いやいや、銀星ファンクラブって…
「本日は休校にしました。生徒達の安全を考えたら仕方ありませんね」
学園長のジェライナは緊急の職員会議を開いた。
銀星の魔道士が生徒達を襲撃した件について、ジェライナは事態を重く見ている。
ヘリオ達の件は被害者であるシェムナとクラリス、加害者であるヘリオ達の双方からすでに聞いていた。
被害者の二人はヘリオ達の蛮行を赤裸々と語り、ヘリオ達は銀星の魔道士に怯えてまともな話にならない。
このような有様である以上、話の焦点が銀星となるのは当然だった。
これに納得がいかないのはアルマ達の担任であるメレヤだ。
「学園長、銀星の魔道士はシェムナさんとクラリスさんを助けたのです。危険な存在ではありません」
「そうなのでしょうけど立場上、こうするのが最善なのですよ。それにヘリオ君達があんなに怯えるほどの存在ですからね」
「そうかもしれませんが、しかし……」
「まぁ銀星の魔道士についてはわからないことだらけです。続いて……」
ジェライナは職員達をジロリと見渡す。言いたいことはわかっているなと言わんばかりの視線だ。
特にヘリオ達のクラス担任は目を伏せている。ヘリオ達の本性に気づけず、成績優秀だと褒めて浮かれていた。
職員達の前では愛想がよく、内申評価が高かったことも原因の一つだ。ヘリオ達の本性を知った職員達は何も言えない。
「生徒達への聞き取り調査を行ったところ、ヘリオ君達の被害にあった生徒達は多いですね。おそらくこれまでも事件にならなかっただけで、こういったことはあったのでしょう」
「も、申し訳ありません! この度はすべて担任である私の監督不行き届きです!」
「これは学園全体の問題です。優秀な魔道士を育てるという点ばかりに注力していた私達の課題でしょう。ヘリオ君達は退学処分、お父上達からもすでに謝罪をいただいております」
「で、では保護者の方々には……」
「ヘリオ君達のお父上達がすべての責任を負って、保護者の方々と向き合うとのことです。この学園の責任を問わないでくれと仰ってます」
今回の件でヘリオの父親は激怒して、息子への退学処分を受け入れた。
ヘリオは一から鍛えなおすということで家から出さずに徹底した教育を施すと意気込んでいる。
特に親同伴で学園を訪れたヘリオの顔は変形しており、頭を掴まれて床に叩きつけられんばかりに謝罪させられていた。
更に両親達は被害を受けた生徒達の家々を一軒ずつ巡って、謝罪をして回ると学園長に頭を下げる。
同時に学園は素晴らしい教育機関であり、これは我々の責任だと各方面に何度も訴えるとも約束した。
主犯のヘリオと共にグレイルとデーオも両親から厳しい制裁を受ける。
グレイルは家の監視下で働きに出されて、デーオは山奥の神殿に送り出された。
治癒師の修行場ともされている神殿では厳しい禁欲生活を強いられており、何人も脱走を図るほどの場所だ。
そんなヘリオ達の両親達の誠意のおかげで保護者達の大半が理解を示すこととなった。
「というわけです。職員の方々には今一度、気を引き締めていただきましょう。もちろん私も例外ではありません。さて、先ほどはわからないことだらけと言いましたが銀星についてです。
巷では噂になっていましたが、まさか当学園の生徒の前に現れるとは思いませんでした」
職員達も銀星の魔道士については気になっていた。
職員の中には生徒達の噂話として信じてなかった者がいたが、生徒と接触したのならそういうわけにはいかない。
銀星の魔道士がどういう存在であれ、善の存在と決まったわけではないからだ。
「今後、学園の警備を強化する方針です。そして万が一、銀星の魔道士と接触した際のマニュアル作成も同時に行います」
「せ、接触したらどのような対応を?」
「メレヤさん、先ほどからやけに積極的ですね? あなたも銀星の魔道士がよほど気になるのかしら?」
「いえ……」
メレヤは銀星の魔道士について特別な思い入れがある。しかしそれをこの場で話すのは適切ではないと考えた。
マニュアルの内容としては、銀星の魔道士と接触した場合は絶対に戦わないこと。これは威嚇行動も含む。
生徒がいる場合は安全第一はもちろんのこと、刺激しないことが優先された。
ジェライナがクラリスやシェムナから聞き出した情報で判断すると、たとえ職員でも銀星を相手にするのは危険だと考えた。
* * *
休校明けの日、アルマはクラリスやシェムナから銀星の魔道士に対する語りを延々と聞かされていた。
登校時から今の昼食時に至るまで、二人は熱い思いを語っている。
アルマの誤算は二人が銀星の熱狂的なファンだということ。知っていたら助けなかったというわけではないが、こうも同じ話ばかりされては辟易する。
愛想笑いを浮かべて、ひたすら付き合うしかなかった。
「もーマジでちょーかっこよかったし!」
「あの独特な外装のデザインは魔道士の新時代を切り開くものです。特にあの流星のような光の筋は魔法として、一切の無駄がありません」
シェムナがはしゃいで、クラリスは冷静に分析する。
二人は魔道具の可能性とはまったく考えていない。それだけアルマの魔道具技術と世間の技術が乖離している証拠だ。
ヘリオが言っていた通りで魔道士を補助する魔道具はあるものの、強力な攻撃手段がある魔道具はない。改めてアルマはやりすぎたと思った。
二人に対して、銀星の魔道士は私だと明かして信じるだろうか。あれは趣味が高じて作った魔道具だよと言って信じるか。
二人の話を聞き流しながら、アルマはそんな可能性について考えていた。
「アルマ、聞いてる?」
「え? あぁ、銀星の魔道士がすごいんだよね。わかるわかる」
「アルマってマジで銀星の魔道士を知らなかった感じ?」
「う、うん。ずっと勉強ばっかりしていたけど……」
「していたけど?」
友達という概念を忘れていた、とアルマは言おうとしたがやめた。
勉強と研究でそれどころじゃなかったというのもあるが、友達を作るという発想が思い浮かばない。
それがこの学園に来るまでのアルマだった。
「たまに遊んでたかな。一人で」
「一人で? 寂しくない?」
「寂しかったけど今は平気。二人がいるからね」
「えぇー、なんかくっさ」
「ひどくない!?」
こんなやり取りすら今のアルマにとっては貴重だ。勉強や仕事でしか人と関われなかった時とは違う。
一人で遊んでいた。それは紛れもなく銀星の時だ。
今回は作り出した力で友達を助けられた。そう考えると、一人で研究していた日々も無駄ではなかったとアルマはじみじみと思う。
「ところでさ、アルマにクラリス。アタシ、考えたんだ。アタシ達で銀星ファンクラブを作らない?」
「ぶふーっ!」
「アルマ!?」
シェムナの提案にもっとも意表を突かれたのはアルマだ。飲み物を吹き出してゴホゴホと苦しそうに咳をした。クラリスに背中をさすってもらっている。
「ご、ごめん……。シェムナがいきなり変なこと言うから……クラリス、ありがと」
「そうですよ、シェムナさん!」
「えー? 別に変じゃなくない? クラリスってば、そういうの知らないの? 国内の有名な魔道士には大体そんなのいるんだよ」
「そーなんですか!?」
クラリスだけではなく、アルマも初耳だった。
なんだかとんでもない方向へ行こうとしている。アルマとして止めるべきか。しかし何となくだが、止まらない気がしていた。
クラリスが戸惑いながらも、まんざらではないといった素振りだからだ。
「そ、それでどういった活動をするんですか?」
「応援活動だよ。でもただのミーハー活動じゃなくてさ。銀星みたいな魔道士になるために訓練とかするの。クラリスもあんな魔法を使ってみたいでしょ?」
「それは、まぁ、しかし、ですね」
「じゃあ決定!」
「何が『じゃあ』なんです!?」
アルマの予想通り、シェムナがファンクラブ立ち上げを強行してしまった。
あまり騒がれるのはアルマにとって良くないが、ここで止めるのも怪しい。
それに学園内でまともな活動を行っていれば、アルマが口出しするところでもないと考えた。
渋っていたクラリスだが、他のファンクラブの活動をシェムナから聞かされるうちに次第に説き伏せられる。
「ま、まぁ息抜きにはいいんじゃないですか?」
「うふふふ、銀星のタオルとか作っちゃお」
「シェムナさん! 本当にまともな活動をするつもりなんですよね!?」
「大丈夫だって」
まともであればいい。アルマもそう納得した。
しかし銀星タオルに続いて下着やハチマキなども作ろうと意気込んでいるシェムナを見て不安になる。
その時、この彼女達のやり取りを近くで聞いていた人物がいた。
「銀星……ファンクラブ?」
学年代表のリリーシャがアルマ達、三人を見ている。
三人前の定食をテーブルに置いた後、頬杖をついて何かを考え込んでいた。
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