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これはやってるねぇ

「アルマ、知ってる? あのリリーシャが欠席してるんだってさ」


 休日明けの翌週、登校するとシェムナが穏やかではない話をアルマに振ってきた。

 この話は他クラスでも話題になっていて、その理由がアルマを驚かせる。


「なんでもリリーシャの妹が拉致されかけたらしいよ」

「拉致!? リリーシャって妹がいたんだ……」

「そうそう、これがすごい事件として話題になってるんだ。何せこの王都内で、貴族令嬢の拉致未遂だよ?」

「リリーシャってそんなすごい家柄なんだ」


 シェムナの顔が硬直した。その様子からアルマは、常識レベルの知識だと察する。

 アルマの実家は男爵家なので当然、上位の貴族と繋がる機会はない。

 屋敷には何人かの客を招いていたが父や母の友人に至るまで、平凡な家柄の者達がほとんどだった。一度、アルマは父にそのことを聞いたことがある。

 爵位といってもしょせんは男爵、ほとんど平民と変わらんよと笑いながら答えてもらった。それだけに貴族の知識はほとんどない。


「リリーシャは公爵家の令嬢だよ」

「こーしゃく……」

「生まれも育ちもエリートだし、学年代表になるのもとーぜんでしょ。ていうかマジで知らなかったの?」

「こぉしゃく……」

「アルマ? おーい!」


 これまでのリリーシャとの会話がアルマの中でフラッシュバックしている。

 失礼な発言はなかったかと考えれば、先日の銀星談議が思い浮かんだ。

 生意気にも意見をしてしまった過去の自分を恥じている。しかしアルマが思い出してみれば、敬語は使わなくてもいいと言われていた。

 それがきっかけで一瞬で切り替えてすぐに正気に戻る。


「公爵令嬢ねぇ。すごい学園だとは思っていたけどさ。それでリリーシャは身の安全のために休んでるの?」

「それもあるかもしれないけど、やっぱり妹が心配なんじゃない?」

「そっか、そうだよね。あれ? ということは……」

「今度はどうしたの?」


 昨夜、アルマが助けた少女について思い返してみた。

 拉致未遂、昨日の少女。名前は聞いてないが、アルマは確かにその口からおねーちゃんと聞いた。

 そのおねーちゃんの正体がリリーシャであるとわかって、心にズシンと何かが圧しかかる。


「あ、あっ……じゃあ、あれは……」

「ねぇ、ホント大丈夫?」


 アルマは頭の中で整理する。リリーシャはアルマと別れた後、明日の休日ということで屋敷に帰ることになっていた。

 ところがリリーシャはなぜか屋敷に戻らず、リリーシャの妹が外に出て学園にいる姉を迎えにいった。

 リリーシャがどこで何をしていたかわからないものの、アルマはギルドの勧誘や自分との会話がきっかけで何かあったのではないかと考えた。

 その後やってきた担任教師のメレヤが、リリーシャは大事を取って学園の寮にいないと説明した。


                * * *


 授業が終わってファンクラブの活動後、アルマは寮の自室で考え込んでいた。

 リリーシャとの最後の会話がどうにも忘れられない。リリーシャは貴族令嬢で優等生だが、将来のことで悩む普通の少女だ。

 シェムナやクラリスと同じく銀星に助けられて憧れを抱いている。

 食堂で話している時、アルマは何度かこちらに視線を向けるリリーシャを見ていた。彼女も本当は輪に加わりたいのでは、と思っている。

 学年代表や公爵令嬢など関係ない。アルマは普通の少女でしかないリリーシャのために何かできないかと思った。

 それに当たって一つ、気になっていることがある。


(一人……逃したよねぇ)


 リリーシャの妹を拉致しようとした魔道士達は捕まった。しかし、一人だけいなかった。

 術戦隊がすでにこの事実を掴んで動いているかはわからないが、アルマは自分の手で片づけようと決意する。

 元はと言えば自分の失態であり、放置すればまたリリーシャ姉妹に魔の手が及ぶ可能性があるからだ。

 人として、友達として何かしてやりたい。アルマは作戦を練った。

 犯人達は何者か? 目的は? 金? 誰かの指示? アルマの中ですでに答えが出ている。


――なぁ、拉致はやりすぎじゃないか?

――仕方ないだろ。早く運ばないと誰かに見られるぞ。


(少なくとも罪悪感はあったんだよね。お金がなくて誘拐して身代金を要求するため? でも最初から身代金目的なら、拉致はやりすぎなんて言わないよね)


 拉致はやりすぎ。実行している人間の口からその言葉が出る意味をアルマは考える。

 あの場で、二人の発言を咎める者がいなかった。つまり全員が二人の発言と相違ない意思で行っている。

 つまりあの魔道士達が誰かの指示で動いていた可能性があると、アルマは推測した。

 公爵家の娘を拉致して得をする人間像など、アルマには無数に思い浮かぶ。

 貴族の世界となれば汚い部分もあるが、その辺となるとアルマが及ぶところではない。

 アルマは今日から情報収集を開始した。クラスメイト、教師、王都の行きつけの店。何でもいい。少しでもリリーシャに関する情報がほしいと、ひたすら駆け回った。

 大した情報を得られない日々が続くが、アルマはめげなかった。

 そんな中、リリーシャが以前からとあるギルドに付きまとわれているという情報を入手する。

 生徒達の目撃情報によればリリーシャに対するギルドからの勧誘は日常だ。しかし日替わりで次々と新しいギルドがやってくる中、一つだけしつこく食い下がるギルドがあった。

 アルマはあの日、勧誘を目撃した時のことを思い返す。なるほど、と合点がいった。


(当たりであることを願おう。正直、これで貴族界隈の確執とかだったらお手上げだよ)


 アルマは久しぶりに新しい魔道具の開発を始めた。

 すでに魔道具の知識が豊富なアルマにとって、その完成期間は短い。たった一日で完成したそれは盗聴器だ。

 アルマの良心が痛まないこともないが、これで証拠を掴まむことにした。

 目星をつけたものの、そんなことで拉致なんてするのかと疑問が拭えない。

 アルマが目指したそのギルドは王都の中心部にあり、五階建ての建物だ。他にも大小のギルドが目立つが、キラーファングの拠点は一際大きい。


「ん? 見学だって? そうか、エルティリア学園の学生か」

「はい。こちらのギルドは賞金首討伐実績がトップだと聞いてます。ぜひお話を聞かせてもらえないですか?」

「それはいい心がけだ! さっそくギルド長に聞いてみよう!」


 受付の男性がギルド長に掛け合ったところ、すぐに許可が下りた。

 アルマは案内される中、ギルドの中を見渡す。そして怒号が耳に届いた。


「てめぇ! 取り逃がしました、じゃねぇんだよ! どうするんだよ!」

「すみません! 思ったより手強くて……」

「言い訳すれば、うちの信用が取り戻せるのか? 責任とれんのか? お前、どうするんだよ? あ?」

「う、う……」


 アルマは自分の予想がここまで当たってしまったことに喜んでいる。

 それから案内していたギルド職員が慌ててアルマに取り繕うようにして声をかけた。


「驚かせちゃったかい? まぁ、うちも大手ギルドと呼ばれているからね。それなりに厳しくやらせてもらってる」

「なるほど。やはりしっかりやっているんですね」


 アルマが関心した振りをするとギルド職員が気を良くして饒舌になった。

 ギルドの方針、心構え。アルマは話半分で聞き流しつつ、ギルド長の部屋に案内された。

 話し始めてすぐアルマはギルド長の機嫌を取る。油断させて隙を作るためだ。

 結果、上機嫌になったギルド長の目を盗んでアルマは目の前にあるテーブルの下に盗聴器を取り付けた。

 ティーカップを取ろうとして、わざとよろけたところで素早く成功させる。

 アルマは当然、魔力や得意属性を聞かれるが本当のことを言うつもりはない。

 幸い、ギルド長の魔力感知がザルでアルマは助かっている。事実をぼかして、ギルド長が都合よく解釈する答えを用意していた。


「なるほど! 君のような優秀な生徒にこそ我がギルドにきてほしい!」


 アルマはここまで歓迎されるとは思ってなかった。

 リリーシャのように成績優秀な生徒ばかり集めているのかと思えば、話しぶりからしてそうではない。

 その内容でアルマにはこのギルドの実態が見えつつあった。


「えぇ、素敵です。卒業後はぜひこちらで働かせていただきたいと思ってます」

「うむ! おっと、もうこんな時間だ……。それで卒業後の件だがな」


 アルマは丁寧に礼を言ってギルドを出る。そして拠点となっている建物を見上げた。


(猫の手も借りたいって印象だったなぁ)


 アルマは一つだけ確信している。キラーファングは世間が思っているほど素晴らしいギルドではない、と。

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