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油断していると足元をすくわれる

 アルマ、シェムナ、クラリスの三人は行動を共にすることが多くなった。

 休み時間や食事の時などいつも一緒で、最初は堅かったクラリスも次第に口数が多くなる。

 ただし根は真面目で、シェムナが足を開いて座っている時などは厳しく注意した。


「シェムナさん! 足! はしたないですよ! それと靴を脱がないでください!」

「だってさー、スースーして気持ちいいじゃん。クラリスもやってみなよ」

「絶対に嫌です!」


 食堂でのいつもの日常だ。アルマは二人と過ごすこの時間がたまらなく好きだった。

 前世の学生時代、アルマに友達と呼べる人物はいなかった。近づいてくるのは宿題や課題を楽に片付けようとする生徒ばかりだ。

 そんな者達に最初こそ丁寧に教えていたアルマだが、彼らがほしいのは答えのみだ。

 そう気づいた時、アルマは事務的に教えることにした。意味を知らずに答えだけ知ったところで何の成長もないが、アルマの知ったところではなかった。

 どうせ適当にお礼を言った後はさっさと離れていくのだから。そんな前世と比べて今は違う。


「アルマー! この課題、ちょームズくない!? メレヤ先生ってぽけーっとしてる割にはきっついもん出してくるし!」

「うんうん。この魔術式の答えは」

「いやいやいや! いきなり答えとかないし!」

「あ、そうだよね……」


 シェムナは見た目と喋り方に反して勤勉だ。納得がいくまでアルマに教えてもらって確実にものにする。

 アルマは頭をかきながら問題を解くシェムナの姿を見るのが好きだった。その感覚が快感になってくれているか、などという希望もあるが。

 そんなアルマの視線に気づいて、やや気持ち悪がられるのも常だ。

 そして食堂でのひととき、これもアルマにとって学園生活における楽しみの一つだった。


「そういえばさー。二人は夏休みどうすんの?」

「私は帰省かな」

「クラリスは?」

「勉学一択です。皆さんが遊び惚けてる間に差をつけます」


 シェムナとしては遊びたかったようで、アルマとクラリスの返答にもどかしさを感じている。

 本音では三人で遊びたかったのだが二人の意思を無視するわけにいかず、へぇとだけ答えた。

 一方で長期の休みがあるなら両親に顔を見せないわけにはいかないとアルマは思う。

 学園生活のことを両親に話すという当たり前の経験すら彼女にはなかったのだから。


(友達ってこんな感じなんだ……。あ、でも向こうはそう思ってくれているかな?)


 アルマがシェムナとクラリスをちらりと見た時、その背後から三人の男子生徒が近づいてきた。


「おいおい、俺の特等席になんか座ってるわ」

「おい! 一年! ここはヘリオ様の特等席だ!」

「そうだ! 今すぐにどけ!」


 アルマが彼らを見ると、ヘリオと呼ばれた少年が舌打ちをした。

 三人組、態度が高圧的、謎の占有権を主張。このテンプレートな組み合わせで、まともな人間のはずがない。

 こんな展開が現実に起こるのかと、アルマは少しだけワクワクする。彼らの腕章は銀色であり、三人とも二年生だとわかった。

 彼らにもっとも早く嫌悪感を示したのはクラリスだ。


「特等席ですか? そのような制度は聞いていませんが、どういうことですか?」

「お前ら、一年だな。それなら教えてやる。こちらのヘリオ様は伯爵家のご子息であり、学園内での成績もトップクラス。つまり逆らわないほうが身のためだ」

「成績と特等席に何の関係が?」

「おい、ヘリオ様がキレないうちに言うことを聞いておけ」


 男子生徒の一人が、苛立ちを隠さないヘリオを指す。

 クラリスはため息を吐いて、シェムナは座ったまま睨み上げた。

 アルマとしては相手にする価値もないと思っており、どうやり過ごすかを考えている。

 チンピラの上級生をどうかわすか、アルマはこれすらも楽しもうとしていた。


「いいよ、クラリスとシェムナ。譲ろう」

「アルマ! 食堂の席は全生徒に平等に与えられていて、指定の席を取る制度はありません!」

「どこで食事をしても同じだよ。それにこんな人達のために感情を動かすこと自体が無駄だからね。あ……」


 アルマは口に手を当てた。トラブルに慣れていないということは失言もするということ。

 上級生としてのプライドを刺激されたヘリオが、アルマに顔を近づけた。


「一年、先輩としてアドバイスしてやる。快適な学園生活を送りたければ、上級生は敬え。以上だ。この後、お前がやることは?」

「失言しました。すみませんでした。席を譲ります」

「それでいい。だけどな、お前以外からの謝罪の言葉が聞こえないな」


 ヘリオはクラリスとシェムナを睨む。しかし二人の態度は変わらず、クラリスが立ち上がってヘリオと対峙した。


「非がないので謝る気はありません。それよりあなた達、大丈夫ですか?」

「あ? 何がだよ」

「あなたのような生徒がこの学園に在籍していることが信じられません。このことは先生達に話して問題にします」

「なるほどな。だけど、周りを見ろよ」


 食堂には多数の生徒がいるが、誰もが見て見ぬ振りをしている。

 極力、こちらを見ようとしない者。食事を早く済ませてそそくさと出ていく者。ヒソヒソと囁き合う者。クラリスはまだ理解できないが、アルマは察した。

 ヘリオは察しただろと言わんばかりに鼻で笑う。


「そういうことだ。俺の教師受けはいいし、生徒達もアレだ。成績トップで大手ギルドから声がかかっている二年生の俺と新入生のお前ら。教師はどっちを信じるだろうな?」

「更にヘリオ様は伯爵家のご子息だと言っただろ? それにヘリオ様のお父様はこの学園に多額の寄付をしている」

「ちょっとやそっとのことなんて誰も見向きもしないってわかっただろ?」


 ヘリオ達はニヤニヤと笑った。これで屈して従うだろうと三人は確信している。

 一方、アルマは様々な勝利ルートを模索していた。このまま従った振りをするか。

 口論で徹底して打ち負かすか。そうこうしているうちに教師が入ってきて、そうなれば一時的に収まる。

 色々と考えたものの、アルマは一つ試すことにした。

 

「シェムナ、クラリス。席を変えよう」

「ア、アルマさん!」

「だから時間の無駄だって。ね、いこいこ」

「アルマさん! ちょ、ちょっと!」


 アルマがシェムナとクラリスの背中を押して歩き始めた。

 ヘリオ達は三人をこのまま見逃すつもりはない。アルマ達に向かって歩き始めた時だった。


「うおぉっ!?」

「わぁっ!」

「ひぇっ!」


 ヘリオ達がそれぞれバランスを崩して転んでしまった。三人がそれぞれ尻餅をついている。

 アルマは大成功と心の中で舌を出す。彼女はヘリオ達の進行方向の床を魔法で水浸しにした後、凍らせていた。

 少量の水しか出せないアルマだが、三人を転ばせるなら最小の面積でいい。

 ピンポイントに彼らが床に足を乗せる直前、氷にした。そして彼らが転んだ後はすぐに消す。

 アルマの魔力コントロールが成せる小技だ。魔力が少なくてもやれることはあると自負していたアルマだが、通用するかどうかは未知だった。

 しかし今、ヘリオ達はまんまと引っかかってしまう。


(うーん……。こんなにうまくいくとは思わなかった。偉そうにするくらい強いなら、このくらいは回避するかなと思ったんだけどな)


 ヘリオ達が再び立ち上がった後の床は何の変哲もない。

 彼らはアルマに転ばされたことにすら気づいてなかった。


「な、なんだ、いきなり滑りやがったぞ……」

「この床が滑りやすかったのか……? いや、何もないな」

「いててて……」


 盛大に転んだせいで、ヘリオ達は一斉に注目を浴びた。

 情けない姿勢のまま硬直しており、次第に彼らは恥ずかしくなる。かすかにクスクスと笑い声が聞こえてくる始末だ。


「チッ……! 昼メシは後だ!」

「ヘ、ヘリオ様!?」


 怒りよりも羞恥心が勝ったヘリオ達はいたたまれなくなり、食堂から出ていく。

 三人がいなくなった後、食堂が笑い声で満たされた。


「ハハハハハッ! 今の見たか? ヘリオ達、なんであんなところで転んだんだよ!」

「なんかマヌケだったなぁ!」

「胸がスッとしたよ!」


 ヘリオ達がいかに嫌われているかがこの場に表れていた。

 クラリスとシェムナも彼らに何が起こったのか、まったく理解できていない。

 しかしアルマだけが澄ました顔で食事を続けていたので、なんとなく察した。

 シェムナはアルマの潜在的な恐ろしさを感じて、彼女を怒らせないようにしようと誓う。

 クラリスはそのやり口に物申したくなったものの、助けられた身なので心の中でアルマに礼を言った。

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