王国最強、第三術戦部隊
王国魔道士団、術戦隊。国の治安維持に必要不可欠な彼らの中でも、決戦級魔道士が集結している部隊がある。
王国魔道士団第三術戦隊。率いるのは王都の子ども達に王国最強の魔道士といえば? と質問すれば百人中百人がその名を挙げる『灼腕』のベイウルブ。
副隊長の座につくのは『零禍』のレイネ。『地星』のフォドム、『風刃』のパミュー、『活雷』のイクリード。
一人で百人分の魔道士相当の戦力を有する彼らが動く事態はなかなかない。
竜が頭をもたげれば第三が動くというフレーズが王都の民の間でまことしやかに囁かれているほどだ。そして今、彼らは動いている。
大規模なはぐれ魔道士の組織『イルバース』は何年もの間、その馬脚を現さなかった。
王国内のはぐれ魔道士の受け皿となっていると噂されるイルバースは違法魔法薬の流通や人身売買による魔力抽出など、あらゆる悪事に絡んでいるとされている。
地味な小競り合いが術戦隊との間で続いているものの、イルバースは術戦隊に尻尾すらなかなか掴ませない。
仮に掴んだとしてもその尻尾はすでに切断されており、本体はどこかへ逃げてしまう。
大規模な組織でありながら巧妙な手口に、一時期は様々な憶測が飛び交った。
術戦隊の不甲斐なさはもちろん、術戦隊との癒着などと噂されてしまえば王国側も穏やかではない。
大元がわからずに王国側も手をこまねているような状況だったが、ある日を境に一変する。
「ベイウルブ隊長。あのキラーファングが鍵だったとはさすがに盲点でしたね」
「うむ、レイネ副隊長。聞けば彼らは術戦隊と何度も共闘して、イルバースと戦ったらしい。それがまさか隠れ蓑になっていたとはな……」
「木を隠すなら森の中とは言いますが、まさかあのキラーファングの中にいたとは驚きました」
「……感謝すべきは銀星かな?」
キラーファングは銀星の魔道士によって数々の不正が暴かれてしまう。
キラーファングはイルバースにとって、いわゆるお得意様だ。
アルマによって術戦隊の詰め所近くに置かれた資料の中にはイルバースとの取引記録が記載されており、辿りに辿ってようやく大元に迫ることができた。
その本拠地は国内でも有数の難所であるキルキト山脈だ。ここの特定にも、いくつかの協力があってこそだった。
特に魔物討伐ギルド『狩人の集い』の案内がなければ、彼らも容易にここには到達できない。
様々な難所に精通している彼らであれば、自然の洗礼による被害を大幅に減少できる。
協力していた狩人の集いの魔道士であるエリウが第三術戦隊に敬礼をした。
「我々の案内はここまでとなります! 第三術戦隊の勝利を願っております!」
「うむ、本当に助かった。君達は魔物討伐専門、ここからは我々の仕事だ」
(か、かっけぇ~~~!)
エリウは第三術戦隊を近くで見られたことで興奮していた。
幼い頃は術戦隊を志望していただけに、特に渋みがかった中年隊長であるベイウルブには同じ男として絶大な憧れを抱いている。
エリウは第三術戦隊の後ろ姿をいつまでも眺めていた。そして帰りにこそ、彼はベイウルブからのサインを貰おうと考えている。
「ベイウルブ隊長。人気ですね。彼、あなたに惚れてますよ」
「ハハッ……どうも俺は男ばかりにモテるようだ」
「本当ですね。異性で隊長に近づくのは妹さんだけなんじゃないですか?」
「君がいるだろう?」
「セクハラですね」
「それはさすがに厳しくないか?」
灼腕のベイウルブにこのような口を利ける人間は数少ない。エリウのように、そのオーラからほとんどの人間は畏まってしまう。
ベイウルブより遥かに年下であるレイネだが、彼女の実力は第三術戦隊で二番手だ。それはベイウルブよりも三つ年下であるフォドムすら認めている。
「レイネ副隊長。あまり隊長をからかうものではありませんぞ」
「フォドムさん。せっかくの隊長をからかわなくて何が隊長だ」
「隊長はからかうために存在しているのではないのですが……」
「気になるのであれば遠慮なく私を叱ってもいいんだぞ? 先日、あなたも息子を叱り飛ばしたのだろう?」
「えぇ、まぁ……。術戦に負けたのはいいのですが、そのきっかけを聞けば完全に息子に非がありましたからね。まったく、ラデルの奴……」
レイネは年上であるフォドムを部下として扱い、物怖じしない。
そのやり取りを見ていたパミューがため息をついた。ブロンズヘアーの髪が似合うスタイル抜群の美女だ。
「ねー、そんなノロケとかどうでもいいですからぁ。ちゃっちゃと片づけちゃいましょー? アタシ、任務が終わったら合コンがあるんでー」
「ご、合コン……」
「フォドムさんはそういうの免疫なさそーだよねー。確かお見合いで結婚したんだっけー?」
「そうだな。まぁそんなことはどうでもいい。そろそろ目的地に着くだろう」
フォドムが言う通り、目的地に着いた。しかしそこには一見して何もない。
山々に囲まれた平地には木々が乱雑に生い茂っていて、とても人が隠れ潜むには適さない場所だ。
そこへイクリードが頭をボリボリとかきながら見渡す。
「ベイウルブ隊長、これ結界っすわ。パミュー姉が一番わかってると思うけどよ」
「風の流れとか、ちょー不自然だねー。結界としてはお粗末だけど、場所が場所だけにこりゃ見つからないわけねー。ベイウルブ隊長、やっちゃっていいー?」
ベイウルブが頷く。パミューが片手をかざすと、竜巻が一帯を襲う。木々が吹き飛んで宙を舞い、やがて姿を見せたのは巨大な要塞だ。
山の中に姿を現したそれは漆喰壁のしっかりとした作りの四階建てと、異物感を存分に醸し出している。
「アタシを誤魔化すなら、障害物による風の流れの変化まで隠しなー?」
「よくやったぞ、パミュー。これほど大掛かりな建物となると、腕のいい建築魔道士がいるな」
「ベイウルブ隊長、いこいこー。あいつら今頃、大慌てじゃなーい?」
第三術戦隊が要塞に突入した。彼らの襲撃などまったく予想してなかったイルバースの魔道士達は完全に出遅れる。
イクリードが体中に帯電して、魔道士達に突っ込んだ。
「ザコどもが群れて何ができるってんだぁ! サンダーブリッツッ!」
イクリードの速度は雷そのものといってもいい。おおよそ人が耐えられたり認知できるものではないが、性格に似合わぬ繊細な魔力操作が可能としていた。
イクリードを相手にしたものはまるで彼が分身しているように見える。そして、そう見えた時には終わっていた。
電撃をまとって超スピードによる体術で敵をせん滅するのが彼の戦い方だ。
イクリードに続いて、他の者達も次々と敵の魔道士達を打ち破っていく。
「こ、こいつら第三か!?」
「なんでここがわかったんだ! 幹部に報告しろ!」
「あの方々なら、たとえ第三だろうと……!」
イルバースを構成しているはぐれ魔道士達の中には術戦隊と遜色ない魔力の持ち主もいる。
仮に他の術戦隊が彼らと交戦すれば、それなりの被害を覚悟しなければいけない。
負傷者や死者を出すことが避けられない中、第三だけは違う。
「オラオラオラオラァ! 弱い弱い弱い弱いよっっわすぎんだよぉぉ! これじゃ何も痺れねぇぇぇーー!」
「ぎゃあぁぁーーー!」
「ぐぉぁっ!」
彼らはこれまでの任務において、一度も負傷者すら出していない。
第三術戦隊の斬り込み隊長と化しているイクリードだけで、要塞内の魔道士達が全滅の危機に陥っていた。
決戦級魔道士。それは百人相当の魔道士と同等と言われているが、イクリードの討伐数はその数を超えている。
「ちょっとー! ベイウルブ隊長! あのバカのせいでアタシらの出番ないじゃん! あーあ、つまんない! これじゃバカ妹でも相手にしてたほうが面白いってのー!」
「パミュー、そうぼやくな。骨がありそうなのがきたぞ。ほれ」
ベイウルブが指した先に数人の魔道士が立っていた。
そして幹部の魔道士の一人がイクリードの前に立ちはだかる。
魔道士が杖で描いた魔法陣にイクリードが突っ込んで消えてしまった。
「あのバカ! どこに消されたのさー!」
「転移系の魔法の使い手がいるとはな。あのイクリードを目で捉えるとは。これはなかなかのなかなかだぞ」
魔道士がフードを取ってニヤリと笑う。他の魔道士達も顔を見せて、第三術戦隊に余裕を見せていた。
「随分と面倒な奴らが来てしまったな。だが一人は始末した」
「噂の銀星の魔道士でも来てくれたらよかったんだが……」
「準最強がきてもなぁ」
準最強と評された第三術戦隊の表情が変わった。世間での評価では銀星が最強であり、自分達は二番手。
それは即ち王国の特記戦力に対する信用が失われつつある証拠でもある。当然、ベイウルフはこれを良しとしない。
「皆、自己PRといこう」
「ベイウルブ隊長、私一人にやらせていただけますか? あのバカどもには私一人にすら勝てないという現実を見せつけます」
「レイネ副隊長。ううむ、あの一番強そうな奴だけは残してくれよ?」
「わかりました」
レイネに対して、すでに接近していたのが幹部の一人だ。
強化魔法を極限まで鍛えた筋肉魔道士のノキンは、拳だけであらゆる魔法を打ち破っている。
大半の魔道士は近接戦に慣れていないため、彼に対応できずに殺されていった。
「バァカ! てめぇなんぞ、ひんむいて玩具にしてやるよ♪」
ノキンの拳がレイナに直撃したところで氷の破片が散った。
「は、はぁ……!?」
「練度が違う」
凍り付いたノキンの腕が、魔力強化したレイネの頭にヒットして砕けていた。
レイネの周囲にはあらゆる物質を一瞬で凍結させるほどの濃厚で精度が高い氷の結界が展開されている。
腕だけではなく、やがて全身が凍り付いたノキンが氷像と化して地面に落ちた。
「ノキン……!」
「ならば……スピードショットッ!」
魔道士の一人が放ったのは魔力の弾丸だ。しかしその弾丸は空中に出現した氷の塊に直撃。
パキパキと音を立てて、氷はレイネを守るようにして浮いていた。
「ほう、見たことがない魔法だな。固有属性魔法か?」
「ワップ! 連携を取るぞ!」
魔道士が、イクリードを転移させたもう一人の魔道士ワップに呼びかける。
魔道士がスピードショットをひたすら放って、ワップがそれを転移させた。四方八方から放たれる弾丸がレイネを襲うが――。
「さっきから無駄が多いな」
すべての弾丸が氷に埋もれてしまっている。
魔道士達はようやく気づいた。格が違う、と。冷や汗をかいたところで遅い。
その冷や汗すら凍り始めて、彼らの足が床に張り付いてしまった。
「あ、足が! 凍っている!」
「言い忘れたが……一分以上、私と戦えると思うな」
「あ、あ……」
パキパキと氷が鳴って、魔道士達が氷像になった。ベイウルブ他、隊員達はその冷酷な魔法に文字通り寒気を感じている。
レイネの言う通り、彼女を前にして一分より長く戦える魔道士はほとんどいない。
ただ一人、一分以内に決着できるベイウルブですらレイネを軽んじていなかった。
「うむ! 彼女だけは敵に回さんようにしないとな?」
「あと一人、奥にいるのがボスでしょうか?」
「そのようだな。フォドム、やってみるか?」
「ご命令であれば……」
「いや、たまには私がいこう。こんな引きこもり部隊にいたのでは、腕がなまってしょうがない。ハハハッ!」
イルバースのボス、魔道士のクラインは歯ぎしりをしていた。
これほどの組織を作るのにどれだけの労力がかかったか。それがたった五人によって壊滅に追いやられつつある。
エルティリア学園を卒業した彼はどの組織にも属さなかった。俗な連中の俗な目標など興味はない、やるのであれば国の上書きだ。
下らない秩序にまみれた国だと、クラインは日々憎悪していた。
「なんてつまらない……。なんて型通りの連中だ……。これでは人形と変わらん」
「ん? この期に及んで遺言でも残したくなったか? ハハッ!」
「王族の言いなりになって尻尾を振り、餌を与えられる……。何の野心も持たず、日々を消費するだけ……。だから私は革命を起こそうとしたのだ」
「あぁ、わかるぞ。お前のような奴は多い。他人と違ったことをやればかっこいいと思ってる類だろう?」
クラインが指を動かしてベイウルブの足元を爆破した。
「私の固有属性魔法は不可避……。ベイウルブ、あなたも結局はつまらない」
「んー、これはいい魔法だ」
「……無傷だと?」
ベイウルブは体の埃を払うかのように手ではたいた。
「発動地点を一瞬で決め打ちできる上にこの威力……。だが天はお前に才能を与えてはいけなかった」
「黙れッ!」
クラインがベイウルブをひたすら爆破した。彼の魔法の恐ろしいところは魔法障壁の内側で発動させられる点だ。
生身の魔道士を爆破できるので、初見で対応できる者はなかなかいない。クラインの得意属性は炎、シンプルに殺傷力を求めた結果だ。
誰も防げない魔法を開発してやろうという彼の意思の下、生まれたものだった。
クラインは息切れするまで爆破をやめなかったが、ベイウルブは問題ないといった様子で歩く。
「なっ……なぁっ! なんで!」
「なんでと言われてもなぁ。俺の体表を覆ってるのがお前の爆破なんてレベルの熱じゃないからかなぁ?」
ベイウルブに魔法障壁などない。体に浸透させた自身の炎の魔法はベイウルブと一体化していた。
これにより彼の体には極めて高いレベルの魔法耐性がある。同時に魔力強化とも同義なので、身体能力も卓越していた。
ベイウルブが拳に力を入れると、炎が回転するようにまとわりつく。
その熱だけでクラインの魔法障壁が消し飛んで、魔道士として丸裸にされてしまった。
これにより並みの魔道士がベイウルブの前に立てば、ほとんどただの人間と化してしまう。
「ベイウルブ隊長。暑苦しいです」
「すまんな、レイネ副隊長。後でアイスを奢る」
「ミラクルジャイアントパフェでお願いします」
「それすごい高いやつ? だよね?」
一方でクラインが後ずさりして逃げる算段を立てていた。
無理だ。勝てない。死ぬ。己の運命を悟った瞬間、クラインは床に手をついて謝罪のポーズを取った。
「ま、待ってくれ! 降参だ! 投降する!」
「これは自慢なんだが、俺の拳で貫通できなかったものは一つもないんだ」
「あ、あなたも人間だろう! 俺みたいなのを殺したところで、魂が汚れるだけだ!」
「あぁ、それな」
ベイウルブが拳を突き出した。クラインは悲鳴を上げる間もなく、ジュッという音と共に消滅する。
灼拳のベイウルブ。極めてシンプルな魔法だが、彼はこれのみですべての悪を葬ってきた。
「お前みたいなのなんて山ほど殺してるからな。とっくに汚れてるんだわ。あれ? 死んだか」
「跡形も残りませんでした」
「ハッハッハッ! やりすぎたか?」
レイネは平静を装っているが、戦っている時のベイウルブが何より恐ろしいと思っている。
だからこそ、軽口でも叩かなければまともに接していられない。レイネは高らかに笑うベイウルブを見上げた。
(あれも一応、決戦級魔道士……。一人で術戦隊を壊滅できるほどの実力者だった……)
「お? そういえば、イクリードの奴はどこに消えたんだ?」
「来ましたね」
イクリードが要塞の壁をぶち破って登場した。きょろきょろと見渡して、まだ戦闘の意欲が収まらない。
「隊長ォォ! あのワープ野郎はどこっすか!」
「ここだよ、イクリード」
「はぁぁぁ! レイネ隊長が凍らしちまったんですかぁ!」
「お前、どこまで飛ばされてたんだ?」
「山の向こうっすよ! もうマジで大変だったんすよ!」
ハハハ、とベイウルブは笑った。ことスピードにおいてイクリードに敵う魔道士をベイウルブは知らない。
幹部の魔道士達はイクリードを始末したつもりだったが、実際は単なる時間稼ぎにしかなってなかった。
ベイウルブは改めて、いい部下を持ったと頷く。
「うんうん。後は調査隊の派遣養成をして俺達の仕事は終わりだな。どうだ、久しぶりに円陣を組もうじゃないか」
「そういうのって普通、戦いが始まる前にやるものでは?」
「細かいことは気にするな。さっ!」
「それ以上、近づいたら隊長にセクハラされたって妹さんに言いますよ」
「まだもってくれ、我がメンタルよ……」
ベイウルブはよろけながらも、胸元のロケットを開いた。
そこには最愛の妹の写真がはめ込まれており、これも部下から気持ち悪がられている。
「あぁ、メレヤ……。レイネ隊長がお兄ちゃんをいじめるんだ……」
「とっとと帰りますよ」
第三術戦隊。少数精鋭という言葉がこれほど似合う者達はいないと、誰かが言った。
たった五人で決戦魔道士数人を含めた数百人規模の要塞を制圧した実績など、王都への手土産としては十分すぎる。
この後、王都民は彼らの帰還を盛大に祝福した。王都中が揺れるほどの歓声であり、アルマもまた彼らを視界に収めることに成功する。
イルバース壊滅のニュースは国外にまで飛び出してまた一つ、王国の力を各国に示す形となった。
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