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進路は魔法学園の術戦科!

 アルマが星空を飛び周り、3年の月日が流れた。そしてついに来るべき日が来てしまう。

 ある日、アルマを待ち受けていたのは彼女が望んだ両親だった。娘が夜な夜な屋敷から抜け出していたことはだいぶ前から気づいていたのだ。

 まともな両親であれば怒る。子どもの前で仁王立ちをして、こんな時間に何をしていたと怒鳴る。

 それから激しく叱責されて、外出を禁じられる。アルマはそんな妄想をして覚悟を決めていた。

 いよいよ人から怒られる時がくる。他人が自分の不出来を指摘する。難癖ではない愛がある者達からの助言。

 正当な理由での自分の至らない点を指摘されるというものがどういうものか。アルマは心を躍らせていた。

 両親に怒られた経験がないアルマは自室で待ち構えていた両親の前に立つ。


「アルマ……。その力……魔道具は他人に見せないほうがいい」


 激しく怒鳴るわけでもなく、父であるドルカンの第一声がそれだった。

 13歳になったアルマはその真剣な眼差しをしっかりと受け止める。


「アルマ、お前にそんな才能があるなんて思わなかったよ。でもな、それはあまり公にしないでほしい」

「どうして?」

「私が知る限り、それほどの魔道具はおそらく出回っていない。もし知られてしまえば、利用しようとする者達が出るだろう。それに……」

「それに?」


 ダルカンは少しだけ言葉を詰まらせた。魔道士を夢見る娘に告げるにはあまりに残酷な事実だからだ。

 しかしそれは事実であり、いつまでも曖昧にしておくことがアルマに対する優しさではない。ダルカンは意を決して口を開く。


「魔道士には免許が必要なのだ。免許がないのに無暗に魔法を行使することは許されていない」


 魔道士免許。国が認めた教育機関を卒業後、指定の施設で免許習得試験を受ける必要がある。

 免許といってもその種類は多岐に渡る。調理魔道士、美容魔道士など。どのような職に就くかによって異なるが、基本的な条件はすべて同じだ。

 アルマが住む屋敷を建てたのも優秀な建築魔道士であり、それ専用の魔法が使われていた。

 アルマの屋敷で仕事をしている使用人達も同様だ。彼女達は生活魔法を行使する生活魔道士に分類される。

 特に魔物討伐などを生業とする魔道士は術戦魔道士と呼ばれており、特別な資格を有していた。

 王国魔道士団や衛兵など、アルマの前世でいう警察や軍人のようなものだ。

 つまり資格を持たないアルマが、ましてや魔道具を行使して戦えばどうなるか。さすがのダルカンもその先は語らなかった。

 何をするにも魔法、アルマはヘティアが言っていたことを改めて思い出す。

 この世界で魔力が低いということは、アルマが思っていた以上のハンデを背負う。

 アルマがイメージしていた魔道士は術戦魔道士であり、多くの者達が憧れるが狭き門だった。

 やがてアルマに進路を決める時期がやってくる。彼女の意思は最初から決まっていた。


「術戦魔道士になります」


 両親としてアルマの心中はある程度、察していた。ただし、二つ返事で送り出すことはしない。

 特戦魔道士になるには学園の術戦科に入らなければいけない。

 ここでの入学試験のハードルは言うまでもなく、入学した後も授業や実技についていけずに学園を去るか別の科に編入する者も少なくない。

 無事、学園を卒業したところで待っているのは免許習得試験だ。

 ここで大多数が脱落する。中には何年も挑み続けて人生を棒に振っている者さえいた。

 そんな現実とアルマの魔力を比較すれば、茨の道どころではない。

 ダルカンにそのような現実を突きつけられても、アルマは揺るがなかった。

 アルマならば魔道具職人の道のほうが明るい。両親は可能な限り、そちらの道を勧めた。

 両親はアルマを理解しているが、一方で生半可な覚悟でそちらに行ってほしくない。

 しかし話して折れないのであれば仕方がないと、彼女の術戦科の受験を認めた。

 両親としては、ふさぎ込んで心を閉ざしていた娘が目標を持って歩いてくれたことが何より嬉しい。

 五歳の頃から実に八年間、アルマを支えていたのは両親だけではない。

 最初は訝しんでいた使用人達も、アルマに気を使って積極的に必要なことをすべて引き受けていた。

 専属の調理魔道士はアルマが研究に集中できるような料理を用意して、時には夜食も作る。

 男爵家が一丸となってアルマをサポートしていた。アルマはそれがわかっていたからこそ、彼ら彼女らを大切にする。

 入学試験当日、アルマは両親だけではなく使用人達に一人ずつ頭を下げて礼を言った。


「マルサさん。今日まで支えていただいてありがとうございました」

「お、お嬢様……。一時期は変な噂を立ててしまったこんな私に……す、すみません……」


 メイド長のマルサが涙を流すと、つられて他の者達もハンカチで目元を拭く。

 まだ合格が決まったわけでもない。これから試験会場に向かうアルマは、より覚悟を決めた。

 これは自分だけの戦いではなく、男爵家を背負った戦いだ。落ちてもいいなどといった惰性は一切ない。

 アルマは初めて受験勉強というものをやった。食事と入浴以外は常に参考書から手を離さない生活だ。

 生まれて初めて立ち向かうこの世界での受験というものに、アルマは胸が高まっている。

 これほど多くの人間に見守られながら、心配されて見送られることなどあったか。

 アルマは前世の出来事を思い出す。


――なんだ、美里。そういえば今日は受験日だったか。まぁお前なら余裕だろう?

――高級料亭を予約してるのよ。帰ったら行きましょう。


 受験日にすら関心がなかった父、予定調和としか思っていない母。そんな人間はここに一人もいない。


(なるほど。これが受験……)


 アルマは初めて受験日というものを体感した。

 アルマが胸に手を当てて心音を感じている。馬車に乗り込み、いよいよ学園へ向けて走り出した。

 アルマが受験するエルティリア学園は国内でも有数の名門として数えられている。

 馬車の中、アルマはまだ参考書から手を離さない。これから受ける試験は前世のそれとは比較にならないと確信していた。


                * * *


 アルマはエルティリア学園の門の前に立った。多くの受験生が門の中に入っていく中、アルマだけが呆然としている。

 何度も深呼吸を繰り返しては、門の先にある学園を眺めた。前世の大学とは違った厳かな雰囲気を感じている。

 この場所で多くの魔道士が生まれて旅立っていくと考えると、より巨大に見えた。受験生がちらほらと通り過ぎて、会話が聞こえてくる。


「いやー、緊張するなぁ……」

「お前、術戦科志望だっけ? あそこの合格率はえぐいからな、がんばれよ」

「あぁ。お前は治癒科だよな。そっちも気を抜くなよ」


 治癒科はアルマの母親であるリーザが在籍していたところだ。

 治癒魔道士になるには必ず通過しなければならない門で、合格率の低さは術戦科に負けてない。

 どの受験生もアルマには優秀に見えてくる。この試験会場特有の現象も、アルマにとっては初めてだ。


(あっちのクールそうな子も頭よさそうだなぁ。あの人は歩きながら参考書を読んでる……)


 自分も負けていられないと気を引き締めて、建物の中へ入った。

 受付で手続きを済ませてから指定の試験会場となる教室をチェック。

 試験までは時間があるので、アルマは適当な場所で気を落ち着けることにした。

 中庭のベンチを見つけて座り、一息つくと少し離れたところにぽつんと女の子が座っていることに気づく。

 目元がきつく、ポニーテールを綺麗にまとめた赤髪の女の子だ。


(なんとなくだけど優秀そう。あれ?)


 女の子のカバンを見ると妙なものが取り付けられていた。

 いわゆるストラップというものなのか、アルマはこの世界にもそんなものがあるのかと感心する。

 それは銀色のメットのようなものを被り、ローブを羽織った人物だ。

 また妙なものを身に着けていると考えるものの、アルマはどこか違和感を感じていた。


(あはは……私が作った魔道具にそっくり……)


 世の中には奇妙な偶然があるものだとアルマが思った時、少女と目があった。気まずくなって慌てて逸らす。


「さっきからジロジロと見ているようだけど、何か用かしら?」

「あ、いえ! すみません!」


 見た目通り、どこかきつい少女だとアルマは思った。

 少女はアルマを一瞥してから、本を閉じて中庭を去っていく。


(いかにもエリートのお嬢様って感じだねぇ)


 などと感想を抱いた時、自分も前世ではそう思われていたのかもしれないと苦笑した。

 自分にその気がなくても、勝手な印象を抱かれるものだ。それはアルマが一番よくわかっている。

 去り行く少女の背中を眺めながら、アルマはどこか引っかかるものがあった。


(あの子、どこかで会ったかな?)


 などと考えている場合ではないとすぐに気づく。試験開始の時間が迫っているからだ。

 大慌てで試験会場の教室に走って滑り込む。他の受験生はすでに着席しており、教室内には張り詰めた空気が漂っていた。

 アルマも気を引き締めて筆記試験に臨む。

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