波沙美と志麻子
翌々日の放課後。
山嵐志麻子は、生徒会室で書類を纏めていた。勿論、生徒会会長へと提出をするものである。
ノックの後に、静かに扉が開いて人を招き入れた。そして、椅子を志麻子の隣りまで引いてきて腰掛ける。
「お疲れ様、志麻子」
「波沙美さん……」
赤毛の女を見た瞬間に、瞳が輝いた。
三年生の志麻子は、生徒会役員を勤めている。整った顔に、腰まである艶のある黒髪で左半分を隠していた。右はヘアピンで留めている。ちょっと厳しい印象を含んだ、切れ長な瞳。しなやかで線の細い躰。瑞々しい唇から発せられる声は、上品で物静かなもの。身長は零華よりも少し低いくらい。
書類を便箋に収めて会長の机に置いたのちに、薄紫色のバスケ服姿の波沙美に向き合う。
「会長に見つかったら怒られますよ」
「その会長って、煉の事か?」
囁くように訊きながら、志麻子の手を優しくとった。
「零華から“力”も受け取っていないあの女からか?」
「ええ……」
頬を赤く染める。
「ですが、この私もまだ“力”を受け取っていません」
「あの女なんかどうだっていいんだよ」
「……あ」
波沙美の唇が、手の甲に触れた。そして袖を捲りあげていきながら、志麻子の細い腕に舌を這わせてゆく。たちまち走ってゆく電撃。
「……んん……」
「そして、お前が“力”を貰っていようといまいとアタシは構わないんだ。―――立て」
顎を指で上げると、志麻子を椅子から離した。腰に腕を巻いて抱き寄せて、唇を重ねる。舌を絡め合う。執拗に波沙美が求めてくることに、志麻子は素直に従った。そして、お互い顔を離した時に見つめ合う。次に、首筋を吸われ始めた途端に志麻子は痺れを味わってゆきつつも、それに堪えながら上擦った声を波沙美へとかけてゆく。
「待って、人が……来ます」
そして、彼女の唇を波沙美が吸ってゆく。舌をねっとりと絡ませたのちに顔を離して、お互いの額を合わせて見詰めながら志麻子へと囁いた。波沙美の彼女は、顔を上気させていた。
「お前が幾ら(婚約者の)貴久の野郎からやられていようが、アタシにとっちゃ志麻子は志麻子だ。―――好きだぜ」
「嬉しい。私も、私も波沙美さんが、好き、です」
志麻子は感情に瞳を潤ませながら、微笑んだ。そして波沙美に抱きつく。
心地良い痺れと余韻に浸りながら、波沙美の声を聞く。
「志麻子」
「はい」
「アタシからの“力”を貰ってくれるか?」
「はい。喜んで」
そう満面の笑みで答えたのちに、志麻子は自ら進んで波沙美の唇に重ねていたのだ。