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第36話 クソ裁判

 しかし、依然として伊佐凪の視線はストローの先端に向けられている。


「……飲みにくいのだが?」


「……お気になさらず」


 ずーっと見ている。飲むまでこれは続くのだろうか。俺は飲みにくさを振り切って、勢いよくストローをくわえ、飲んだ。


「あぁーーー!!」


「ケホッ」


 伊佐凪が急に大声を出すもんだから気管に入ってむせた。何事だ。


「……なんだよ」


「いや、ほら、ここは苦悩したり、なんなら照れたりするところじゃないです?」


「何に苦悩するんだよ……」


「そりゃ、その……間接……」


「……んじゃ、はい」


 俺はストローを抜いて紙ナプキンの上に置き、グラスから直接飲むことにした。


「あぁーーーーーー!!」


「ゲホッ、ガハッ。今度はなんだっ!!」


 万事な解決策だと称賛はされど、非難はされないであろうと思っていたので、そのタイミングでさっきより大きな声を出すもんだから俺の気管は大パニックだ。


「いや、それはその、ズルかな、と」


「もうどうしたらいいんだよ」


 さっきから大声を上げているせいで、周りの視線がチラチラ集まってきてツライ。


「うぅー。霧山くんこそなんなのっ。私がおかしいのかなっ!?」


「あぁ、俺から見たら伊佐凪がおかしいな。それも百パー」


「百パー!? え、一パーセントも霧山くんがおかしくないと思ってるの!?」


 伊佐凪が反論してくるので、俺はこの一連のコーヒー交換事件について振り返って整理してみる。


 自分のアイスコーヒーを飲んでいた。

 伊佐凪のフラペチーノはいるかと聞かれたからいらないと答えた。

 俺のアイスコーヒーを飲みたいと言うからあげた。

 全部飲むなと言ってるのに、飲み干す勢いで飲み始めた。

 そのお詫びにフラペチーノを差し出してきた。

 俺はそれを一口だけ飲んで返した。そして俺のコーヒーを返してほしいと言う。

 返ってきたコーヒーをストローで飲もうとする。

 指摘が入る。

 ストローを置いてグラスで飲む。

 指摘が入る。


「いや、マジで何もおかしくないじゃないか……。俺の落ち度が一パーセントたりとも見つからない……」


 俺は自分で整理した内容を伊佐凪にシェアしながら、そう結論付ける。


「はいはいはーい、異議ありです」


 だが、伊佐凪はまだ不服申し立てがあるようだ。


「……はい、伊佐凪くん」


「裁判長、霧山くんは事実を列挙しただけであり、人の心の部分を全て無視していますー。先ほどの陳述の中で女の子の気持ちに触れる言葉は一つもありませんでしたー」


「誰が裁判長だ。気持ち、ねぇ……」


 女の子の気持ち。ここではつまり伊佐凪の気持ちってことだろう。何を指しているのか、考えてみる。


 …………分からん。


「はい、被告人さん、弁論はありますか?」


「……確かに不確定な部分があったことは認める。ゆえに百パーではない、かも知れん」


「フフ。では、私の勝訴ですねっ」


「随分、強引な裁判だな。まぁ俺の負けでいいよ」


 これ以上、裁判を続けても不利な証拠が出てきそうなので、早めに自供し、閉廷させてしまう。


「はい、では判決を下しますっ。霧山くんが私からされて恥ずかしいと思うことを一つされる、の刑です」


「は? 待て待て、執行猶予は?」


「ないです。実刑です。控訴も認められません」


 クソ裁判だった。


「……いや、あと、何の刑だって? もう一度言ってくれ」


「はいっ、えと、霧山くんが私からされて恥ずかしいと思うことを一つされる、です」


「なんか混乱する日本語だな……。とにかく伊佐凪からされて恥ずかしいと思うことを、耐えればいいってことだな?」


「うーん、惜しいようでまったく惜しくないんですけど、そうです」


 伊佐凪の言ってることはよく分からなかった。が、概ね合ってるというていで話しを進める。


「ハァ、まぁいいや。とりあえず伊佐凪からされて、恥ずかしいことだな? あー、ちょっと待って。考える」


 俺は考えた。伊佐凪からされて恥ずかしいこと。しかし、自分の価値観の中でおよそ生まれる発想ではなかったため、まったく想像できなかった。

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