ブラックギルドがあるみたいです
「ギルド長。やっと見つけましたよ」
キラーファングの副ギルド長であるウロクがギルド長の下へやってくる。
深夜、ウロクが拘束した一人の人物をギルド長の足元に転がした。
呻いたその人物はリリーシャの妹を拉致しようとしたグループの一人だ。
銀星の魔道士に仲間がやられた後、最初に目を覚ました彼は仲間を見捨ててその場から逃げ出した。
いつ術戦隊に見つかるかわからない日々を過ごしていたが、不安に耐えられなくなったところでウロクに捕まったのだ。ギルド長がしゃがんで魔道士を見下ろす。
「うぅ……」
「おう、見事にしくじりよったな。あぁん?」
「す、すみません……」
「誰かに見られとらんだろうな?」
「大丈夫、です……ぐはぁッ!」
ギルド長が無言で魔道士に蹴りを入れた。頭を踏みつけて額に青筋を立てている。
「何が大丈夫なんだぁ! あぁ!? 見られてたら足がついて終わりじゃねぇか! マジ舐めてんのかゴラァァッ!」
「げふっ!」
「ガキの拉致すらできねぇで、てめぇに何が出来んだ! 術戦隊に突き出さない代わりに、てめぇらみてぇなクズを使ってやってるんだ! 恩を仇で返しやがって!」
「ぐあぁッ! うごっ……!」
ギルド長に暴行を加えられているその男は、キラーファングによって追い詰められた小悪党だ。
術戦隊に目をつけられる前に、キラーファングはそういった者達を集めて手駒にしている。
彼はキラーファング所属の魔道士ではない。他にもキラーファングは仕事が見つからない者を多く雇って、情報収集や伝達係をやらせていた。これがキラーファングの情報網の正体だ。
中にはこういった犯罪者もいて、行き場がないという弱みをキラーファングは最大限利用していた。
これが昔からのやり口であるが、最近は事情が違う。事業拡大という名目で幅広く活動した結果、人員不足に陥っていた。
無理があるノルマを課せられた所属魔道士が辞めていく事態であり、今のキラーファングは猫の手も借りたい状況だ。
「根性なしが辞めやがったせいで、こちとら仕事が回らないんだよ。おかげで取るに足らない賞金首さえ取り逃がす始末だ。だからあのリリーシャに来てもらわないと困るんだよ」
「すみま、せん……」
「リリーシャの妹をお前らに拉致させて、キラーファングが救出する。リリーシャは俺達に恩を感じてギルドに入る……。こんな簡単なこと、なぁんで出来ねぇんだ? おい、コラ?」
「すみません、すみません……」
ギルド長になじられてはいるが、彼らは屋敷から出てきたリリーシャの妹を見つけることができた。
何日も張っていて、根気よくチャンスを掴んだ。それだけでも大した手腕だが、キラーファングは結果がすべてだ。
過程などどうでもよく、ギルド長は彼の処分方法を検討している。
「ウロク、こいつを術戦隊に突き出せ。適当な理由をつけて捕まえたってことにしろ」
「それは少々リスクが大きすぎるかと……」
「リスクだと?」
「こんな小物を突き出したところで報酬も知れてます。それより、ゴミらしく死体ごと焼却処分したほうが証拠も残りませんよ」
「チッ、確かにな……。だが、さすがは当ギルドの決戦級魔道士よ。冴えているな」
ワンマンギルド長の彼が唯一、信頼しているのがウロクだ。
リリーシャをしつこく勧誘していたのも彼であり、決戦級と呼ばれる実力を有している。
決戦級とは並みの魔道士100人に相当する魔道士のことであり、戦争などの決戦での活躍が期待できることからそう呼ばれていた。
「……というわけだ。ゴミ、お前の処分が決まった」
「ひっ! こ、こんなことしてあんた達、正気じゃない! 術戦隊に見つかったら終わりだぞ!」
「あいにく術戦隊とは非常に良い関係なんでな。お前のようなゴミと我々の言い分、どちらを大切にすると思う?」
「やめてくれ! 頼む! 何でもする! 殺すのだけはやめてくれぇ!」
男がギルド長に命乞いするが、今度はウロクがしゃがんで見下ろした。
「あなたに何ができるというんです? 大した魔力も魔法もない。何もできなかったから、そこまで落ちぶれたのではないですか?」
「それは……」
「ね、何もできないでしょ? せめて学園に入学してまともな免許を習得していれば違ったかもしれませんがね。入学すらできなかったんでしょ?」
「親もいないし……生まれた時からクソみたいなことばっかりしてきたから……」
「プッ……ハハハ! ヒャーーハハハハハッ! たまりませんねぇ! こういうゴミの戯言は! お前は生まれながらにしてゴミというわけですよ!」
ウロクがギルド長と顔を見合わせて大笑いした。二人は男の惨めさが楽しくてたまらない。
特に生まれながらにして高い魔力と才能に恵まれたウロクとしては、男のような人間を見下すのが楽しみの一つだった。
「ではこちらに連れていきます」
「や、やめてくれ! 頼む!」
男が暴れだした時、窓ガラスが割れた。風が入り込んでカーテンがなびいたそこにいたのは銀星の魔道士だ。
ギルド長とウロク、他の魔道士達はそれが銀星だと一瞬だけ認識できなかった。
「賊にしては大胆ですね。その風貌、まさか……」
「おい、ウロク。なんだ、こいつは!?」
「颯爽と現れては数多の魔物や悪人を討伐してきた神出鬼没の魔道士……銀星の魔道士ですかね」
「ぎ、銀星!? なんでここに!」
ギルド長とウロク、魔道士達。そして傷ついている男。アルマはクロだと確信した。
盗聴器で直前まで会話を盗み聞きしていたが、現場を見るとよりわかることがある。
片付いてないデスク、散乱した書類。ボードに書かれた無茶な期日。アルマは思った。
(典型的ブラックギルドだなぁ)
「初めまして、銀星の魔道士。私はキラーファングの副ギルド長、ウロクという者です。本日はアポも取らずにどのようなご用件でしょうか?」
(なんか冷静を装って余裕を見せているけど、それって意味ある?)
「ちなみにあなたが壊した窓の修理代の請求をしたいのですが、所属ギルドと住所を教えていただけないでしょうか?」
(エルティリア学園、術戦科一年。アルマです。寮に住んでます)
アルマの前にウロクと魔道士達が立つ。一人ずつ魔力感知をしたところ、ウロクが飛びぬけていることがわかった。
リリーシャの妹を保護した術戦隊の魔道士よりも遥かに高い魔力、触れるもの皆斬る殺人的な魔力。
決戦級魔道士。アルマもそれを知っていて、ウロクがそれに相当する魔道士だと認めた。
「だんまりではこちらも困るのですが……。噂は聞いてます。国内でも最強と言われている銀星の魔道士……。いやはや、実に幸運かもしれません」
(回りくどくて長いなぁ)
「あなたの真意はわかりませんが、術戦隊はあなたを拘束するつもりのようです。つまり、これは我々にとってもチャンスなのですよ。ねぇ?」
(その情報、大丈夫? 守秘義務とかコンプラに接触しない? 術戦隊はお得意様だよね?)
術戦隊からの依頼を受けるほどのギルドならば、そういった事情を把握しているのが当然かとアルマは思う。
そんな呑気に構えているアルマに対して魔道士達が構えた。
「お前達、殺しても構いません。所属不明の魔道士など、死体を見せるだけで術戦隊は納得するでしょう」
「はっ! ブレイズショット!」
「ブレイズショット!」
「ブレェェイズッ! ショォォット!」
(まさかの全員が炎属性!?)
魔道士達が特大の火球をアルマに放つが、すべて魔法障壁に衝突して蒸発するようにかき消える。
そしてアルマが両手を向けて、指先から魔道士の人数分のレーザーを放った。
「ぐあぁッ!」
「ぐっ!」
「うぎっ!」
レーザーは魔道士達を貫通することなく、事務所の壁まで吹っ飛ばす。
殺さず、尚且つ魔法障壁などまるでなかったかのようなレーザーの威力にギルド長は慌てふためいた。
「な、なんて奴だ! こいつらは全員、B級賞金首討伐の実績があるというのに!」
「ギルド長。お下がりください。こいつもどうやら固有属性魔法持ちのようです」
「なに!?」
「だとすれば、私でなければ務まりませんよねぇ」
ウロクが両手を広げると、左右それぞれに大型の爪が出現した。
ウロクの片手からそれぞれ離れて浮くように、片方三本の爪が動いてカチカチと音を立てる。
アルマは少しだけ驚く。今まで見たことがないタイプの魔法だからだ。
その爪は音を立てているが、かすかに揺らめいていて実体がないようにも見えた。
(魔力で生成されたものだから、たぶん射程は自由。それでいて物理的な破壊は無理そう)
固有属性魔法。光と闇を含めた炎、水、地、風、雷。これら以外の属性魔法がそう呼ばれる。
生まれながらにしてこういった属性に目覚めた者、開発した者達は魔道士の中でも数少ない。
一般的な属性での対策が通用しにくいこともあり、固有属性魔法を上位属性と呼ぶ者もいるほどだ。
ウロクはそんな自尊心を隠さず、メガネを中指で上げる。そして超スピードでアルマに接近して、爪を斬り上げた。
「……これをかわしますか」
アルマは体を反転させるようにして、爪を回避した。その爪が伸びて、壁すら切り裂いていたからだ。つまり後方に下がっただけでは斬られていた。
ウロクはやや驚いたものの、すぐに冷静になる。
「見た目が優男だから、よく誤解されるのですよ。こう見えても私、凶暴なんです」
(そこそこ強い……)
固有属性魔法持ちとは初めて戦うが、大手ギルドの第一線で活躍するだけの実力はあると感じた。
キラーファングの主力魔道士であるウロクならば、その気になれば術戦隊への入隊すら叶う。努力次第ではいい地位にまでいける。
アルマはそう分析するが、同時にもったいないと思った。こんなギルドにいる時点で、と。
「まったく……残業代はあなたの首で賄いましょう」
(残業代とか出るの?)
ウロクが爪を大きく開いてから腕を振った。伸びて巨大になった爪が事務所のデスクなどを切り裂く。
建物ごと切り裂かんばかりの威力に、ギルド長は大慌てだ。
「ウ、ウロク! 少しは抑えんか!」
「本気でやらないと、こっちがやられますよ。あれはそれほどの相手です」
ウロクの爪はアルマに当たる直前でバチリと音を立てた後、かき消える。これにはウロクも眉をひそめた。
「なに? なんです? 私の魔法が消滅した……?」
(あなた達は私が友達……になりたい人を騙そうとした)
アルマは銀の翼を広げた。腰を落として深く構えて、両腕からはバチバチとシールドが展開されている。
「あ、あれは!?」
(対消滅バリア。魔法が魔力で形成されているなら中和してあげれば無効化できる)
「これは、これはいけませんねぇ……。鳥肌が立ちますよ……許せません……クソがぁぁッ!」
カッと目を見開いたウロクが再度、爪を巨大化させた。
アルマがブーストしてウロクに突進、爪を消滅させた勢いで拳を腹にぶち込んだ。
「ぐっはぁぁぁぁーーーーーー!」
ウロクが叩きつけられた勢いで壁ごと破壊された。パラパラと落ちた瓦礫の破片が、気絶しているウロクの上に落ちる。
アルマは対消滅バリアを消した後、倒れたデスクを直して引き出しを漁った。これに焦ったのがギルド長だ。
「ウ、ウロク!? お、お前、何をしてる!」
(証拠とか色々と集めさせてもらうよ)
「あ、あわわわわ……。やめろ! おい! コラッ!」
(うるさいなぁ)
アルマがギルド長に手の平を向けて、レーザーを放った。
「ぐぶふぉぉぉッ!」
(少しだけ寝ていてね)
ギルド長が吹っ飛ばされて、ちょうどウロクの隣に仰向けで倒れる。
静かになったギルド内で、アルマは書類などを集めた。その結果、出てきたのは不正に改ざんが行われた帳簿やはぐれ魔道士との取引の記録だ。
職員への給料未払いの証拠や辞めた魔道士の個人情報の横流しなど、アルマはすべてまとめた上でギルドから出る。
まとめた不正の証拠や拘束した拉致未遂事件の犯人の男を術戦隊の詰め所の近くに放り投げた後、すぐにその場を離れた。
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