友達作りはきっかけが必要
夜の特訓以来、アルマはシェムナと行動を共にするようになった。
特訓の甲斐があって、次の実習ではクラスメイトを驚かせることに成功する。
「シェムナさん! 魔法のコントロールがうまくなりましたね!」
「これもせんせーの指導がいいからだし」
などと口にしながら、シェムナはアルマにウインクをした。
彼女が言うせんせーとは誰のことなのか。メレヤせんせーとは言ってない。二人のみぞ知るところだ。
シェムナをバカにしていたクラスメイトは今や完全に沈黙して、魔法のコントロールの腕すらシェムナに抜かれている。今では必死に練習するように心を入れ替えていた。
当のシェムナは彼らを気に掛けることがない。それよりもクラリスの件をどうしようかと悩んでいた。
そんな彼女は最初こそクラリスへの礼と謝罪を先延ばしにしていたが、アルマに説得されてようやく動く。
クラリスの席に行って直立不動からの一礼。
「自己紹介の時に寝てごめん! あと実習の時に庇ってくれてマジ感謝!」
早口で言い終えると、シェムナはアルマの手を引いて教室を出た。
反応する間もなかったクラリスは少しの間だけ呆然としていたが、クスリと笑う。
クラリスはシェムナが嫌いではない。彼女はあくまで正しいと思うことをしただけだ。
自分が間違っていた。そして正しいことを正しいと認識できる。
そんなシェムナにクラリスは好感を持った。しかし彼女もシェムナ同様、自分からなかなか接触することができない。
躾が厳しくて日頃から友達は選びなさいと教えられてきたせいで、いつしか他人と接触するのが慎重になってしまった。
幼い頃、一緒に遊んでいた友達がちょっとした悪戯をしたせいで引きはがされてしまったことがある。
悪戯を犯罪であるかのように諭されて、クラリス自身もそうであると信じて生きるようになった。
そんな両親に影響されて、彼女は術戦魔道士の道を志す。術戦魔道士となれば、今や誰もが憧れる秩序の番人だ。この道であれば両親を納得させられるだろうと考えたからだ。
クラリスが思った通り、両親は娘のエルティリア学園入りを認めた。
(悪は罰する。規律は絶対)
そう神経を尖らせてきたクラリスだが、シェムナは彼女に謝罪してきた。そして礼を言った。
規律は絶対などと思っていたクラリスも、シェムナの行動を見て考えを改め始める。
悪いことをしても、非を認められたのであればそれでいい。だとしたらそう悪い人間ではないと、クラリスは思う。
そして最近はそんなシェムナがアルマと行動を共にしているのを目にして、少しずつ心情の変化が生まれてきた。
(楽しそうだな……)
幼い頃に友達と引きはがされて以来、クラリスはそういったものに縁がない。
家にいた頃、窓の外を見れば遊んでいる子ども達がいる。しかし自分は友達を選ばなければいけなくて、また引きはがされるかもしれない。
そう思うと、目を逸らして勉強に打ち込むことを優先した。
授業終わりの休み時間、いつも教室を出ていくシェムナがアルマに大きな声で呼ぶ。
「おぃーっす! アルマ! メシにしよっ!」
クラスメイトはここ最近、何事かと驚く。
授業態度はまともなものの、基本的にクラスメイトと接触することがなかったシェムナが明るく振る舞っている。
不真面目な女というイメージを持っていたクラスメイトはあれこれと囁き合った。
アルマも不良の道に引きずり込まれた。アルマが実はいじめのターゲットにされている。
根も葉もない噂が生まれ始めた頃、またストッパーとなったのはクラリスだ。
「秩序を守る術戦魔道士を目指す人間が、真偽不明の情報を拡散していいんですか?」
ここはエルティリア学園。魔道士養成機関でもあるからこその説得力だった。
クラスメイトはクラリスを煙たがっているものの、正論なので言い返せない。
しかし中には次第に彼女の理屈にもっともだと頷く者が出始めた。
彼らもバカではないので、少しずつ認識を改め始める。
クラリスは今までのように、単に間違いを正しただけではない。明確に誰かを想って行動した。
クラスメイトが認識を改めるようになったが、クラリス自身はどこか満たされていない。
そんな日々の変化など知らず、アルマとシェムナは一緒に食事をしていた。
「うんうん。エルティリア日替わり定食は今日も絶品!」
「やっぱり一流の学校は食事も違うしー」
「魔道士たるもの、日常の食生活で体を作るのは基本だからね。学園の上の人達はその辺りをわかってる」
「もっとわかってくれたら今度はステーキとか食べたいんだけどなー」
などと他愛もない会話をしていた時、クラリスがシェムナの隣に座った。
シェムナはぎょっとしたが拒絶はしない。クラリスは一言も声を発さない。
(ダメよ、クラリス! せっかく勇気を出したんだから話しかけなきゃ!)
クラリスは心の中で自分を奮い立たせている。
そんな彼女の心情を察したわけではないが、シェムナはクラリスの定食を見て――。
「フォーク、忘れてるし」
「え……? あ、ほ、本当ですね」
「いいよ。アタシが取ってきてあげる」
クラリスの返答を待たずにシェムナがフォークを取ってきた。
フォークを手渡されたクラリスは気まずそうにして食事に手をつけない。
「あ、ありがと」
「クラリスって、しっかりそうに見えて意外とそーでもない?」
「……そうかもしれません」
「ま、いいじゃん。食べよ」
シェムナが豪快に食べ始めると、クラリスもようやく食事に手をつける。
もぐもぐとシェムナが頬張った後、フォークでクラリスを指した。
「クラリスさ。得意属性は何だっけ?」
「わ、私? えっと、雷かな……」
「そーなんだ! クラリスってやっぱり激しい性格ってわけ?」
「そんなことは……」
「適正の属性って意外とそういうのあるらしいよ?」
「初めて聞いた……」
それはアルマも初耳だった。だとすれば自分は熱くて水のように冷たく、地のように硬い。それでいて風のように、と考えたところで思考を止める。
前世でいうところの占いや血液型診断のようなものだろうと思った。シェムナがそういったものに興味を示していたところで違和感がない。むしろシェムナらしいと思った。
「アタシはそこのアルマのおかげでやっと水だってわかってさ。意外じゃん?」
「ど、どうしてそう思うのですか?」
「水って繊細で綺麗なイメージあるじゃん? アタシがそうとは思えなくてさー」
「そう、ですかね……」
少しぎこちないクラリスだが、次第に打ち解けていくのを感じていた。
シェムナが積極的に話を振ってくれるおかげで、家族以外とのコミュニケーションが足りないクラリスにとってはありがたい。
シェムナはクラリスやアルマが知らない話題を持っている。
流行りのファッション、流行りの店、スイーツなど。人気の魔道士の話となると、クラリスにスイッチが入った。
「今、激アツな魔道士って言ったらアレでしょ。銀星の魔道士」
「そうです! 突如として現れた謎の魔道士でその正体は不明! 流星のごとく出現しては去っていく! 使用する魔法は解明されていなくて、未知のものだと魔法学会では」
「……めっちゃ知ってんじゃん」
「あっ……」
クラリスが赤面して俯いて、シェムナがからかうようにケラケラと笑う。
アルマはこの話題に触れてほしくなかった。銀星と呼ばれる魔道士が自分であることはほぼ確信している。
クラスメイトの雑談でも度々名前が挙がって、様々な考察や意見が飛び交っていた。
銀星は何者か? 魔法の正体は? 国内でも最強では? という話が耳に入るたびに、アルマは複雑な心境だった。
銀星が認められるのはいいが、両親によれば魔道士としては認められない。囁かれている通り、未知の力などと思われているのであれば尚更だ。
今のアルマが目指すのは、あくまで正式に認められた魔道士であって銀星ではない。
ただし七年の年月が無駄かとなれば、そう思ってなかった。作り上げるまでに習得した技術や知識は間違いなく魔道士としてのアルマに活かされている。
「銀星ねー。そんなに強いならコソコソする必要ないじゃんって思うしー」
「ま、まぁ銀星にも事情があるんだよ。たぶん……」
「なんだろー? アルマはなんだと思う?」
「え、それは……。そーだね、家庭の事情とか?」
「あれだけ強いのに家族に黙ってるとかありえねー」
そこには複雑な事情があるんです、とアルマは心の中でシェムナに答えた。
銀星の話題がアルマの想像以上に広がっており、少なくとも在学中は銀星になるのをやめておこうと決める。
アイテムポーチの中にある圧縮した銀星セットをぎゅっと握りながら。
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