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憧れと成りたいは誰にでもあるという話

 アルマが銀星ファンクラブに加入してから、本格的に活動を開始した。

 クラリスの提案通りで浮ついた活動ではなく、銀星の魔法についての議論や訓練がメインだ。

 シェムナが作った銀星のグッズが人気で、ファンクラブの会員はバッジをつけることになる。

 自分で自分のバッジをつけるという状況にアルマは疑問を抱きつつも、活動内容はまともなので良しとした。

 銀星の魔法の議論については、適当な見解で誤魔化すしかないのだが。


「あれは絶対に光属性です!」

「でもさー、光って使い手がほとんどいないんでしょ?」

「銀星の存在がレアですから! 光の魔術式は解明されてない部分が多くて、そもそも光という概念を魔法に転用する発想からして未知、尚且つ」

「クラリス、落ち着いて。熱が入ると色々と長くなるんだからさ」


 議論がヒートアップすればクラリスの独壇場となる。こんな時、アルマはバイトがあるからと理由をつけて抜けていた。

 アルマとしてはこの不毛な議論はともかく、魔法の訓練は無駄ではないと思っている。

 術戦場を借りて魔法の修練を行っているおかげで、教師達からも評判がよかった。おかげでファンクラブ加入者の成績や実力が着実に上がっている。

 会員はほとんどが一年生だが、二年生の生徒もいるので勉強を教えてもらえるのも利点だ。

 

(どうなるかと思ったけど、銀星がいなかったらこの団結はなかったんだよね……)


 誰かのために使った力が誰かを導く。などと大層なことを考えつつ、アルマはバイトへ向かう。

 校舎を出たところで、門にひとだかりがあることに気づく。見知らぬ魔道士達がリリーシャを囲んでいる。

 ローブにそれぞれのギルドのエンブレムが刻まれていて、プロの魔道士だとわかった。


(リリーシャ、あんなすごい人達に囲まれてどうしたんだろ?)


 アルマがさりげなく近づくと、魔道士達が熱心にリリーシャを口説いていた。

 各ギルドが必死にリリーシャを引き入れようとしているのが確認できる。


「ですから、まだ決めかねている段階ですので……」

「魔物討伐ギルド『狩人の集い』ならば、君の力を活かせると約束しよう」

「ブラックリスト討伐ギルド『キラーファング』はA級賞金首の討伐実績がありますだ。そしてアットホームなギルドですよ」

「海上討伐専門ギルド『ウィズ・シー』に興味ないか? あまり知られてないが、海上トラブルを解決できるギルドは限られているんだ」


 アルマはどのギルドの名前も聞いたことがある。

 狩人の集いはどのギルドも拒む国内の難所であろうと、魔物討伐を必ず引き受けることで有名だ。

 魔物討伐にもっとも必要なのは難しい地形の把握や対処であり、理解がないギルドは二流とまで言う者もいる。

 クラスメイトの中には将来の就職先として考えている者が何人かいた。

 キラーファングは狙った獲物を逃がしたことはなく、国外逃亡した賞金首を何人も討伐している。

 討伐実勢100%を掲げるだけあって、度々国からの依頼を引き受けているという話すらあった。

 その情報網やフットワークの軽さが度々話題になっていて、特に男子に人気があるギルドだ。

 ウィズ・シーは数少ない海上専門のギルドで、内陸にあるこの王都とは遠い場所を拠点にしている。

 こちらも王国術戦隊の海上部隊に次ぐ人気があり、自ら勧誘のためにやってくることはほぼない。

 数年前、このギルドが海の悪魔と呼ばれる帝王イカを仕留めたニュースが国内を駆け巡ったのをアルマは覚えている。

 いずれも学園卒業生の就職先の鉄板といってもいいギルドばかりだった。しかしリリーシャは首を左右に振るばかりだ。


「どのギルドも大変すばらしいと聞いてます。しかし私はまだ勉強中の身で、将来のことを考えている余裕がありません。すみません」

「そうか……。だが我々はいつでも君を受け入れる。気が向いたら、王都内にあるギルドを訪ねてくれ」


 狩人の集いの魔道士が去っていく。とんでもない魔力だとアルマは感じた。

 狩人を名乗るだけあって抑えてはいるものの、常に射竦めるような魔力を放っていた。他のギルドはどうかとアルマが観察したところ――。


「一度でもいいから、ウィズ・シーに見学に来てもらえないか? 俺達の仕事に対する熱意だけでも伝わると思う」

「素敵なお誘い、ありがとうございます。考えさせてください」

「俺達はしばらく所用で王都に滞在している。何かあったらホテル『ルジョワール』に来てくれ」


 筋骨隆々といった体格の魔道士が颯爽と去っていく。見た目通り、押しつぶされるような圧が強い魔力だとアルマは思った。

 残ったのはキラーファングの魔道士だ。メガネの位置を中指で直して、リリーシャの前から動こうとしない。


「ふぅ……。あの二人からは熱を感じられませんね」

「熱?」

「そう、熱です。何かを成したいという熱、私達はそれを持っています。当ギルドでは全員が一丸となって夢を追っているのですよ」

「夢ですか。私にもその一員になる資格があると?」

「正確には夢を追う喜びを知ってほしいといったところですね。何を実現したいか、何ができるか……。仲間と共に試行錯誤の日々を過ごしています」


 リリーシャは考え込んでいたが、アルマはうんざりしていた。

 綺麗な言葉ばかりを並べても具体性がないので響かない。キラーファングの魔道士はリリーシャの前から動かず、ひたすら説得を続けていた。


「話はわかりました。しかし、私のことは私が決めます。貴重なお話、ありがとうございました」

「いえ、待ってください。話は終わってません。あなたはキラーファングでこそ輝くべきです。当ギルドは一級はぐれ魔道士の討伐実績があります。安心と安定は約束しましょう」

「すみません。用事があるので……」

「ちょっ……」


 リリーシャが魔道士をすり抜けるようにして歩き去った。

 アルマも思わずリリーシャの後を追うようにしてついていく。ふと振り返ると、魔道士は無表情だった。


                * * *


「話を聞いていたのかしら?」

「あ……」


 校門の外までついていってしまったアルマがリリーシャに気づかれた。アルマはなぜついていったのかわからない。

 気まずい雰囲気で言い訳が思いつかずに戸惑っていると、リリーシャが歩き出した。


「あなたも何か用事でも?」

「話を聞いちゃった」

「そう……」

「あ、でもバイトがあるからどのみち校門を出るところだったよ」

「偉いわね」


 リリーシャが歩みを止めて、街路樹に背中を預けた。

 アルマはどうしていいかわからず、ひとまず棒立ちでに留まることにする。バイトに行くのは事実だが進行方向が逆だ。

 目の前でインパクトがあるイベントを見せつけられて、どうしても興味を持ってしまったのだろうなと苦笑した。


「私は用事なんてないわ。単にあの人が邪魔だっただけ」

「キラーファングの人? あのギルドに入る気はないの?」

「今のところはね。自分が行くべきギルドなんて私にもわかってないもの」

「へぇ……意外。てっきりすでに決まっていると思った」


 リリーシャはしっかり者で将来の展望も考えてある。アルマは勝手にそんなイメージを持っていた。

 しかしそうとも限らないのは前世の自分を振り返ればわかる。当たり前のように進学校、当たり前のように大手企業に就職。

 そんな中で、本当にこれでいいのかと考えたことが何度もあった。

 アルマの場合は親や周囲の期待に応えるためだったが、リリーシャはどうなのかと気になっている。


「家がそれなりだからね。いくなら大手ギルドにしなさいと言われてる。でも大手ならどこでもいいのかな、と思ってね」

「大手といっても色々あるからね。でも大切なのは何をやりたいかだと思うよ」

「そう、私は何がやりたいのか、と考えてしまった。そしたら……」


 リリーシャは銀星の魔道士の人形ストラップを指で撫でた。銀星の魔道士に助けられた日の記憶がいつまでも彼女の中に残っている。

 それまで持っていた魔道士の先入観、格の違い。すべてがリリーシャの中で覆されてしまった。

 銀星との出会いがリリーシャの人生の転機となりつつある。人形を撫でながら話すリリーシャを見て、アルマも薄々とそう感じていた。


「もっとね、自由で強くありたいなって思うの。そうなると、どこのギルドに所属するのも違うかなって……」

「そ、そんなことないよ! ほら、銀星って正体不明だしそもそも魔道士の免許を持ってるかわからないし、それに比べたら大手ギルドのほうが安心安定だよ!」

「アルマさんは銀星が無免許魔道士……。はぐれ魔道士だと思うのね」

「ごめん。決めつけるのはよくないね」


 リリーシャの将来を考えるあまり、アルマは失言してしまった。

 誰がどう言おうと銀星の魔道士はリリーシャにとっての憧れとなっている。

 気分を害してしまったかとアルマはリリーシャの顔を見たが、笑みを浮かべていた。


「別にいいじゃない、はぐれ魔道士でも。優れた魔道士がいいことをするのにどうして免許が必要なのかしら。なんて、最近は思うの」

「そりゃ免許というのは一定の信頼の証でもあるから……」

「信頼なんて仕事ぶりで十分じゃない。と、あなたと議論してもしょうがないわね」

「リリーシャって意外とそういうこと言うんだね。私の友達なんて『魔道士免許がないと!』って延々と語りだすのにさ」

「フフ……堅物の優等生だと思ってた?」


 アルマはリリーシャにお堅い学年代表というイメージを持っていた。

 免許なんてなくてもいいというのは冗談かと思えば、まんざらでもない。

 銀星の魔道士、即ち自分がリリーシャの人生観を歪めてしまったことに少なからず思うところがあった。


「銀星の魔道士は確かにすごいと思う。でも銀星だって何かになりたいと思ってるんじゃないかな?」

「……どうしてそう思うの?」

「勘、なんとなく。考察も銀星ファンクラブ会員の仕事だからね」

「あなた、ファンクラブに入ったの!?」

「あ、やばい! バイトに遅れる!」


 喋り過ぎたアルマだが、ちょうどよくごまかせた。

 急いだアルマだが、バイトに遅刻して親方から怒られるというシチュエーションも捨てがたいと思っている。

 遅刻で怒られるということは時間を守れなかったことを指摘されるということ。

 そうなれば自分の落ち度をよく理解できる。反省して次に活かせる。アルマはそういう機会をほしがっていた。


「銀星が何かになりたがっている……そうなのかしら」


 リリーシャがアルマを見送ってポツリと呟いた。

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