銀星、ピンチです
クラスメイトの間ではアルマが話題になっていた。実習での奇行はどういう意図だったのか。
男女問わず囲まれて、普通であれば戸惑うがアルマはあっけらかんとして答えた。
「実戦を想定した」
リリーシャやラデルが予想した通りだった。アルマは実戦であれほどの魔法を放たれたらどうなるか。大勢が見ている前で試した。
これについてはメレヤは何とも言えない。危険な行為であることは確かだが、どちらかというと非があるなら自分とリリーシャだ。
アルマの魔力を知っていた二人ならば、メレヤはアルマの指名を注意すべきだった。
リリーシャは手加減するべきだった。これについては実際にはしていたのだが、アルマの行動が予測できなかっただけだ。
メレヤは何とも言えず、教師として自問自答した。様々なギルドに所属しては辞めて、自分が嫌になって山で死のうとした時のことを思い出す。
そして魔物に襲われた時に銀星が颯爽とやってきて討伐して命を救われる。
拾った命について見つめ直して、それから間もなくしてエルティリア学園から教師への勧誘があった。
(メレヤ……。あなたはやり直すって決めたじゃない。何か、何か言わなきゃ)
メレヤが二人に近づいた時、エイブラム家がアルマを取り囲んでいた。ぎょっとしたメレヤは思わず足を止める。今までここに公爵家がいたことを忘れていた。
さすがのアルマもいきなり立ちはだかられて戸惑わないわけがない。
「あの、初めまして……」
「あのリリーシャの魔法をあんな形で回避するとはな。君、名前は?」
「アルマです」
「アルマか。君は面白いな。しかし、その魔力は……ううむ、これは……」
エイブラム家の当主クリストフォンはアルマの魔力に困惑した。
クリストフォンがアルマに近づいてみれば、よりその低さがわかる。これでリリーシャの魔法に立ち向かい、何よりエルティリア学園に入学したのかと思った。
低魔力と反して繊細な魔力コントールや胆力も相まって、ますますアルマに興味を持つ。
「お父上の名前は? 何をされてるのかな?」
「ドルカンです。確かフリーの術戦魔道士と言ってましたが詳しくは知りません」
「ドルカン……?」
「何か?」
「いや……」
クリストフォンはその名前を聞いて、思い当たることがあった。しかし、この場で言うべきではないと判断する。
周囲を確認してからクリストフォンはアルマを今一度、観察した。
エルティリア学園の入学試験は一方的に受験生が有利とはいえ、術戦がある。
そのアルマがどのようにして合格したのかも気になるが、何より彼の中にある魔道士としての常識と噛み合わない。
術戦魔道士には一定の魔力量が必要だ。これは差別ではなく、単純に危ないからだった。
アルマの魔力量を何度、観察しても圧倒的に足りてない。このまま卒業しても魔道士免許試験が立ちはだかる。
魔力量だけで弾かれる可能性もあった。合格したとしても、今度はギルドに所属しなければいけない。
この魔力量の魔道士を受け入れるギルドがあるかどうかが疑問だった。
そんな状況とは釣り合わないアルマの驚くべきセンスが、クリストフォンに衝撃を与えている。
アルマが公爵家の当主と話していることで、生徒達がいよいよ騒ぎ出した。
「ア、アルマの奴、何の話をしてるんだ?」
「クリストフォン様がアルマの父親のことを聞いているぞ」
「普通に褒められているな……」
彼らとは違い、ラデルだけは黙ってアルマを見ている。自分よりも遥かに劣る魔力量の少女が、公爵家に声をかけられた。
これだけでラデルはプライドを刺激されていた。あの低魔力でよくもここまで、と歯がゆい思いをしている。
あそこにいるべきは自分のはずだと意気込んでラデルはこの後の実習に望んだ。しかし彼にクリストフォンが声をかけることはなかった。
* * *
「リリーシャ、もっとゆっくり歩くんだ。刺客が狙ってるかもしれない」
「お父様、帰って」
「おっと! つまづくぞ!」
「帰って?」
午前を過ぎるころには全員がエイブラム家の実態を知ることになる。
リリーシャが廊下を歩いていると、家族や護衛が取り囲むように歩く。彼女の一挙一動を心配して口を出してきた。
リリーシャ本人が望んでいるはずがないことは、眉や口元がひくついている様子から誰にでもわかる。
彼女のクラスメイトは学年代表で公爵家の娘ということもあり、彼女には一定の距離をもって接していた。
そのリリーシャが怒ればどうなるか。クラスメイトは気が気ではない。
「リリーシャ、そんなことを言うな。仕事を休んでまでお前を心配しているのだぞ」
「だからってリリナも連れてくることないでしょ」
「あの子がいつも私達の目を盗んでいなくなるのは知ってるだろう?」
「だったらあの子にこそ護衛をつけて!?」
リリーシャの妹であるリリナは固有属性魔法持ちだ。
リリナは自分の意思で透明化できる。厄介なのがその魔力も消失する点で、度々家族や警備の目を盗んでいた。
ただし持続時間が短く、その弱点のせいで誘拐されるはめになる。
アルマが知れば羨ましがり、どの魔法よりも魅力を感じること間違いなしだ。そのリリナもすでにこの場にいない。行先はトイレだ。
「はぁ……。一家総出で護衛とはねぇ」
「じーーーーーー」
「じーーーーってなに……ひゃわぁうっ!」
「実に独特なリアクション!」
アルマがトイレから出たところで、リリナに補足されてしまった。いつの間にと、アルマは何度も可能性を探るがまったくわからない。
入学試験で示した通り、アルマの魔力感知はクラスの中でもずば抜けている。
油断していなかったとは言えないが、それでも気配なく近づかれた。アルマが目の前の幼女を観察したところ、魔力量はかなり大きい。
さすが公爵家の娘といったところで、リリーシャと同程度というのは羨ましい点でもあった。
「あの? 私に何か用かな?」
「じーーー……」
「じーーじゃなくてね?」
「むむむ……。似てる……」
アルマはドキリとした。銀星の状態でリリナと会っているだけに、気づかれたのではないかと思う。
今日から今に至るまで、リリナの視線がアルマに突き刺さっていた。
「んー?」
「じゃ、じゃあ忙しいからもう行くね。あなたも両親のところに戻ったほうがいいよ」
「ぎんせー?」
アルマは今まで経験したことがない緊張感を味わっている。
もう二度と会うこともないと思っていた幼女に再会して、正体に迫られつつあるという状況だ。
まだ確信には至ってないが、このままだと言いふらされる可能性があるとアルマは心配した。
(考えなさい、アルマ。言いふらされたとしてもしょせんは子どもの言うこと。誰が信じ……)
ここでアルマは考えを改めた。リリナが危険な目にあったとはいえ、一家総出でリリーシャの護衛をやるような一家だ。
娘を溺愛した両親なら真に受ける可能性がある。しかも相手は公爵家だ。発言の影響力が強ければ、疑念が強引に確信に変わることすらある。
逆境を楽しむアルマだが、この時ばかりはそんな余裕などない。
「リリナちゃん、ぎんせーってなに?」
「おねーちゃん、ぎんせーに似てるです」
「へぇ、そうなんだ。どの辺が?」
「んー……そこはかとなく?」
アルマは少しだけ安心した。今はまだ雰囲気だけで判断しているだけだと思ったからだ。
しかしここは疑念をきっぱりと払拭しておかなければいけない。アルマは一世一代の演技を試みることにした。
「へぇぇ! リリナちゃんは銀星に会ったことあるんだ! どんな風だったの!?」
「およ?」
「おねーちゃんね! 銀星のファンなんだ! 会ったことあるの!? ねぇねぇ!」
「んむむ……。まー、そこはかとなく?」
何がだ、とアルマは突っ込みそうになる。グイグイ踏み込んだことでリリナが思いっきり引いている。アルマの演技が功を成した証拠だ。
アルマが心の中で喜んだ時、エイブラム一家がやってきた。
「リリナ! こんなところにいたのね!」
「リリーシャおねーちゃん! このおねーちゃん、ぎんせーのねっきょーてきファンなのです!」
「アルマさん? ファンクラブに入ってるからね」
「リリーシャおねーちゃんもファンクラブに入ればいいのです!」
「えっ……」
リリーシャが戸惑っている。まんざらでもないといった様子で、アルマはこれ良しとばかりにリリーシャに近づく。
「リリーシャ。ファンクラブに入っちゃいなよ」
「で、でも……」
「今ならシェムナお手製銀星のヘルムとペンライトがつくよ?」
「ペンライト!? そんなもの何に使うの!」
「いざ銀星が現れた時にそれ振って応援するんだってさ」
アルマは以前からファンクラブに視線を向けていたリリーシャの背中を押してやることにした。
チラチラするくらいならいっそ入ってしまえばいいと思ったのも理由の一つだ。
それ以上に学年代表のリリーシャが加入することで、ファンクラブの訓練の質が上がるという理的な意味もある。
「こ、この私が……そんなふわついたもの……。アルマ、あなたもどうかしてるわ」
「入っちゃいなよ!」
「お父様?」
「入っちゃいなさい!」
「お母様?」
「とっとと入りやがれー!」
「リリナ?」
一家総出でリリーシャのファンクラブ加入を後押しを始めた。
リリーシャを取り囲んで、ひたすら煽っている。その公爵家の奇行のせいで、人だかりができてしまう。
しかも護衛の魔道士まで参戦したのだから、リリーシャの怒りがいよいよ頂点に達した。
「か、帰ってぇぇーーーーー!」
「リリーシャ!? どうした! 何があった!」
「最初から問題しかないわよ! 帰らないと今度こそ家に帰らないからね!」
「ま、まさかまた不良に!? ひ、日が落ちるまでカフェに入り浸ろうというのか!」
リリナがリリーシャを学園まで迎えに行った日のことだとアルマは思った。
エイブラム家ではそれすら不良行動になる。あの日、リリーシャは嫌になって屋敷に帰る日だというのに帰らなかった。カフェで時間を潰していただけだ。
アルマは脱力してこの場を去ることにした。
「わ、わかった! リリーシャ! 魔法の最大出力はやめろ!」
クリストフォンの悲痛な言葉が聞こえたがアルマは気にしないことにした。
真面目な学年代表のリリーシャの貴重なワンシーンが見られただけでも、アルマにとっては収穫だ。
後日、この件をネタにしたらリリーシャからアルマは本気で怒られてしまう。
親しくなろうとした結果がこれなので、アルマは人間関係の難しさを改めて思い知った。
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