夜道の一人歩きは危ない(犯人が)
「買い食いこそが学生の本懐っ!」
などとアルマは工房の近くのパン屋で買ったチキン揚げサンドを頬張っている。
バイト帰り、パンを食べながら暗くなった夜道を歩くのがアルマの楽しみの一つだ。前世では一度、買い食いがばれて両親が泣いてしまったことがあった。
親に品行方正な優等生のイメージを持たれていたアルマにとっては新鮮な体験だ。
クラリスに言わせれば買い食いは不良の行為だったが、最近ではシェムナに説き伏せられてついにフィレ牛サンドを食べてしまっている。
罪悪感と戦いながらも最後には買ってしまうクラリスが面白く、アルマはお勧めの品を次々と紹介していた。
「あぁ~……。至福……ん?」
暗い道の先で数人の男達がたむろしていた。アルマが目を凝らして確認すると、全員が魔道士らしき身なりだ。
いくら王都とはいえ、時間が時間なのでアルマはどうしようか悩む。彼らがよくない連中の可能性がある以上、迂回も選択の一つだ。
魔道士達はまだアルマに気づかず、ボソボソと話していた。
(こんな時間に何してるんだろ……。ギルドに所属している魔道士かな?)
悩んだ末にアルマは迂回することにした。王都の治安の良さは魔道士団の術戦隊によって約束されているが、確実ではない。
アルマとしても命に関わる窮地は望んでいない。安全第一、と右手の道を進もうとした時だった。
「なぁ、拉致はやりすぎじゃないか?」
「仕方ないだろ。早く運ばないと誰かに見られるぞ」
アルマの歩みが止まった。魔道士の一人が不穏なワードを口走ったからだ。
関わるべきではないとアルマの中で結論が出ている。術戦隊に通報するのが常識だが、それまで彼らが待ってくれるとは限らない。
しかもすでに誰かが捕まっている以上、迅速な対応が求められていた。
曲がり角からこっそり覗くと、少女が魔道士達によって拘束されている。
目を閉じてぐったりしているところを見て、何かの魔法で意識を奪われているとアルマは理解した。
魔道士達は少女を何かの袋に入れて、再び運び始める。
その様子からして犯行直後だと予想したアルマは意を決してアイテムポーチに手を入れた。
(銀星……またお願いしちゃうね……)
アルマは他人に問いかけるように、銀星セットを取り出して身につけた。
わざわざ正直に話しかける必要はないと判断したアルマが地を蹴る。捕らわれている少女の救出を優先して、魔道士達の中に飛び込んだ。
意表を突かれた魔道士達が少女が入った袋を落としそうになるが、アルマが受け止めた。そして、そっと地面に下ろしてから魔道士の一人に拳を入れる。
「がはっ!」
「な、なんだこいつ……ぐえぇっ!」
アルマの銀星としての対人戦はこれが初めてではない。
銀星として飛び回っていた頃にはぐれ魔道士を見つけ次第、今回のように痛めつけていた。
さすがに殺しを躊躇したアルマは、殺さずに無力化できるように魔道具の改造を行っている。格闘技は前世で護身用として身につけたものだ。
この世界の魔道士は魔法に頼りっきりな傾向にあり、アルマの格闘技でも十分通用する。ましてや今は不意打ちだ。
魔道具はアルマの脳波によって動いているので、理性がストッパーとなっていた。アルマが本気で殺意を抱かない限り、銀星の状態では殺害できない。
ただし魔物などはこの限りではないので、人外であればアルマは遠慮しなかった。
「ぐっ……!」
最後の一人がアルマの拳で沈んだ。一息ついた後、アルマは今回もうまくいったと心の中で喜ぶ。
(さて、と。まずは女の子だよね。こんなご丁寧に袋まで用意して、どこに連れていくつもりだったんだろう?)
袋から救出した薄い赤色のロングヘアーの少女はまだ眠っていた。少女は幼く、アルマは十歳前後と見る。
生地の質がよさそうな白いドレスからして、高い身分の家の子どもではと考えた。
アルマは少女を抱えたまま術戦隊の詰め所に行こうとしたが、ふと気づく。
ここは一度、銀星の装備を脱いでから連れていくプランにした。道端で女の子が魔道士達と一緒に倒れていたという話にすれば、銀星として姿を現さなくて済む。
どこかの正義の味方、例えば銀色の装備を身につけた魔道士がやってくれたと解釈してくれる。
第一発見者として色々と聞かれることに関しては、いくらでも誤魔化せる自信があった。
(よし、これでいこう。まずは……)
「うーん……」
(え、目が、覚めて……やっばぁい!)
「ん……?」
アルマが慌てた時には遅かった。目を開けた少女が見たものは銀星となったアルマだ。脱ぐ前に見られてはどうしようもない。
「だれ、なのです……?」
アルマは答えるわけにはいかなかった。少女は抱えられたまま銀星の魔道士を見上げる。
アルマは頭をフル回転させて、この場をどう切り抜けるか考えた。
このまま放置して逃げれば、目を覚ました魔道士達に襲われるかもしれない。当然、少女の身の安全を確保しなければ解決とはならない。
こうしている間にも魔道士達が目を覚ましてしまうかもしれない。時間の猶予がないと判断したアルマは、少女を再び抱えて低空飛行で飛ぶ。
拒否されたら終わりだと思ったアルマだが、少女は大人しかった。
「おぉー! これはゆるぎない新感覚!」
(ゆるぎないのかぁ)
アルマにできることは心の中での突っ込みと、一刻も早く少女を詰め所に送り届けることだった。
放置してきた魔道士達が気にかかったが、少女の身の安全の確保が最優先だ。
「えげつない魔道士達はもういないのです?」
(子どもなのにすごい言葉のチョイスだなぁ)
少女を襲った魔道士達のことだとアルマは理解していたが、答えるわけにはいかない。その独特な言葉選びに危うく突っ込むところだったアルマは少女の問いに静かに頷く。
もう少しで術戦隊の詰め所に着く。それまでの辛抱だから、とアルマは心の中で願っていた。
「おねーちゃんを迎えにいくところだったのです。明日、おねーちゃんが久しぶりに帰ってくるのです」
(こんな時間に? 大変な家庭なのかな?)
明日はアルマの学園も休日だ。
喋りだした少女の話をアルマは黙って聞いていた。よく喋る少女だが主語がないので、断片的にしか理解できない。
夜道とはいえ、銀星の魔道士が子どもを抱えて飛んでいるところを見られたら確実にスクープだとアルマは肝を冷やしている。
銀星ファンクラブの会員が興奮して語るのとは訳が違う。下手をすれば術戦隊に囲まれてしまう。
さすがに限界だと感じたアルマは術戦隊の詰め所の近くまで来たところで、少女を下ろした。そして指した先には詰め所だ。
(これで理解してぇ~!)
「む! あれは!」
(わかってくれた?)
「おとーさんのしょくば!」
(それはよりまずい! さようなら!)
アルマはその場から大急ぎで離れた。そんなアルマに少女は大声で叫ぶ。
「ありがとー! ぎんせー!」
(やっぱり知ってるんだ! そしてその名前を大声で叫ばないで!)
アルマは飛び去った。背後で少女と合流した術戦隊が何かを話しているのがかすかに聞こえる。
そして適当なところで隠れて銀星セットを脱いだところで、急いで術戦隊の詰め所まで走って戻った。
「大変です! あっちのほうで魔道士達が倒れてます!」
「なんだと!」
アルマの通報を受けた術戦隊は役割を分担して、一人は少女を確保。残りのメンバーで向かった。
あたかも第一発見者を装ったアルマは作戦大成功と安堵する。
術戦隊に道案内するために、大慌ての演技をして必死に誘導した。そして現場に到着すると、術戦隊の魔道士達が倒れている犯人達を起こす。
「おい! こんなところで何をしている!」
(あれ? 一人、足りない?)
アルマはすぐ違和感に気づいた。しかし、それを口にするわけにはいかない。
術戦隊に起こされた魔道士達は最初こそ、誤魔化そうとしていたが相手は歴戦の魔道士だ。
すぐに怪しまれて全員がうろたえた。
「所属ギルドを言え。どこの魔道士だ?」
「い、今はフリーで……」
「そうか。魔道士免許を見せてみろ。まずは身元を確認する」
「め、免許ですか? 家に忘れてきちゃって……」
「常に携帯しなければいけない義務があるはずだ。怪しいな、まとめて連行する」
「えぇーーー!」
「えぇじゃない!」
連行される魔道士達を見て、アルマは我が身を振り返る。一歩でも間違えば自分もあの運命を辿っていた。銀星の運用は計画的に、アルマは自分を戒める。
これから始まる事情聴取のせいで門限を破ってしまうと心配したが、術戦隊が連絡してくれると聞いて安心したアルマだった。
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