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危険な魔道具に注意

「アルマちゃん! この魔道具の修理を頼めるか!」


 魔道具工房にてアルマはバイトに勤しんでいた。

 この工房で働く者達を魔道具士という。ここも例外なく魔力を使用した仕事がメインであるが、アルマはほぼ手作業だ。

 そのせいで魔道具士達は当初、アルマを邪険に扱った。

 親方も小娘が冷やかしにきたのかと考えて、アルマにきつく当たったが今では頼りにしている。

 面接の時に振るいにかけたつもりだが、当のアルマはどこか頬を緩めていた。

 乱暴な言葉を浴びせられておかしくなったかと思ったが、単に気持ちよくなっているだけだ。


(わ、私、舐められている……。バカにされてる……ここから逆転したいなぁ。うへへへ……)


 このような心境が顔に出ているのだから、親方や他の魔道具士達は気味悪がった。

 ところが質問攻めにも動じず、逆に魔道具士達が知らない質問を返されてしまう始末だ。

 そこからの工房内における魔道具の不備の発見や修理が続いて、職人達はアルマに白旗を上げた。

 それでも生意気なガキだと内心で思ったものの、アルマの働きぶりは今や誰もが認めている。


「これは冷房ですね。ははぁ、動力部分の損傷が著しいので交換しちゃいましょう。さくさくっとね」

「手作業なのに相変わらずの手際だな……。動力部分の魔石や周辺はデリケートだから、交換にも技術がいるってのによ……」

「そうですね。手間なら誰にでも交換できるようにしたほうがいいかもしれません」

「できるのか?」


 アルマはその場で冷房の動力部分をカチャカチャといじって、あっという間に仕組みを変えた。

 交換の際に誰でも動力部分を取り外せるようになり、実演して見せると魔道具士達を驚かせる。


「この部分を手で押すだけで簡単に取れます。つける時は少し押してください」

「ど、どういうこっちゃ!」

「こんな仕組み、見たことないぞ!」


 前世のはめ込み式を応用したものだが、さすがに黙っていた。

 清掃も楽になり、家庭でも簡単にできるようにすると――


「これじゃ俺達の仕事がなくなっちまうよ」

「あ、いやいや。むしろ負担が減りますよ。ここの工房、常に忙しいですよね? 休みも返上してる状況なら、楽になるべきです」

「そうかぁ?」

「休まないと死んじゃいますよ。私の親戚のおじさんは働きすぎてある日、布団の中で冷たくなってました」


 ありもしない話をでっちあげて、アルマは魔道具士達を脅した。

 アルマがこの工房に対して思ったことは働きすぎ、だ。しかし魔道具士達はそれを何とも思ってない節があり、休みという概念すらほぼない。

 だからこそ小娘の手も借りたくて、バイトの募集をしていた。

 アルマが少しずつ業務上の負担を減らしたおかげで、魔道具士達にも心のゆとりができて今は優しい雰囲気が出来上がっている。

 ギスギスした雰囲気が客にも伝わっていたので、近寄りがたかった魔道具士達は笑顔で接していた。


「アルマちゃん、いるか!」

「この魔道具、火がなかなかつかなくてさ!」

「おーい! アルマちゃん!」


 工房に訪れる客のほとんどがアルマ目当てだった。

 看板娘のような役割を果たしており、アルマとしては複雑な心境だ。客に対してそれでいいのか、と思わなくもない。


「あ、ありがとうございます!」

「ハハハ! かわいいなぁ! また来るよ!」


 特に演技はしていないが、アルマはよくかわいがられる。

 工房の雰囲気作りに一役買っているので、魔道具士達は笑いながら見ていた。そんなある日、一人の紳士が客としてやってくる。

 身なりからして上流階級の貴族であり、魔道具士達の間に緊張が走った。


「い、いらっしゃい! 本日は修理ですか? 製作依頼ですか?」

「修理を頼みたい。これなんだがね」


 紳士が差し出したのはオルゴールだ。魔道具士達はこれが魔道具だと気づいて快く引き受ける。

 紳士はこのオルゴールの音の響きが今一だと主張した。とある人物からプレゼントとしてもらったもので、このままでは納得がいかない。

 使うからには質を向上させたいということで、魔道具士はさっそく作業に取りかかった。


「構造自体は単純ですからね。すぐに……ん? こりゃ妙だな」

「どうしたのかね?」

「いえ、開け口がどこにもないんですよ。これがなきゃ組み立ても修理もできないんですけどね」

「ふむ、それは妙だな」


 アルマが自分の作業を終えて、その様子をひょっこりと覗いた。そしてすぐに気づく。


「これは溶接されてますね。どういう意図かわかりませんが、くり抜いてください」

「そうだな……どれ」


 溶接されている部分に切り込みを入れて、底の外装を外した。魔道具士達が手を加えようとした時だ。


「待って! 触らないでください!」

「うぉっ! なんだってんだよ、アルマ。びびらせんなよ……」

「いいですか、落ち着いて聞いてください。これ、変な仕掛けがあります」

「……なんだって?」


 これが少し前のアルマの発言であれば、魔道具士は笑い飛ばした。

 今のアルマだからこそ、魔道具士達は血相を変えてアルマにオルゴールを手渡す。

 アルマが慎重にオルゴールを解体していくと、中心の歯車から小さい魔石の欠片が抽出された。


「奥の歯車にかすかに魔石が取り付けられています。その魔石の中心部分が赤黒い……あれは妖魔石です。オルゴールが使われるごとにあの妖魔石が削られて、思考能力が奪われます」

「ほ、ホントだ……。よく気づいたな……」

「溶接して中を見られないようにしていたんでしょう。中身もオルゴールにしては複雑な構造になってましたからね。何かあるなと思ったんです」

「妖魔石とくりゃ、刺激したらえらいことになるな……。よし、取り扱いは任せろ」


 魔道具士達は妖魔石を適切に処分した。それからオルゴールの中身を見ただけで察したアルマの洞察力に心の底から驚愕している。

 念のため、部品を補完しておくことにした。何よりもっとも驚いているのはオルゴールを持ち込んだ紳士だ。


「なんということだ……。知らずに使い続けていたら今頃は……」

「送り主はわかっているんですよね?」

「あぁ、タクラム子爵だよ。信頼するビジネスパートナーだが、まさか彼が……」

「一応、このオルゴールは証拠品として保管しておいてください」


 紳士が頷いて、オルゴールを手に取る。

 この工房で貴族の暗殺紛いの事件を未然に防止できたのだから、魔道具士達は大慌てだ。

 気づいたアルマが魔道具士達からくしゃくしゃにされるほど頭を撫でられる。


「お前っ! すげぇな!」

「あ、あの、まだ解決したわけじゃ……」

「そうだったな。だが、そこから先は俺達の仕事じゃない」

「そうでしたね」


 紳士がガックリと項垂れた。信じていた相手なだけにショックが大きい。

 気を取り直してオルゴールを握り、アルマや魔道具士達に頭を下げた。


「この度は大変、ご迷惑をおかけしました。音楽を好む私の趣味をついた嫌らしい贈り物です……。しかし私には強い音への拘りがありましてな。タクラム……ううむ……」

「あなたが違和感を覚えなければ、ここに持ち込むこともありませんでしたね」

「そうですね……。君はアルマと言いましたか。まさかこんな……いや、失礼。この工房に君のような魔道具士がいるとは……」

「あの?」


 紳士はアルマをまじまじと見つめた。仕事以外でここまで見られるのをアルマは恥ずかしく思う。


「君は将来、素敵な魔道具士となるでしょうな」

「いえ、私は術戦魔道士になります。そのためにエルティリア学園に通っているんです」

「なんと……それはそれは……」


 これには魔道具士達も紳士と同じことを思っている。

 この親方はアルマに工房を継がせたいとすら考えており、時々説得を試みる。しかしアルマの意思は変わらない。


「それではこちら、代金です」

「こ、こんなに!」

「巻き込んでしまったお詫びでもあります。どうか受け取ってください」

「は、はぁ……」


 親方に手渡された代金は工房の一年分の稼ぎに相当した。

 紳士はこの後、タクラム子爵について徹底的に調べ上げた。

 調査結果、タクラム子爵は紳士を亡き者にしてビジネスを丸ごと独占する計画を立てていたと判明する。

 タクラムを含めた計画に関わった者達がすべて拘束されて、この事件は一部の界隈を揺るがす。

 それはアルマの知るところではないが、紳士はアルマの名を決して忘れなかった。

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