銀星ファンクラブ
銀星ファンクラブが結成した日から会員数は10人以上になった。
シェムナとクラリスを含めて、すべてが女子生徒だ。放課後、空いた教室に集まったファンクラブを見てアルマは驚いた。
最初こそ二人のお遊びだろうと思って黙認していたものの、気がつけばちょっとした組織になりつつある。
なぜか女子生徒ばかりなのも気になっていて、アルマは度々こっそりとその活動を覗きに行っていた。
教室ではクラリスが音頭を取って、今後の活動内容を話している。
「いいですか? 言うまでもなく銀星の魔道士は国内でも最強の一角と言われている魔道士。その正体や消息は一切掴めません。ですが」
「あー、会長ー! もっと手短にー!」
「シェムナさん、これは大切な……。まぁいいでしょう。今後についてですが、もちろん浮ついたことばかりやるつもりはありません」
「例えば?」
クラリスが会長となっている事実、会員が真剣に聞き入ってる様子。
アルマはこの光景が信じられなかった。言い出しっぺのシェムナが会長ではなく、クラリスが真剣に取り組んでいる。
不安はあるが、それなら心配はないかと立ち去ろうとした。
「例えばですが……」
「お、ここか!」
クラリスの話を遮るようにして、一人の男子生徒が入ってきた。
アルマはその人物とは面識がなく、同じ一年であることしか把握できない。
「あなたは?」
「俺もファンクラブへ入ろう!」
「あなたも銀星のファンなんですか?」
クラリスが訝しんだ時、後からゾロゾロと男子生徒達が教室に入ってくる。
ファンクラブは全員が女子、後からやってきた男子達。この構図にアルマはなるほどと思った。
ファンクラブの存在が噂になって、しかも会員が女子ばかりと聞けばこういった輩が集まる。
その証拠に男子生徒達は女子達を値踏みするようにちらちらと見ていた。
「俺達も加入するぜ」
「仲良くしような!」
「銀星最高!」
軽薄なセリフを並べた男子生徒達にクラリスは呆れた。
ファンクラブとしては断る理由がなかったが、個人的には受け入れがたい。
どうするべきかと悩んでいた時、もう一人の男子生徒が後からやってきた。
「ここがファンクラブとかいうやつか」
また一人増えた、とクラリスがうんざりする。その生徒はクラスメイトであり、名前はラデル。
クラリスとも特に交流はなく、休み時間も一人で過ごしている少年だった。
アルマも彼のことはよく知らない。何故かラデルが銀星のファンとは思えず、何か胸騒ぎがした。
「お前は確かクラスメイトのクラリスにシェムナか。こんなものを立ち上げてどういうつもりだ?」
「その名の通りです。銀星は私達の理想であり、ファンクラブは少しでも近づこうとするための活動を行う予定です」
「兼ねてから噂は聞いていたが、どうだか怪しいものだ。現にここにも、邪な気持ちを抱いた連中が集まっているじゃないか」
ラデルが集まった男子生徒をジロリと睨んだ。図星を突かれたとばかりに男子生徒達はギクリとしている。
アルマはラデルに、印象から遠くない性格だと思った。堅くて真面目、浮ついたことは許さない。
喋り方がどこか古風で、ラデルは相手が女子だろうと態度をまったく変えなかった。
「学園内の活動であれば、先生には報告しているのか?」
「メレヤ先生に空き教室の使用許可をいただきました」
「メレヤ先生が……? まぁいい。たとえ先生が許しても、こういった活動は俺が許さん」
「何か合理的な理由でも?」
「そこにいる奴らを見ろ」
わかるだろうと言わんばかりにラデルは男子生徒達を指した。
クラリスも言わんとしてることはわかる。しかし、それだけでファンクラブの否定にはならないと感じた。
ラデルは眉間にしわを寄せて、男子生徒達に近づく。
「お前達、どうせここにいる女子達が目当てなんだろう?」
「は、はぁ? ちげーし!」
「お前こそ、そうなんじゃないのか!?」
ラデルはため息をはいて、腰に手を当てた。
アルマとしてはクラリスとシェムナが心配ではあるが、ラデルが何をするのか興味がある。
「お前達は栄えあるエルティリア学園に何をしに来た? 魔道士とは社会に貢献する義務を背負っている。それは即ち国の礎となるということだ」
「なんだこいつ……」
「エルティリア学園は何人もの高名な魔道士を輩出した由緒ある神聖なる学び舎。浮ついたお前達が、この学園に在籍する意味がまったくわからん」
「正式に入学したんだから、そこまで言われる筋合いはないぞ。お前こそ、偉そうなことが言えるのか?」
ラデルがフッと笑う。クラリス達はひたすらもう帰ってほしいと願っていた。
「では術戦といこう。一人でも俺に勝てたら、お前達に非礼を詫びよう。どうだ?」
「術戦だって? 正気か?」
「しかも全員って……。こっちには二年の先輩もいるんだぞ?」
アルマもそれは感じている。ラデルがいくら強かろうと、先輩を含めて全員に勝てるとは思えない。
元トップのヘリオほどではないとはいえ、先輩であれば手下の二人と同等かそれ以上の実力がある。
そんな状況でもラデルは堂々としていた。それから教師に術戦の申請を行って、術戦場に向かう。
アルマはもちろんこっそりとついていった。
* * *
「もう終わりか?」
「ク、クソッ!」
術戦場でラデルは一歩も動かなかった。連戦をこなしたラデルは最後の一人を見下ろしている。
魔力が底をついて、対戦相手の男子生徒が悔しそうに床に手をついていた。
アルマはラデルの実力を完全に認める。彼の使用属性は地であり、まるで巨岩のように不動を貫いて男子生徒達の魔法でまったく揺るがなかった。
最後の対戦相手は二年生だ。アルマの見解としてはヘリオに及ばないものの、近い実力を持っている。
使用属性は風で、一帯を切り裂かんばかりの魔法はアルマも目を奪われていた。
「ラデル君の……勝利です」
メレヤが連戦の最後の結果を告げる。彼女もほとんど言葉を失っていた。
ラデルは成績優秀で真面目な生徒だが、あまり目立たない印象を持っていたからだ。
しかし一度でも火がつけば大地が揺らぐがごとく、相手を裂け目にのみ込む。ラデルそのものが大地とすら錯覚した。
「これでわかっただろう。お前達は浮ついている。俺は誰よりも真剣に魔法と向き合って勉強してきた。そして魔力にも恵まれた」
「う、ううぅ……」
「大した魔力でなければ、なぜ努力を怠る? 女に現を抜かしている余裕があるのか? だからお前達は弱い」
「うぅっ……うっ……」
二年の男子生徒が悔しさのあまり、涙を流した。
一方、アルマはラデルの発言にカチンとくる。同時によくない癖が出そうになっていた。
それはクラリスが制するより早い。
「ラデル、それは違うと思うよ。まず相手は先輩なんだから敬うべきだし、言葉も選んだほうがいいよ」
「む? なんだ、お前は……」
「先輩達が入学してくれたからこそ、学園が支えられている。だからまともな先輩なら敬意を払うべき」
まさかの相手にラデルは少しの間、言葉を出せなかった。
「アルマ?」
クラリスがきょとんとして、アルマの登場を見ている。
ファンクラブの女子達に紛れていたから、誰にも気づかれてなかった。
「私はあなたと同じクラスのアルマ。相手の魔力を貶めるのは違うでしょ。それは持って生まれたものなんだからさ」
「だから努力を怠るなと言っている」
「そうじゃなくて、言ったらダメなやつっていう意味なの。ホント、モラルも何もないね」
「何だと……」
ラデルが青筋を立てる。その様子を見て、アルマは確信した。
ラデルはどこか女子だからとアルマを侮っている。これまで男子生徒達に様々な言葉を浴びせれても動じなかったラデルだ。
アルマが少し煽っただけで怒りを示していて、ラデルという人間の底を見た気がした。
悪い人間ではない。言ってることも正論だ。しかし、底が浅い。
まだ13歳という年齢のせいもあるが、アルマとしてはここで正しておくのもいいと考えた。
「私と術戦をしてよ。誰よりも低魔力の私があなたに勝ったら面白いでしょ?」
「正気か? 実習を見ている限り、お前の魔力では俺に勝ち目などない」
「私が勝ったら、まずあっちの男子達にきちんと謝って。あとファンクラブの皆にもね。あなたのせいで活動が止まってるんだからさ」
「面白い。いいだろう」
アルマの目論見通り、ラデルはあっさりと術戦を承諾した。
クラリス達はあまりの話の早さについていけてない。アルマには悪いがその魔力では、と彼女も思っていた。
「ア、アルマさん。さすがに……」
「クラリス、大丈夫。勝つから」
「アルマァ! やめときなって!」
「シェムナも見ていて。マジで問題ないから」
マジで、とアルマはシェムナの口癖を強調した。ラデルはフンと鼻を鳴らして、術戦場で待機している。
アルマの考察の通り、ラデルはアルマ達を軽んじていた。術戦魔道士は男の世界、そう教えられて育ってきたのだから。
「俺が勝ったら、お前が俺に頭を下げろ。それでいいな?」
「いいよ」
あわわと慌てるメレヤだが、アルマのことは気になっていた。
低魔力でありながら、どこか底が知れない。ある意味で謎の生徒であるアルマを知りたくてしょうがなかった。
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