憑依
私は死んだ。
それは突然のことだった。幼稚園から帰ってきたみくと一緒に歩いていたとき、みくが道路に飛び出してしまった。私は慌ててみくを抱き寄せ、自分の身体で守ろうとした。その瞬間、私は強烈な衝撃と痛みを感じた。それから意識が遠のいていった。
目が覚めたとき、私は病院のベッドに横たわっていた。私は一瞬安心したが、すぐに違和感に気づいた。私の身体は私の身体ではなかった。私は自分の顔を見ることができなかったが、手足や胸や声などから判断すると、私は男性になっていた。
「もえさん！もえさん！大丈夫ですか！？」
私の横には、職場の先輩である田崎 健太が駆け寄ってきた。彼は私の手を握りしめ、涙ぐんだ目で見つめていた。彼は私に好意を寄せていることを知っていたが、今はそんなことどうでもよかった。
「田崎さん……？」
私は彼の名前を呼んだが、出てきた声は彼の声だった。私は驚愕した。私は田崎さんに憑依しているのだ。
「もえさん、もえさん！」
田崎さんは私の名前を呼んだ。彼は私の身体を見ているのだ。私は自分の身体を見てみた。そこには血まみれで青白い顔をした女性が横たわっていた。それが私だった。
「もえさん……」
田崎さんは泣き出した。彼は私が死んだと思っているのだ。でも、それは本当ではなかった。私はまだ生きている。ただし、彼の身体で。
「どうして……どうしてこんなことに……」
私は涙を流した。これは何なのだ？何故私は死んでしまったのだ？何故私は田崎さんに憑依してしまったのだ？そして何故私はまだ生きているのだ？
「もえさん……」
田崎さんは私の手を離さなかった。彼は私に触れているからこそ、私は彼に憑依しているのだろうか？もし彼が手を離したら、どうなるのだろうか？
「みく……」
私はふと思い出した。みくはどうなったのだ？あの時、みくを守れたのだろうか？みくも一緒に轢かれてしまったのではないか？
「みくちゃん……」
田崎さんがつぶやいた。彼も同じことを考えているらしかった。
「みくちゃんは……無事です」
その時、ドアが開いて白衣を着た男性が入ってきた。彼は医者だった。
「あなたが長崎 もえさんのご主人ですか？」
医者が尋ねた。
「ええ……」
田崎さんが答えた。彼は嘘をついている。彼は私のご主人ではない。でも、今はそう言わざるを得なかっただろう。
「長崎 もえさんについてお話しします」
医者が言った。
「長崎 もえさんは……心肺停止状態です」
