招かれてほしくなかった訪問者
「銀星ファンクラブの見学を希望するわ」
放課後、銀星ファンクラブにリリーシャが訪れた。先日のトイレ前でのやり取りを知らない会員達は何事かとざわつく。
リリーシャの表情が赤くなっていて、見学に対する羞恥心が表れていた。そこまでしてなぜ、と思ったのはアルマだ。
学年代表が冷やかしに来たとも思えず、クラリスがリリーシャに対応する。
「いらっしゃい、リリーシャさん。ちょっと……というか、だいぶ意外ですが本当にいいんですか?」
「勘違いしないで。入会するかどうかは活動内容次第、銀星の魔道士という未知の存在の探求が目的よ」
「それならば大歓迎ですね。ようこそ、銀星ファンクラブへ」
「えっ?」
リリーシャはクラリスの対応に面食らう。女子達が集まれば、大体は追っかけや飲み食いをしてお喋りをするのが相場だと思っていた。
もしそうならリリーシャは回れ右をして帰るつもりだっただけに、ファンクラブの室内を見渡す。
開かれた魔道書やノートに書かれた魔術式など、とてもイメージしていたファンクラブとは程遠かった。
「えっと、あなた……クラリスさんだったかしら」
「名前を憶えていただけているなんて光栄です」
「成績優秀で目立つ生徒は大体覚えてるわ。それで、クラリスさん。ここはどういった活動をするの?」
「そうですね。まずは……」
クラリスの説明通り、一般的なファンクラブとは違う。ただの追っかけやミーハーではなく、銀星を一人の魔道士として研究していた。
エルティリア学園は国内でも有数の名門校であり、半端な者達が生き残れるような甘い場所ではない。リリーシャはその事実を思い出した。
室内にはアルマの姿もあって、リリーシャは少しだけ笑う。
「アルマさん。あなたも銀星のファンだったのね」
「ま、まぁそうだね」
「じゃあ銀星について、あなたの見解を聞きたいわ。この前は途中だったからね」
「この前……」
アルマはまさかリリーシャが踏み込んでくるとは思ってなかった。しかも先日の道端での話の続きをする気だ。
銀星も何かになりたがっている。アルマが思っている以上に、その見解はリリーシャにとって興味深い。
これにはクラリスやシェムナを始めとした会員達も群がってきた。
「アルマ! どういうこと? アタシも聞きたいな!」
「うん、ただの勘というか……」
「アルマさん! それは私もぜひ聞きたいです! 一度もそんな話をしたことないじゃないですか!」
「えー、んーと、確証でもないっていうか、妄想というか」
二人の食いつきが凄まじく、アルマはなんとかごまかそうと必死だ。
かといって適当なことを言えば、リリーシャの前でファンクラブ全体の質を落としてしまう。アルマは軽く咳ばらいをしてから話し始めた。
「銀星は正体不明の魔道士で正義の味方……。そんな風に思われているけどさ。実は満足していないんだと思うよ」
「満足していない? アルマさん、詳しくお願いします」
「私達からしたらすごい活躍だけど、銀星は自分の正義に疑問を持っている。人を助けても、遠くでは誰かが困っている。すべての人間は助けられない……。どうすればいい?
自分の力が足りてないから? 正義とは? 銀星は今の自分ではない……それ以上のものになりがたっている」
「……その見解は新しいですね」
クラリスが納得して、会員達もなるほどと感心していた。
アルマは窮地を乗り切ったと自負している。当たらずとも遠からず、この見解は前世で見たアニメのヒーローの考えをそのまま喋っているに過ぎない。
ただし銀星自身であるアルマも、このままでいいのかという疑念を抱いていることに変わりなかった。
銀星の力はしょせん魔道具、世間で術戦魔道士とは認められない。それどころか無免許なので処罰の対象だ。
アルマは術戦魔道士としても銀星としても、まだまだ足りていないと考えている。
「ふぅん……。銀星が正義の味方ね」
「リ、リリーシャは違うと思うの? 私はそうだと思うけどなぁ! そうだよ! そうに違いない!」
「なんでそんなに必死なの?」
「いや、別に……」
「私には少し違って見えたわ。銀星は本当に自由だった。私を助けた時も、正義だとかそんな大層なものは感じられなかった」
(当たってるぅぅぅーーーー!)
アルマは心の中で叫んだ。自分のデタラメ見解よりも遥かに真相に近いからだ。
当時のアルマは魔道具の試運転が楽しくてひたすら飛び回っていた。その際に戦闘を重ねているうちに知名度が上がってしまったに過ぎない。
そしてリリーシャの何気ない発言にファンクラブは沸く。
「リリーシャって銀星に助られたの!?」
「え? そういえば誰にも言ってなかったわね……」
「りりっち! 詳しくぅ!」
「りりっち!?」
唐突にシェムナによってあだ名をつけられてしまう。会員達が彼女を取り囲んで、考察の続きを期待していた。
(うん、リリーシャ。あなたは私より立派なファンだよ)
と、アルマが感心していると教室のドアが開いた。入ってきたのはラデルだ。
険しい表情をしており、また難癖をつけにきたのかと会員達は警戒する。
「ラデルさん。ファンクラブの件で何か?」
「ファンクラブへの入会を希望する」
「え……?」
「問題があるのか?」
ここで揉め事を起こしたことをなかったように振る舞うラデルの態度は大きい。
しかしその件はすでに謝罪しているので、責めるのはお門違いだと誰もがわかっている。
そうとはわかっていても、そのラデルの堂々とした登場はなかなか受け入れられるものではなかった。
「問題というか……。あなたはこのファンクラブをよく思っていないのでは?」
「それは事実だ。なぜ教師達がこんなものを黙認しているのか疑問でしょうがない。が、それはそれだ。俺も入会を希望する」
「ですから、よく思っていないのになぜ入会するのですか?」
「それはだな……」
ラデルはアルマをちらりと見た。その視線に気づいた者はほとんどいない。ただ一人を除いて。
「まぁまぁ、いいじゃん! クラリス、入会させてあげなよ!」
「シェムナさん。確かに入会したいのであれば拒む理由はないのですが……」
「この前はラデルも謝ったんだからさ!」
「で、ではいいでしょう。入会を認めます」
シェムナが強引な流れを作った結果、ラデルはファンクラブの入会を認められた。
その際にシェムナがラデルに親指を立てて謎のサインを送ったが、当の本人はまったく理解していない。
リリーシャに続いてラデルまで入会してくるという珍事に、アルマはついていけなかった。
リリーシャとは前から友達になりたいと思っていたのでそれはいい。問題はラデルだ。
その真意がまったくわからないので、ラデルが別の生き物のように見えている。
(あの時は謝っていたものの、やっぱり根に持ってるよねぇ。となれば狙いは私?)
またしても当たらずとも遠からず。いや、当たっている。ラデルはあの日の出来事を休日に帰省した際に父親に話した。
ファンクラブという浮ついた集まりのこと、アルマと術戦をして負けたこと。特にラデルとしては、アルマの戦いの賛否を父親に聞いた。
その結果、ラデルは殴られてしまう。負けたことでそうなったのではない。
他人がやっていることが目につくようでは己の研磨に集中できていない証拠であり、何より術戦の内容をフォドムは叱った。
父親はアルマの奇策を褒めた。ラデルは力の差を思い知らせることばかりを考えていたが、アルマは実戦を見据えていたことを指摘する。その甘えと油断を父親は叱責した。
そして父親はラデルになぜ自分が負けたのか、アルマとの違いをしっかり学べと言いつける。ラデルは他ならぬ父親の言うことなので従うことにした。
ラデルは父親の言うことに忠実だ。アルマという少女をしっかりと観察するため、隣に座った。
「フン……」
(フンっとか言ってるよ……。嫌いなのになんで関わってくるんだろ?)
アルマはラデルに凝視されたまま、魔導書をめくった。
ファンクラブとはいっても大半が魔法の勉強だ。銀星の魔法の力を探る名目があるが、アルマは種を知ってるのでこれほど不毛なことはない。
その最中、アルマに質問してくる者は少なくない。低魔力ながら、ラデルとの術戦での立ち回りを評価した会員が寄ってくる。
「ね、魔法障壁が強すぎる場合ってさ。アルマさんならどうする?」
「そうだね……。状況によるかな? 術戦? 相手の魔法がわかってる前提?」
「わかっていて一対一で向き合ってる状態だね」
「だったら相手の魔法や性格次第かな。私みたいなのが相手なら油断してくれるからアドバンテージは取りやすいよ」
アルマはここまで話してしまったと後悔した。隣にいるラデルの形相が凄まじいことになっているからだ。
「ほう……? それは俺への当てつけか?」
「か、勝手に隣に座ってきたくせに当てつけも何もないでしょ。ケンカするつもりなら出ていってもらうよ」
「なんだと?」
「どういうつもりで入会してきたか知らないけど、ここにいるのは純粋に銀星のファンなの。邪魔をしないでね」
ラデルは頭に血が昇ったが、以前の謝罪を思い出す。
ここで怒り出して問題を大きくすれば、それこそ父親からすれば叱責ものだと思った。
あの一件で非があるのは自分であり、それを理解する必要がある。ラデルは自分にそう言い聞かせて、アルマに絡むのをやめた。ただし凝視だけはやめない。
「アルマ、ちょっといいかしら?」
「リリーシャ、どうしたの?」
「銀星の魔法と魔力量の相関関係について議論したいの」
「あ、うん……」
アルマは思い知ることになる。リリーシャの銀星への入れ込みと熱量がまともではないことに。
この後は複雑な魔術式を交えたリリーシャの自論が展開されて、放課後の時間が流れていく。
気がつけば寮の門限が迫っていて、アルマはもっとも疲れた時間を過ごした。
銀星の魔法は魔道具のおかげだと知っているだけに、その誤魔化しが難しい。
その際にもラデルはアルマから離れず、ひたすら観察を続けていた。これをより勘違いしたのはシェムナだ。
「あいつ、やっぱりアルマに気があるんじゃないかな?」
「シェムナさん、それはどういうことですか?」
「クラリス、わからないの? 恋だよ、恋!」
「えぇ!? そ、そうなんですか? 私、そういうのはよくわからないけど……」
アルマの知らないところで、シェムナの妄想が加速していた。
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