を連射した。麻実が難なく攻撃をかわしていく。数々の赤黒い触手をうねらせてコンテナの隙間から全身を現した蓮は、吸盤をアスファルトに吸い付かせると、限界までに躰を引かせて反動を利用して跳躍した。コンテナの上に着地して麻実と向き合い、踏み出して触手をなぎ払う。殴ったのはコンテナのみ。突然、目の前に麻実が出現して踵を下腹部に喰らい躰を折り曲げた。飛び降りた麻実は再びコンテナの間へと入り込んだ。後を追って蓮も飛び降りる。

 はすの着地した時には既に、麻実が構えていた。手に白い物を持って、細い指でソレを扇状に広げる。見た目は五枚ほど。そして麻実が迷う事なく白い物を横一線に振り払ったその刹那、五枚ほどあった物がシャンと音を上げて複数に分裂して両側のコンテナをそれぞれが往復を繰り返して叩きながら進んでゆく。蓮は、これに目を見開いて驚愕した。速さを付加して壁の如く縦にも広がり迫ってくる。蓮が悲鳴をあげたその瞬間に、躰は細切れにされてしまったのだった。




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