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第01話 雪が降ったら

「華の高校生活も二年目に突入したわけだけど、真司は女友達作らないの?」


 高校に入学してから一年が経ち、今日からクラスメイトの顔ぶれも変わった。そんな中でも俺は唯一と言っていい友人──神谷秀一から唐突にそう言われ、ぐるりと辺りを見渡す。


「いらんね」


「一応聞くが、彼女は?」


秀一──シャレた茶髪にしている目の前の中性的イケメンが意地悪くニヤリと笑う。こんな問答に意味はないことはお互い承知の上だ。つまり、明日の天気は何かなと同じレベルの会話。


「作ろっかな」


「え、マジで」


 一瞬、秀一の目が見開かれて、素のトーンになる。今度は俺がニヤリと笑い──。


「あぁ、今日雪でも降ったらな」


 どうでもいい天気の話しをする。ま、つまりそういうことだ。桜も散り終わった東京で、雪が降るのと同じくらいの奇跡──ではなく、異常事態でも起こらなければ、それはないってことだ。


「ま、だよね。でも、真司もったいないよな。身長180越えてて、イケメンで、テストは学年一位で、料理まで出来るってどんなハイスペックだよ。なんでモテないの?」


「180は超えてないけどな。あと、イケメンでもない。つーか普通に怖がられる。まぁ、テストは確かに学年一位だな。料理は生きるために自然に覚えただけだ。なんでモテないかって、コミュ障で、愛想悪くて、目つき悪いからだろ。友達もお前しかいないし」


「ヤダ真司、お前やっぱりホ──」


「俺の唯一の友人関係が今、この瞬間に壊れた。今までありがとう秀一。達者で生きろよ」


「うわー、ごめん。うそうそっ! 真司はホモなんかじゃないよ! 全然ホモなんかじゃない!」


 いや、お前わざとだろ。いきなり新しい教室内でホモホモ連呼するんじゃねぇよ。俺のバラ色──ではないにせよ、平穏なスクールライフを壊すな。


「てへっ。そんな睨まないで、真司くん?」


「ハァ、まぁ、どうせどちらにせよ何も変わらないからいいけど」


「まーた、そうやって悟ったように諦めてぇー。真司なんなん? オヤジなん? ジジィなん?」


「紛れもなく16歳のクソガキだよ」


「あっ、そう言えばさー」


 今までの話しなどどうでもよかったとばかりになかったことにして、秀一が今しがたクラスに入ってきた女子の方に目配せをする。


「どう思う?」


 その視線の先には明るすぎない茶髪をサラサラとなびかせる一人の女子がいた。伊佐凪(いさなぎ)結衣(ゆい)。学校一の美少女と言われており、伊佐凪グループの令嬢、頭も良く、人当たりも良い。絵にかいたような(・・・・・・・・)完璧なヤツだ。男子も女子も意識せずにはいられない存在。で、そんな伊佐凪をどう思うかと聞かれれば──。


「別に何も思わん」


 むしろ、今、クラスメイトたちと話している彼女を見ると、苦手とすら感じる。


「えー、目の保養にも良いし、空気が浄化されるようじゃない?」


 伊佐凪は観葉植物かなんかか。


「でも、今日は珍しいな秀一。お前もついに爛れた高校生活を送りたくなったのか」


「うんにゃ。俺はサッカー一筋。サッカーとお前以外に青春を捧げるつもりはない」


 キャー。今の言葉を聞いてたであろう近くの女子数名が黄色い声を上げる。秀一は、いやぁどうもどうも、と言いながらそいつらに笑顔で手を振る。鋼のメンタルと鋼のコミュ力だ。


「ま、お前が本気ってのは知ってるつもりだ」


「え゛」


 秀一の顔が引きつり、さっきまでヒソヒソ話していた周りの女子もシーンとなる。


「……ちげー。サッカーにだ。マジで蹴るぞ」


「ほぅ。サッカー部のエース相手に蹴り勝負を挑むとはいい度胸だ」


 とまぁ、そんなバカ話をしていたら、ありえないことが起きた。


「おい、外っ、外っ!」


 一人の男子生徒が慌てて窓の外を指さし、クラス中の生徒たちの視線を集める。その指の先には──。


「……嘘だろ」


 晴天の中、ハラリ、ハラリと粉雪が舞い散っていた。


「ハハハハハッ! 真司、なんだか今年は面白い年になりそうだな」


「クッ……。雪じゃなく、槍と言っておけば良かった」


 俺は、そんな後悔の言葉と共に、新学年のスタートを切った。

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