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友達のためならしょうがないよね

 時をさかのぼってアルマはシェムナとクラリスと別れた後、魔道具工房の面接に向かった。

 工房側はアルマを小娘と侮っている雰囲気を隠さず、次々と魔道具に関する質問を繰り返すも即答される。

 それどころか工房内に置かれている作業用の魔道具の不備を言い当てたところで、職人の親方は態度を変えた。

 非礼を詫びて年下のアルマに頭を下げる。アルマは採用を受け入れた。


(思ったより時間がかかったなぁ。やっぱりこういう世界だと、圧迫面接のレベルが違うや……あぁ、気持ちよかったなぁ。えへへ……)


 職人達からコンプライアンスも欠片もない発言が飛び出した時はアルマも受けて立った。

 言い返すのも面倒なので実力を見せつけてやれば、まさかの平謝り。

 荒っぽい職人達だが腕が確かなのは見て取れたので、多少の発言は目を瞑ろうと思った。

 そんな面接の帰り、学園内にある寮の部屋でクラリスとシェムナを待つ。

 その日は面接が終わった後、部屋に集まろうと約束していたのだ。

 ところがいつまで経っても二人が訪ねてこない。寮長に聞いても、二人はまだ帰ってないと言う。

 胸騒ぎを覚えたアルマは、その辺にいる生徒を捕まえて二人の消息を探った。

 二人を目撃したという二年の男子生徒は怯えるような口調でアルマに語る。


「あ、あぁ。グレイルとデーオが女子二人と揉めているのは見たな」

「グレイルとデーオって誰ですか?」

「ヘリオの手下みたいな奴らだよ。いつものことだし、できるだけ関わりたくないからスルーしたんだ。そしたらあの二人、どこかに連れていかれたな……」

「それで先輩は黙って見ていたんですか?」

「だからヘリオ達とは関わりたくないんだよ。先生に密告しようものなら後が怖い」


 アルマはその後、二人の行先を他の生徒から聞き出す。

 ヘリオ達の居場所が民家の廃墟跡だと突き止めた後、アルマは走り出した。

 しかしもしヘリオ達が強硬手段に出た場合、自分の実力では止められない。

 劣勢の状況こそアルマが望むものであるが、失敗すれば自分もろとも二人を更に危険に晒してしまう。

 自分だけならまだしも、それはアルマの本意ではなかった。


(アレを使うしかないか……)


 アルマは人の目につかないところに移動してアイテムポーチから銀の兜やローブ、ガントレットを取り出す。

 銀星と呼ばれる魔道士になるのは久しぶりだが、アルマは趣味として魔道具の開発を密かに続けていた。

 その結果、銀の胸当てや足具などを追加することで性能がより向上している。

 そのせいで容姿に秘匿性が増しているのはアルマの意図するところではなかった。


(久しぶりだね、銀星)


 日が落ちかけた午後、アルマは廃墟を目指して飛び立った。


                * * *


「な、なに……?」


 クラリスの目の前には銀星となったアルマがいる。

 しかし武装とも言える銀色の装備に目を奪われて、その正体には気づいていない。

 アルマはクラリスとシェムナの外傷の有無を確認した。どこも怪我をしていないとホッとするが、声はかけない。

 銀星が世間を騒がせている以上、安易に正体を明かすべきではないと考えた。

 

「ま、まさか、ぎんせー?」

「シェムナさん、そんなまさか……」

「いや、だって……。アタシ、銀星のアクセサリとか持ってるし。ほら……」

「ほ、本当……そっくりです」


 クラリスも銀星の魔道士のことは聞いている。それどころか大ファンだった。

 ただしシェムナが持っているグッズの類はプライドが邪魔をして身に着けていない。

 ミーハーな少女達と同じと思われるのが嫌だった。いわゆる隠れファンで、これはアルマとシェムナにも言ってない。


「あ、あなたは銀星ですね! 助けにいていただいたんですか?」

(うん。だから安心して)


 アルマは心の中で答えるが当然、クラリスには届かない。

 クラリスとシェムナが一転してはしゃいだところを見て、ヘリオが憎々しく銀星となったアルマを睨んだ。


「へぇ、まさかこんなところにまで現れるなんてな。噂以上に変な格好をしてやがるな」

(え? 変な格好なの?)

「魔道士のくせに無駄なものばっかりジャラジャラとつけているな。だけど、そういう奴は大体が三流だ」

(無駄じゃないんだけどなぁ)

「見た目でびびらせて、格好ばかり気にする。中には補助の魔道具なんてのも使ってる奴がいるがな。そんなザコは大体死ぬ」

(なんかそういうデータあるんですか?)


 アルマが心の中で突っ込むが、傍から見ればヘリオだけが一人で喋っている。

 クラリス達はアルマが言葉を発さないので、ヘリオが相手にされていないように見えた。

 少し前までは絶望を感じていたが、今は笑いがこみあげてきている。無視されているヘリオが滑稽でたまらなかった。


「ぷぷっ、あいつって相手にされてないんじゃ? なんか、おもしろっ!」

「シェ、シェムナさん! わ、笑ってはいけませんよ……ぷっ」


 クラリスとシェムナに加えて、一向に言葉を発さないアルマだ。

 ヘリオは自分が舐められていると感じて、片手から炎を放出させる。これに反応したのは手下の二人だ。


「ヘ、ヘリオ様がキレた……」

「アレを使うつもりだ……」

(あの炎の縄みたいなのが本気の魔法?)


 ヘリオの片手から炎の鞭状の魔法が放たれて、周囲を威嚇するように回転する。

 ヘリオの中心から巻き付くようにした炎の鞭の先端が変化して、竜の頭となった。


「で、出た! ヘリオ様のドラゴンフレイム! その形状はまるで火口から頭をもたげた火竜のよう……」

(ドラゴンフレイムね、わかる。逆にするとかっこいいよね)

「あれは術戦で一度も破られたことがない……。いくら銀星でもこれは死んだな」

(そんなに?)


 アルマの感想をよそに、ヘリオのドラゴンフレイムが渦をまくようにしてアルマに襲いかかる。

 熱気をふりまきながら、ドラゴンフレイムがアルマを縛るように巻き付いた。


「ハハハハハッ! 息もできないだろう! これが俺のドラゴンフレイムだ! ものの数秒でお前は焼き消え……」


 ヘリオの高笑いの直後、ドラゴンフレイムは弾けて消えた。

 魔法障壁ではない。ヘリオが無駄と言い切ったアルマの装備には魔法耐性が施されている。

 アルマの少量の魔力を増幅させて、耐魔法の魔力に変換。そしてコーディングしていた。

 つまり魔法障壁を展開させるまでもない相手だ。アルマ自身もヘリオに対して、そう感じている。


(これが二年生のトップ?)


 ドラゴンフレイムが消えたところで、ヘリオが棒立ち状態だ。信じられないといった表情で口を半開きにしていた。

 その様子を見たアルマは、ヘリオがすでに手を出し尽くしたと判断する。

 アルマはヘリオの実力が気になっていただけに、やや落胆した。


「は? へ? あ? なんで?」

(魔力の練りが甘い……。細い形状の中でも熱が分散されている。ドラゴンフレイムなんて恰好つけて実用性から遠のいてるから、あなたも人のこと言えないよ)

「も、もう一回だ!」

(えぇ?)


 ヘリオは再びドラゴンフレイムを放った。今度は先ほどよりも太いが結果は変わらない。

 フレイムドラゴンが再び飛散するようにして消滅した。

 アルマはガッカリしているが、ヘリオは決して弱くない。ただしあくまで彼は魔道士見習い、学生という枠組みで評価されている身だ。

 ドラゴンフレイムも学生のレベルというだけで、練ればそれなりの魔法となる。

 しかしヘリオは増長して研磨を怠った。発展途上の学生が、国内最強と噂されている銀星の魔道士に敵うはずがないのは道理だ。


「ヘ、ヘリオ様の、ドラゴン、フ、フレイムが……」

「に、逃げろ! 勝てるわけねぇ!」


 手下の二人はヘリオを置いて逃げようとするがアルマが立ちふさがった。手下達は両手をあげて降参のポーズを取る。


「ま、まいった! 俺はヘリオとデーオに騙さていただけなんだ!」

(デーオって? あぁ、こっちの手下の名前か)

「はぁ!? 一番最初にヘリオに媚び売ったのはグレイル! お前じゃねえか! 従っておけば将来安泰だなんてぬかしやがって!」

(シンプルにどうでもいい)

「あぁ!? デーオ、てめぇだっておいしい思いしただろうが! 今更、お前だけ助かろうなんて汚い野郎だな!」

(少し前の自分の発言とか見直そうか)


 アルマはため息を堪えた。自分達こそが強いと粋がっていたものの、強い者の前ではあっさりと降伏。

 弱い者の前でしか強がれない彼らに魔道士など務まるとは思えず、両手に魔力を集中させた。

 それに気づいた手下の二人がみるみると青ざめていく。


「あ、いや、待ってくれ! 悪かった!」

「実は銀星の大ファンなんだ! サインくれ!」


 アルマは突っ込みを放棄して、二人に光を放った。

 レーザーが直撃した二人はヘリオの下まで吹っ飛ばされる。アルマが出力を抑えて手加減したおかげだ。

 気絶した二人がヘリオの足元に転がっている。


「ひぃっ! マジかよ! お、お前は俺みたいな学生にも手を出すのか!」

(学生だからって何でも許される風潮、好きじゃないなぁ)

「お、お、俺に何かあってみろ! うちは伯爵家だ! 国中、大騒ぎになるだろうな! そしてお前は総力を挙げた魔道士団に狙われる!」

(頼れる親がいながら、よくもまぁここまで……もういいや)


 アルマにとって両親とは期待をかけてくる存在だった。

 恵まれた環境であぐらをかいたヘリオにアルマが思うことは何もない。

 アルマが攻撃を止めないとわかると、ヘリオは尻餅をついた。恐怖のあまり、失禁して地面を濡らしている。


「おい! ウソだろ! やめてくれぇ! 悪かったよぉ!」


 魔力強化された銀の拳がヘリオの頬を打つ。


「ぐぎっ!?」


 アルマに殴り飛ばされたヘリオが奥の塀に激突した。大の字になって、だらしない姿でヘリオは気絶している。

 汚らわしいものに触れたとばかりにアルマは片手を振った。

 残ったのは気絶したヘリオ達、シェムナとクラリスだ。この後、どうするか。アルマはすでに手を打っている。


「あ、あの! ぎ、銀星だよね!」

「わわわ、わ、私、実はあなたの……あっ!」


 アルマは二人を無視して飛び立った。

 その後、現場に到着したのは教師達だ。アルマは事前に彼らに状況を伝えていた。

 やってきた教師達は状況を把握できず、残されているのは銀星を見送ってうっとりとしたシェムナとクラリスだ。

 

「これは一体……」

「ヘリオ達に何があった?」


 教師達は残されているシェムナとクラリスから事情を聞くことにした。

 その中にはメレヤもいて、飛び立つ銀星の姿を確認している。


「銀……星? まさか、こんなところでまた……」


 メレヤは三年前にあった出来事に思いをはせた。

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